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天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
21/112

梅雨の中休み


「2年2組の望月千妃さん。生徒会室まで来てください」


それはちょうど六月の半ば、梅雨のまっただ中であるにも関わらず、よく晴れた日のことだった。


午前中の授業を終え、幼なじみの幸介と弁当を(つつ)いていたところ、教室に備えつけのスピーカーが急にそんな事を(のたま)った。


昨今の事情から、都市部の学校ではこういった放送は控える傾向にあるという。


それはそうだ。みんながみんな、実名を全校生徒に宣伝されて喜ぶわけじゃない。


「おま……、また何かやったん?」


「いやたぶん無実だよ?」


「あー、いつものヤツ?」


「そうそう。困るよなホント」


眉を(ひそ)める幼なじみに対し、肩をすくめて応じる。


私個人のことなら別に構わないが、ここは望月家の名誉のために言わせてもらうと、これは確実にいつもの濡れ衣だ。


実際にやらかしたのは、ほんの数回ほど。それも1年の時の話である。


高校デビューではないが、我ながらすこし(はしゃ)ぎすぎたのだと思う。あの頃は若かった。


もちろん、誰かに迷惑をかけるような内容(もの)じゃない。


「同じく2年2組の多賀見幸介くん。生徒会室まで来てください」


程なく、スピーカーが今度は幼なじみを名指しした。


ゆっくりと昼食をとることも出来ないとは、何とも世知辛い。


「また何かやった?」


「いやぜったい無実だろ?」


「だよね? ホント困るよな」


窓の外を見ると、梅雨の直中(ただなか)に期せずして広がった青空をのぞむ事ができる。


夏の気配は近い。


ジメジメと長雨が続くこの時季は、どうしても多くの人から敬遠されがちな印象がある。


しかし考え方を変えれば、これもひとつの準備期間と呼べるのではないだろうか。


今年の夏をどうやって過ごすか。 屋内から紫陽花など眺めつつ、ゆっくりと計画を立てることができる。


「ちょっとゴメンね? これマイクは……。OK? オッケー?」


まして、今日はこの天気だ。 来るべき夏に対する期待を、否が応でも掻き立ててくれる。


ゆるい熱気を含んだ薫風(くんぷう)が、鼻先をふわりと掠めていった。


「二人とも早く来てください。1分以内に来ないと、二人の小っちゃな頃の話たくさんしちゃいますよ? すごく恥ずかしい(ヤツ)ですよ?」


途端、スピーカーが聞き慣れた声で恐ろしいことを宣った。


ご丁寧にも、“ごじゅーきゅー、ごじゅーはーち”などとカウントダウンが始まっている。


顔を見合わせた私たちは、兎にも角にも大慌てで教室を飛び出した。


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