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その手

作者: 古家  雅

「葵、よく聞きなさい。手はね、人の年見せるのよ。」昔、おばあちゃんが言った。


「年?」


「えぇ。見た目はいくらだって騙せるけれど手を騙す術は隠すことしかないのよ。」


「そうなんだ…。」別にこれと言った返しができないから聞いてないかのような返事をする。こういうときどうやって話を広げればよいのか今でもよくわからない。



時が立ち、五歳だった私は高校生になった。おばあちゃんが言ってた意味がよくわかったのは高校生になってからだ。


「ねぇねぇ、やっぱ江田先生ってめっちゃかっこいいよね。あれで35歳とか想像できないんだけど。」私の友達の咲が私に期待を込めた言葉を放つ。きっと彼女は「恋人になれないかな?」なんて幻想を考えているのだろう。確かに江田先生は若く見える。目元はキリッとしていて仕草は一つ一つかっこいい。でもやはり手には年季が入っていた。少しシワの入った手。それでもきっと彼のファンは大人っぽい手も魅力的!と言うのだろう。


「そうだね。」と、私は適当にあしらう。


「いやぁー葵は江田先生の良さがわかってない!あんなかっこいいのに好きにならないとか…!」咲が目をハートにしていう。


「別に好きにならなくていいでしょ。てか私が好きになったらライバル増えるんじゃないの?」


「それは…そうだね。」


「はぁ、まぁいいや。私トイレ行ってくる。」そう言い私が立ち上がると咲が私を止めた。


「手袋持ってきな。寒いぞ〜!」それもそうだ。



今は真冬の12月。もうすぐ冬休みに入る最近は本当に寒い。部屋は暖房が効いててまだ温かいが部屋を出た瞬間別世界にいるんじゃないかと錯覚するほど寒くなる。私は咲の忠告を素直に聞いて手袋をつけてトイレへと向かった。この学校は結構ボロい。たくさんのテープが剥がされたあととホッチキスの跡がある。トイレの入り口にもその跡がついており、ボロさが際立つ。


トイレには私と同い年であろう子がぽつんと一人いた。トイレは3つあったけれど2つとも空いていてなんでその子がいるのかがわからなかった。


「えっと、並んでますか?」


「いえ、並んでません。すみません、ここ落ち着くんですよ。」


「そうですか。」そう言い、私は用を終えるとそのまま外へ出た。


不思議な子だな…トイレが落ち着くなんて。まぁ私も小さい頃押し入れを気にってずっと入っていた時期があったな…。それと同じ心理なのだろうか。



次の日またトイレへ行くとトイレが落ち着くと言った彼女がいた。


「あ、また会いましたね。」彼女が話しかける。


「あ、はい。」



「寒いから手袋必須ですよね。」と手袋を見せてきた。可愛らしい手袋だ。


「わかります。手袋つけなきゃ手が凍っちゃう…。」私も手袋を見せる。


「ふふふ。」


私はトイレを済ますと軽く彼女に会釈をして外へ出た。



不思議な関係がそれから続いた。トイレに行くと彼女がいて世間話をしてトイレを済ますと軽くお辞儀をして外へ出る。そんな関係が続いた。その関係は冬休みが終わってもなお続いていた。


「もうすぐ冬終わりますね。」


「もう明日で3月ですしね。手袋ももういりませんね。最近は少し暑くて取ろうか迷うんですよ…明日は温かいらしから持ってかなくてもいいかもしれません。」


「ですね。」世間話はここで途切れ私はトイレを済ませ、また軽くお辞儀をしてトイレをあとにした。



次の日私がトイレへ行くと彼女がこっちを向いてうでを後ろに回して立っていた。


「こんにちは。手袋を持って来ないことにしました。今日は暖かいですね。」私が話しかける


「そうだね。」今日はそっけない返事だ。


まぁそういう日もあるかと思い彼女の横を通り過ぎた。通り過ぎたときにとあるものが見えた。


手だ。


しわくちゃで肌が顔とまるで違う色をしていてシミもたくさんあった。見た目とは裏腹のしわしわな手が彼女の後ろに隠されていた。いつもは手袋をしていて気づかなかった。私は逃げ出そうかと思った。直感的に今気づいた。彼女は…これはきっと人間じゃない。きっと妖怪とか化け物とか幽霊とかそういうたぐいのなにかだ。その事実に気づいた途端、体が急激に重くなった。今まで、今まで感じなかった恐怖が一気に私に振りかかった。足が重くて動かない。呼吸が浅くて頭がくらくらする。手が震えて、体が震えてたまらない。そのとき最初に合ったときの言葉を思い出した。


『寒いから手袋必須ですよね。』


危害を加えるならいつでも加えられた。手を隠したければ春でも夏でも手袋をつけて隠せばよかった。でもそれをしなかった。彼女は話し相手になってくれた。話してくれた。そうだ。そうだ。口から飛び出そうだった心臓の鼓動は収まり、怖さから来た寒さは体の春の暖かさがのっとった。私はそのままトイレを済ませ、会釈をしていつもどおり外へ出た。

「ありがとう」と聞こえた気がしてまた心臓が飛び出しそうになった直後、聞き慣れた声が聞こえた。


「あれ?!葵?!」咲がトイレから出た私を指差す。


「咲?どうしたの?」


「ここのトイレ行ってたの?!」


「そうだけど?」


「ここ立入禁止の場所だよ?」


「え?」


「うわ、立入禁止のテープなくなってる…水は使えたんだ。なんかここよくわからないけど立入禁止ってまえ部活の先輩が言ってた。」


「そ、そうなんだ。」


「もう使わないほうがいいよ。てか葵以外使ってなかったんじゃないの?」

よくよく考えてみると私達の学校は小さな学校だ。一回もトイレ以外で「彼女」を見かけたことがなかった。本当に幽霊かそういうたぐいだったのかな。


次の日から私はもうそのトイレを使わないことにした。けれど私がいなかったら一人なのかという事実に私は少し心が傷んでいた。その罪悪感を消すべく、夏に入った頃、私は百均で手を隠せて暑くてもつけれる手袋を買い、トイレの前においた。


「え、なんで?え?」案の定咲はめちゃくちゃ困惑していた。でも私はあの話を話すのは少しめんどくさくて


「ほら、女の子っていつでも若作りしたくない?」と答えた。


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