表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天史拾遺長歌集  作者: d_d本舗
112/112

兆し

気がつくと、(わらべ)がこちらに注意深い視線をくれていた。


交霊(こうれい)じゃねぇな。 あっちの電波が届くわきゃ()え」


「は………?」


「子孫でもねぇ。 親父(オヤジ)(うち)ら以外の子はいなかった」


(いぶか)しげな表情で、まるでこちらを値踏(ねぶ)みするように、ジロジロと目を()らしている。


先の白昼夢(はくちゅうむ)が原因か。


少なくとも、彼の興味が史さんやほのっちの元から一旦(いったん)は離れたようで、ひとまず安堵(あんど)する。


あまりの危機的状況に、感覚がバグっていたのかも知れない。


宿命通(しゅくみょうつう)か? いや、どう見ても仙人にゃ見えねぇよな? お前さん、ホントに人間か?」


「う………?」


この窮地(きゅうち)を、どう切り抜ける?


いや、少しでも時間稼(じかんかせ)ぎを。


1分でも長く、彼の興味を引き付けておく事ができれば。


「まぁいいや。 身柄(ガラ)ひん()いて、とっくり改めさせてもらうぜ?」


ダメだこの子。 気が短すぎる。


一刀をくるりくるりと(もてあそ)びつつ、私たちの居る拝殿(はいでん)へと、童が歩みを寄せた。


「人間に決まってんだろ!?」


そこに、幸介の怒鳴(どな)(ごえ)が降って()いた。


やってから“しまった”と思ったのか、こちらに向けた背中に、わずかな狼狽(ろうばい)が見て取れた。


思えば、この幼なじみはこういう奴だった。


考えるよりも、まず動く。


そこに損得勘定(そんとくかんじょう)はない。


何事に対しても、ただ一生懸命にぶつかって行くのが彼だった。


だから、時には大きな壁に()ね返されることもあるし、坂道の途中で(うずくま)ることだってある。


「人間に、決まってんだろ……‥っ」


「あん? なんだてめぇは?」


でも、いつだって幸介は、すぐに立ち上がって走り出す。


どんなに(くじ)けようと、また顔を上げて、まっすぐに。


足元なんて確認しない。


ゆえに


「あんた、人間(ひと)は斬れねぇんだろ!?」


「あ………?」


そうとは知らず、平気で薄氷(はくひょう)を踏み抜いたり、地雷の上で飛び跳ねることが屡々(しばしば)あった。


これはもう、持って生まれた性分(しょうぶん)なので仕方がない。


彼を責めることなんて出来(でき)やしない。


私にしがみついたタマちゃんが、「バカぁ………」と(しぼ)り出すような声で(はっ)し、神楽鈴(かぐらすず)を構えた明戸さんが、「え?ウソだよね?」と青い顔をして(つぶや)いた。


「そうかよ………。 さすがに。 いやさすがに、あの野郎とツルんでるだけのこたぁあるぜ。 (きも)()わってやがる。 そこだけは認めてやらぁ」


「え? おう………」


“え?おう”じゃないんだわ。


愛すべきバカも、ここまで来るとさすがにフォローのしようが無い。


とにかく、なにか弁解の言葉を用立てようと、必死に胸中をひっくり返して模索(もさく)するも、間に合わない。


「斬れるか斬れねぇか、てめえで(はか)ってみんかいオラァ!!!」


「え、ちょ………っ!?」


一刀を振りかざした(わらべ)が、幸介の身柄(みがら)に飛び掛かろうとした矢先のことだった。


弾丸のように飛来した銀光が、幼気(いたいけ)(よこ)(つら)に衝突し、派手に火花を咲かせた。


甲高(かんだか)噪音(そうおん)と共に、大きくバウンドしたそれは、やがて欄干(らんかん)架木(ほこぎ)にざっくりと切れ込んだ。


定寸(じょうすん)よりも、やや寸法の(かさ)む美刀。


先の衝撃が元で、全身にビィィィンと(こま)かな動揺を(きた)している。


恐らく、結桜(ゆら)ちゃんの得物(えもの)だ。


「小娘ぇ………」


横合いをジロリと(さいな)んだ童は、途端(とたん)に目を大きく見開いた。


機敏(きびん)に“自分”を操作し、頭上から襲い来る豪壮(ごうそう)(やいば)を、ガッシリと受け止める。


()(そん)じた緋々色(ひひいろ)小片(しょうへん)が、丸餅(まるもち)のような(ほほ)(かす)めていった。


「用は()ぇっつったよな………っ?」


「………………っ」


歯噛(はが)みして不平を鳴らす童に対し、眉根(まゆね)を寄せた友人は、手の小刀(しょうとう)をグイグイと押し込み、無言の圧力を加えた。


片手打ちに特化(とっか)した兵具(ひょうぐ)とは言え、(かさね)厚く身幅(みはば)広く、一種の鉄塊(てっかい)を思わせるほのっちの愛刀である。


そこに当人の並外(なみはず)れた膂力(りょりょく)も加われば、そのプレッシャーが如何(いか)に過酷なものか、容易に想像がつく。


しかし、これに()(こう)から対する童は、恐るべき体幹(たいかん)で直立を(たも)ったまま、1ミリも退()かず、膝を(くっ)しようともしない。


ただ、すべての重圧を引き受けた木履(ぽっくり)が、短冊状(たんざくじょう)の板材を(もち)いた簀子縁(すのこえん)に、ミシミシと音を立てて沈下(ちんか)を始めていた。


「ち………っ!」


このままでは、体格差の不利がより明確になると判断したのか。 童が臨機(りんき)窮策(きゅうさく)に踏み切った。


柄前(つかまえ)をとる両腕の張力(ちょうりょく)を、(かす)かに弛緩(しかん)させると同時、わが身を横合いにふらりと逃がす。


それでも不足と見るや、間髪(かんはつ)()れず“(おのれ)”の(しのぎ)掌底(しょうてい)を打ち込み、拮抗(きっこう)する二口(ふたふり)(やいば)を、外側へ(はじ)き出した。


ほのっちの体躯(たいく)がわずかに揺らぐ一方、窮策(きゅうさく)(あお)りを食った矮躯(わいく)は、体勢の取り留めが()かず。


石段の中途(ちゅうと)に膝をつく不体裁(ふていさい)をさらした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ