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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
31/112

諦観と怖気

部室棟に設けられた外階段から一階に降り、食堂の様子を確認する。


異常なし。


全面ガラス張りのお陰で、細部を観察するのに苦労はなかった。


この食堂に沿って北側へ、中庭という名目の広場へ向かう。


ひと際目を引く松の大木を筆頭に、数種の花壇、駐車スペースを擁した校内きっての広々とした空間だ。


ここも隈なく確認したが、特に異変は無い。


続けて各学年の教室、特別教室棟に体育館やプールも見て回ったが、それらしい成果を得るには至らなかった。


「どうしたもんかな……」


ひとまず中庭のベンチに腰掛けた私たちは、当面の疲労を癒やすことにした。


緊張感のなか歩き回ったもので、さすがに足が棒になっている。


人心地ついた所為(せい)か、思いがけず弱音が漏れた。


お手上げと言うにはまだ早い。 けれど、そう判断せざるを得ない時が近いのを、胸にひしひしと感じていた。


「しょうがねぇよ、相手がお化けじゃな……」


「ん………」


背もたれに身体をあずけ、真っ暗な校舎を見上げる。


思えば妙な塩梅だ。 お化けなんて、できれば遭遇したくない。


普通、多くの人がそう考えるだろう。 かく言う私も、平時ならその多数に賛成を唱える。


ばかりか、この探索を開始して間もない頃も、心のどこかで()だそんな風に思っていた節がある。


それが今は、こうしてお化けとの遭遇を熱望している。


まったく、身勝手な話だと思う。


「まだ初日だからね? そう簡単にはいかないと思う。やっぱり……」


「そう、だよね……」


今日が無理でも明日がある。 頭ではそう割り切っているつもりが、どうしても納得のいかない部分がある。


尻尾を掴めないまでも、なにか手掛かりを。 ほんの些細なことでもいい。 明日に繋がる何か──


「……見つけた」


その時、先頃から延々と押し黙っていた友人(ほのっち)が、不意に呟いた。


慌てて視線を引き戻した私は、彼女の横顔を見てぞっとした。


友達として恥ずべき所感だと思うが、一度揺さぶられた感情は振り子のようで、易々と収まるものじゃない。


幼なじみたちの様子はどうだろうか。 そちらに気を配る余裕が無い。


数年の時を経て、ようやく合点(がてん)がいった。


あの時、あの池で、モミジもといザリガメは、この眼を見てしまったのだろう。


「望月さん、近道とか分かります? あの場所」


彼女の声を受け、意識を返す。


いつもの友人(ほのっち)だ。


さっきのは見間違いかと疑う程度には、表情の切り替えが迅い。


ともかく、損ないがちな意気を整え、彼女が示す先に注意を向ける。


すぐに“おや?”と思った。


「え、あそこ……? あの教室?」


「ん。 教室かどうかは分からないけど、いますよ“お化け”」


「あの辺って……。だよな?」


同じく気付いた様子の幸介が、彼にしては珍しく神妙な面持ちで言った。


今件について、不躾にも対岸の火事を見るような思いが少なからずあったのは確かだと思う。


だから斯くも安易に、考えなしに動けた部分はある。


ところがこうして、自分の“生活圏”に侵入されてみて初めて、心の底から背筋の凍る思いがした。


彼女の指先が差し示す場所、それはちょうど2年2組の教室だった。

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