謎の少女と禁域
近未来の東京。謎のエネルギー「アーク」が暴走し、怪物「ダーク」が現れるようになった。平凡な大学生だった釘宮駿は、亡き父が遺した刀「機巧刀」の力を覚醒させ、ダークと戦う運命を背負うことになる。
燃え上がる刃で東京を救え――「東京イグニスト」、運命と覚醒の物語が今、動き出す。
釘宮駿は、昨夜の出来事で頭の中をぐるぐる回りながら大学に向かっていた。
父の遺した「機巧刀」、そして黒い怪物――ダーク。
まるで現実とは思えない悪夢のような戦いだったが、
駿が斬り倒したあの怪物の存在は確かに現実のものだった。
「なんで俺が……こんなことに巻き込まれてるんだ?」
自問自答しても答えは出ない。父の遺言や、刀が持つ力、そのすべてが謎のままだ。ただ一つ、駿に確信があったのは、自分がこれまでとは全く違う世界に足を踏み入れてしまったということだ。
大学の校門をくぐり、キャンパスを歩いていると、
目の前に同級生の泰川かなが飛び出してきた。いつも明るい笑顔で、まっすぐに駿に向かってくる。
「おはよう、駿くん! 昨日の夜、どうだった?」
突然の質問に、駿は動揺した。どうして泰川がそんなことを知っている?
昨夜のことは誰にも見られていないはずだ。
「え? 何も……」
「うそ! とぼけないでよ、見ちゃったんだから。駿くんがあのダークって化け物を斬ってるところ!」
軽い調子で笑いながら言う泰川の言葉に、駿は驚きを隠せなかった。
まさか見られていたのか。いや、それ以上に――泰川は「ダーク」のことを知っている?
「お前、何でそんなことを……」
「ふふ、駿くんの刀、機巧刀って言うんでしょ? それに、あの化け物、ダーク。全部知ってるよ」
泰川は、いつもと変わらない無邪気な笑みを浮かべながら、
そう告げた。駿は不安を感じながらも、泰川が嘘をついていないことを直感で感じ取った。
「泰川、どうしてそんなことを……」
駿が問い詰めようとしたその時、泰川は腕を組んで少し前かがみになり、駿の顔を覗き込む。
「駿くんね、すごく頼りになるんだよ。あんな危ないことがあっても、駿くんがいれば何とかなる気がする。」
その言葉に、駿は妙な違和感を覚えた。
「どういうことだ? 」
泰川は何かを隠しているかのような視線を一瞬だけ見せた。
「ま、詳しいことはおいおい話すよ。それより今は、すぐにでも駿くんの力を試してみたいんだ」
「試すって……どういうことだよ?」
「実はね、駿くんの力が本当に役立つかどうか、もう一回見てみたいの。だから、一緒に来てほしい場所があるんだよ!」
泰川の強引な提案に、駿は半ば押し流されるようにして話に乗ってしまった。
夕方、駿とかなは東京の外れにある「禁域」と呼ばれる場所にやってきた。ここは都市の一部が崩壊し、立ち入り禁止区域に指定された廃墟だ。ダークが頻繁に出現するという噂がある危険地帯であり、まさに「禁域」という言葉がぴったりの場所だった。
「ここが禁域か……」
駿はその異様な雰囲気に圧倒されながらも、慎重に周囲を見回す。建物の一部が崩れ、ひび割れたコンクリートの間からは不気味な霧が漂っている。まるで、この場所が死んでしまったかのような感覚を覚える。
「そう、ここにはアークが集まってる。だから、ダークも頻繁に現れるってわけ」
泰川は軽い調子でそう説明するが、その言葉とは裏腹に、彼女の目は鋭く周囲を見渡している。彼女もまた、ここが危険な場所だと感じ取っているのだろう。
「それで……ここで俺に何をさせたいんだ?」
駿が問いかけると、かなはにっこりと笑って答える。
「簡単だよ。駿くんの力をもう一度試してみたいんだ。さっきも言ったでしょ? 駿くんがいれば、ダークを倒せるんだから」
「そんなこと、簡単に言うなよ……」
駿は不安を感じつつも、手に持った機巧刀の重みを感じながら覚悟を決めた。もし、ここで再びダークが現れるなら――自分が倒すしかない。
そして、その時はすぐに訪れた。空気が急に冷たくなり、辺りの霧が濃くなっていく。まるで何かが近づいてくるような不気味な気配が広がった。
「来るよ……!」
泰川が鋭い声で警告した瞬間、突然空間が歪み、巨大な黒い影が現れた。ダークだ。渦巻く霧のような体が不気味に蠢きながら、ゆっくりと二人に迫ってくる。
「また、こいつか……!」
駿はすぐに機巧刀を抜き、ダークに向かって走り出した。昨夜の戦いが頭をよぎり、あの時と同じように刀を握りしめる。だが、ダークは素早く動き、駿の一撃をかわした。
「ちっ……!」
駿が再び斬りかかろうとしたその時、ダークが突然逆襲に出た。鋭い衝撃波を放って駿を吹き飛ばそうとする。だが、駿は咄嗟に身をかがめてその攻撃をかわし、逆に隙を突いてダークに突撃した。
「そこだっ……!」
鋭い一閃がダークの体を裂き、断末魔のような声を上げてその体が霧となって消えていった。駿は大きく息を吐き、刀を収めようとしたその瞬間――
「駿くん、危ない!!」
泰川の叫びが耳に届いた。振り返ると、もう一体のダークが不意打ちで襲いかかってきていた。
駿の背後から鋭い爪が迫り、反応する間もなく――
第3話へ続く