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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
25/112

頼みの綱

「大丈夫、大丈夫だよ? ごめんね、よく話してくれたね?」


一通り話し終えた女子生徒の肩は、小刻みに震えていた。


これを幼なじみ(タマちゃん)がそっと包み込んだところ、しゃくり上げるような嗚咽が聞こえてきた。


そういった体験をすれば、気弱になるのも無理はない。その心情は察するに余りある。


「無理して話してくれたんだね……。 ごめんね?」


背中をやんわりと(さす)る。 華奢(きゃしゃ)な背中だ。


「このこと、先生には?」


「ううん、伝えてないって」


「そっか………」


賢明な判断だと思う。


いつの世も、頭の固い大人はいるものだ。 変な顔をされるのがオチか、最悪この後の学校生活にも響きかねない。


逆に、もしも事態が大事になった場合も同じく、彼女の平穏が遠退くのは目に見えている。


「……なんで幸介も泣いてんの?」


「いや、(ちげ)ぇ………」


感受性の強い幼なじみはひとまず置いておくとして、頼られた私たちはどのように動くべきか。


お化けとやらの正体を突き止めるのは当然として、彼女のケアも必要だろう。


「お化けなんてね、すぐに撃退してあげるから! こう、バシッて! ね?」


「お化けって……、殴れるの……?」


「う……っ?」


やや空回り気味に落ち着かせようとする珠衣の配慮を、至極もっともな反応が()えなく粉砕した。


いまだ涙を両目いっぱいに溜めているが、この敏感な切り返しを見るに、そこまで深刻に考える必要はないか。


もちろん、臨床心理の分野には(とん)(うと)いので、早合点するわけにはいかないが。


「私たちが何とかするから、安心していいよ?」


「本当、ですか………?」


安請け合いというものは、正直に言って私の(がら)じゃない。


しかし、か弱い後輩にこうして頼られた以上、ひと肌脱がない訳にはいかないだろう。


何より、彼女の有様を見て行動を起こさないのは、人道に(もと)る気がしてならなかった。


「だからね、もう泣かないで? ほら、今度出るんでしょ? 朗読会。 大丈夫だから、切り替えよう」


「ん………」


男性は女の涙に弱いというが、それは女性(わたし)たちも同様なのである。


むしろ同じ精神構造をしている以上、その重みが手に取るように解ってしまう。


「すげぇよな。 朗読会ってこういうのだろ?」


「ぇ……? なんですか、それ………」


ともかく、問題解決を引き受けたからには、それなりの計画を立てないと。


お座なりでは済まされないし、失敗は許されない。


しかし、私たちに出来るのか?


()しんばお化けの正体を解明することが叶ったとして、根本の解決にはならないだろう。


“もう何の心配もないよ?”と、この女子生徒にきちんと明示するにはどうすれば良いか。


お化けを殴る。お化けを、殴る。


先ほど幼なじみが口走ったセリフを、心の中で反芻(はんすう)する。


すぐに思い至った。


そういった事が出来そうな知己(ちき)に、心当たりがある。


「………………」


ただ、ひとつだけ不安がある。


本当に、彼女に協力を仰いで良いものだろうか?


人ならざる身でありながら、なぜか日頃から“お化けが怖い”と明言する彼女である。


穂葉(あいつ)の“お化け怖い”な、饅頭怖いと(おんな)いだぜ? 意味的には』


いつぞやの事、他ならぬ彼女の実父が苦々しい口振りで唱えた言葉が、警告灯のように脳裏にチラついた。

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