硝煙とコーヒー
お待たせしました。
カフェ「龍の巣」に武器の製造を依頼した次の日。サッチャーは前回の反省を踏まえ、夕方にやってきた。
木製の両開きのドアを開けて店内に入る。
「いらっしゃいませー!んん?師匠ーこの人って」
「…おや、来てくれたのか。今日は何を飲むんだい?」
「あ、えっと。昨日と同じ物って…お願い出来ますか?」
昨日はいなかった黒髪の少女がエプロンを着けてカウンターに立っている。どうやらシャドウとは師弟関係の様だ。
しかし、店内を見渡すと確かに客は多いが、シャドウの姿が見えない。
「カウンター席空いてますよー。えーっと、エスプレッソとバニラクッキーの方ー」
カウンター席に座り、コーヒーを待つ。その間に昨日は見なかった少女に質問をする。
「あの、シャドウさんって…」
「師匠の事ー?あー、なんか『あ“ー!!アイディアが降って来た!我らが恵!』って叫んで奥に篭りっきりになっちゃって」
「そうだったんですか…そういえば、えっとあなたの名前は」
「私?あはは、ミラって呼んでくれると嬉しいな、なーんて。…もしかして私の事、知ってる?」
知っているも何も、ミラさんはあの精鋭隊の狙撃班のエース。初代隊長であり龍王のナイトメアさんに育てられた私と同じ「元」人間。
ジルコニアにいる元人間の者であれば誰もが知っているであろう人の名前だ。そして恐らく、シャドウのアイディアは私の武器の事…だと嬉しいな。
「はーい、サッチャーちゃんの昨日頼んだのと同じやつです。あ、そうだ。師匠!」
どうして私の名前を知っているのか、と言う質問は昨日と同じ様に置かれたコーヒーを手に取り、共に飲み込む。ミラさんはシャドウに声を掛けながら奥に行ってしまった。すると、作業中の筈のシャドウを引きずって戻ってきた。
「あれ?シャドウ…さん?忙しいんじゃ」
「ミラ…またか?またなのか?!あー、Блят‼︎(クソ‼︎)作業もできやしねぇ!」
シャドウがあんなに乱暴に悪態を吐くのは初めて見る。驚いている私の事をミラさんは少し申し訳そうに笑いながら流し見た。
そのまま、ミラさんは店内に見える様にジェスチャーをした。精鋭隊や先鋒部隊、ギルドに所属している者なら誰でも分かる簡単なジェスチャー。
意味は、戦闘準備。
「やっとか!店長の名物が見れるぞ!」
「はいはい、お待たせして申し訳ありませんねぇ?こっちは見せる度に修理代金が嵩む嵩む」
私は気付かれない様に腰のハンドガンに手を伸ばすと、昨日も店にいた初老の老人に手を抑えられた。ゆっくりと首を横に振り、不敵に微笑む彼は歴戦の風格があった。
仕方ないのでそのままコーヒーを飲む事にした。
「全員動くな!両手を挙げて床に這いつくばれ!」
「Блят.強盗ですか、世も末ですね」
「おい!そこの白髪!金出せ!全部だ!」
「あぁ…出来れば動かない方が良かったんだけどなぁ…これじゃあ、いや、それもいいか」
店に入って来たのは覆面の3人組。ショットガンやアサルトライフルで武装している。
ミラさんの獲物はスナイパーライフル。こんな室内で撃とうものなら周りの人まで巻き込んでしまう。私はシャドウの実力が分からないがこの場の空気は何か緩んでいる。
(何でそんなに落ち着いていられるの?シャドウさん、あなたの前にあるのは銃口ですよ?!)
そんな私の不安を拭う様に動いたのはシャドウ。カウンターを飛び越え、ドロップキックをカウンターの近くに居た1人に仕掛ける。
倒れた人に覆い被さり、足と手で武装解除をして、いつのまにか手に握られていたハンドガンを2発撃った。恐らく頭に当たったであろう2人が絶命する。
「師匠、大丈夫ですか?」
「Без проблем.(問題ない)…で?貧弱そうな奴だと思ったから俺らの方に来て返り討ちにあった感想は?」
「ぐっ…お前ッ!」
「残念ながら、ここはジルコニアの精鋭隊御抱えのカフェなんだ。文句なら俺の同僚だった龍王に言ってきな」
そう言ってシャドウは残った1人にも銃弾を撃ち込む。…無慈悲だ。
そのまま、死体を引き摺って外に出て行ったシャドウを尻目に私は恐怖心を抑えながら、コーヒーを飲み切って帰る事にした。
「また来てくださいねー!」
今度来る時までに心を強くしておかないと耐えきれなさそうだ。
帰路に着く途中、思い出した事が1つあった。
「しまった…昨日も今日も情報を掴めて無い…」
次回の更新も遅くなりそうです。