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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
一章 イレギュラー【英雄無きアルスター】
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6話 探索者試験

前回のあらすじ

・姉のサツキが意識不明の重体になる

・二等級ポーションがあれば、何とかなる……?

・ユウキ「……探索者になって、ポーションを、探す。」

 病院の売店でゼリー飲料とサンドウィッチを購入したユウキは、それをすぐに食べてから、一日ぶりに下宿先の部屋に戻った。

 部屋は、昨日きたときのままだ。食料品と荷物と、壁に傷があるだけ。今は空腹ではなかったが、この後、ろくに食事をとれるような気がしなかったため、ユウキはすぐに手を洗うと、炊飯器で5合の米をセットし、通学用のカバンから勉強用のタブレットを引っ張り出す。ノート代わりに使うため、両手で持つくらいの少し大きめのタブレットだ。


 そして、探索者資格試験のページを開き、最後のURLからホームページに飛んだ。ありふれたフォーマットのホームページの一番上、新規探索者資格試験の文字をタップし、そのまま情報を打ち込んでいく。最後にペンを使って自分のサインをかき、申し込みを完了した。


 五級探索者資格は、筆記試験だけの代わりに探索者研修への参加が義務付けられている。それ以降の級は、基本的に実技試験も必要となってくる。

 まじめに勉強すれば、筆記試験は間違いなく合格できる。ただ、ユウキは、二等級ポーションを獲得するために、最低体でも二級資格を取っておきたかった。

 二等級ポーションは二級ダンジョンに入ったからといってやすやすと手に入るものではない。基本的に今までの発見例も、一級ダンジョンや特級ダンジョンがほとんどである。


 だがしかし、特二級ダンジョンなら、難易度的にはほぼ一級ダンジョンとそん色ないため、二級ポーションが出てくる可能性があった。


「最短で二級になるにはどうすれば良い……?」


 五級試験の申し込みはもう終わった。問題は、その後の昇級試験である。

 五級自体は難易度も自動車免許よりも簡単などと言われているほどである。勉強さえすればまず落ちることはなく、その後は研修と説明会に参加すれば資格は手に入る。


 四級は期間内に5か所のダンジョンの完全攻略をすることと、指定された特五級ダンジョンのクリア、筆記試験、そして実技試験だ。

 筆記試験は五級試験に毛が生えたようなもので、問題は特五級ダンジョンのクリアと実技試験である。


「指定された特五級ダンジョンは、近隣だと【はなさかじいさん】と【アリババ】……アリババは難易度が高いことで有名……連続で対人戦になる場合があるため、装備を整えてはなさかじいさんをクリアしたほうが良い……なるほど」


 はなさかじいさんは道中に害虫と怨霊が沸き、ボスは意地悪爺さん。害虫は刺されても死ぬほどの毒ではないが、中には装備不足で挑んでアナフィラキシーショック状態に陥った人もいるという。防虫装備をしてから挑んだ方が吉だろう。


 三級は期間内に10か所のダンジョンの完全攻略と、特4級ダンジョンのクリア、筆記試験、実技試験。

 期間内のダンジョン攻略数は等級が増すごとに増えていき、二級に至っては15か所である。東京都内には10か所のダンジョンしかないため、県外遠征を余儀なくされるだろう。


 つまり、5級に合格したら、研修を終え次第すぐに探索できるダンジョンの選定と攻略、装備の準備が必要となる。そして、ダンジョン攻略もただではできない。


「入場料がいくらになるんだ、コレ……」


 ユウキは頭を抱えて東京都内にあるダンジョンを調べていく。

 ダンジョンは内部で入手したものに関しては税金がかけられないものの、等級や内部で入手できるものに比例した入場料を支払わなければならない。

 流石に準5級はろくなものが取れないということで一律5000円ほどで探索可能だ。もちろん、その分収益も見込めないのだが。


 魔石の買取価格はそこそこ高い。だがしかし、事前にきちんと調べておかなければ、どこに魔石があるかわからないうえに、間違った装備で挑めば死の危険も付きまとう。

 ユウキはタブレットとにらみ合いをしながら、小さく息をついて、一度席を立つと部屋の隅に置きっぱなしだった、まだ明けていない段ボールに近づく。そして、バリバリとテープを引きはがすと、中からルーズリーフの束を取り出す。


 普段はタブレットでノートをとっているが、それでも、しっかりと勉強したいときは紙を使うことが多かった。ペーパーレス化のこの時代、もはやルーズリーフは相当な古物であり、この紙の束も閉まる文房具屋から箱で安く買い取ったものだった。


 シャープペンシルを取り出し、ユウキはこれからすべきことを紙に書きだしていく。


「まずは、諸経費の計算。必要な金額だけは知っていないと困る。次に、研修後に探索するダンジョンの選定。活動が安定したら、召喚獣も欲しいけど……しばらくはソロかな」


 世知辛いことに、召喚獣も手に入れると税金が発生する。召喚獣自体はそもそも食事を必要としないらしいが、それでも協力してもらえなければ意味がないため、召喚獣の要求を満たせる程度の財力は必要になってくる。それプラス、税金だ。


 適当なサイトを見てみれば、年に最低40万前後は必要とされている。さらに人型の召喚獣となれば、費用は跳ね上がるはずだ。しょっぱなから召喚獣を獲得するのは流石に無茶が過ぎるだろう。

 武器にしても、銃刀法を超越するものは特別な手続きが必要だし、税金もかかる。


「最初の武器は、探索者協会で売ってる届け出不要のナイフでいいか……フリマアプリで安く売ってるし……」


 ある程度きちんとした装備も欲しいところだが、それ以上に用意できる金が足りていない。ダンジョン探索で利益を生むには、それ相応の実力や物資、それに運が必要なのである。

 経費計算、届け出、税金処理……考えるときりがない。そして、結局のところ、今できることは一つだ。


「体力づくり、しなくちゃだなぁ……」


 万年体育の成績だけはとことん悪かったユウキは、筋肉の付いていない己の腕を見て、肩をすくめた。





 試験申し込みから、早くも3週間が過ぎた。

 新たな学校には慣れたが、結局休み時間は探索者資格の資格試験につぎ込んだため、友達はできなかった。部活動で探索者をしている学校もあるらしいが、残念なことに杉浦学園には探索部は存在しない。


 日課の、下宿先【メゾン ラローズ】の清掃作業を終えるころ、ユウキはふと、タブレットが短く震えたことに気が付いた。

 電源を入れてみてみれば、メールボックスに新たな着信が来ている。ユウキは小さく息を飲む。そう言えば、試験の結果発表は、今日だったはずだ。

 震える指先でメールボックスのアプリをタップする。緊張でうまくタブレットが操れず、2、3回失敗してから、ついにアプリは起動した。


「広告、広告、学校から、広告、学校から……あった、探索者協会……!」


 広告を容赦なくゴミ箱にうつし、ついに見つけた探索者協会の文字。ユウキは、少しだけ緊張をしながら、新着のメッセージを開く。そして、小さくガッツポーズをした。


「やった、5級優良判定……!」


 きゅっと拳を握り締め、ユウキは喜びをかみしめた。

 こうして彼は、探索者としての第一歩を踏み出したのである。




 東京都第二新宿区三十八番地。ビルの立ち並ぶこの繁華街には、時折物々しい装備をした人々が楽しそうに通り抜ける。

 それもそのはず、2000年7月、旧新宿区だったこの街には突如として日本第一号ダンジョン、【ヤマタノオロチ】が現れたのだ。たくさんの探索者たちは、ダンジョン【ヤマタノオロチ】を探索するために集まり、明るくしゃべり、楽しんでいるのだ。


 【ヤマタノオロチ】は準三級ダンジョンであり、ボスである八岐大蛇(ヤマタノオロチ)への対策も十分に確立されていたため、近年三級から準三級にランクダウンされた。


 そんな日本第一号準三級ダンジョンのそばには、探索者協会の本部が存在する。


 試験の添削結果を確認していた男は、小さく息を吐きながら体を伸ばす。


「今年は平均点低いなー。結構落ちてるみたいだ」

「あの試験で落ちるなんて、事前勉強足りなすぎだろ。……つっても、最高得点者(フルスコア)が3人も出てるし、結構二極化したのかもな」

「おお、そんなに出てんの?」


 茶髪の男は、肩をすくめて隣の黒髪の男にタブレットを見せる。タブレットには、上位者三名のパーソナルデータがうつされていた。


「一人は典型的な理詰め頭でっかち、もう一人は有名人さん、残りは将来有望ってところだな」

「有名人? 探索者になる前からか?」

「ああ、何でも、番組の企画で探索者になるっていう俳優だったか? 余計な任務を増やしてほしくないと思っていたが、満点合格なら本人にもそこそこやる気があるんだろうな」


 タンブラーの中の紅茶をすすりながら、茶髪の男はタブレットをタップする。そこで黒髪の男にようやく三人の名前が読み取れた。


 名前の順に、『草薙翼(くさなぎつばさ)』『長嶋裕樹』、『長瀬慎二』の三名。その中の一人の名前は、仕事漬けの黒髪の男でも知っていた。


「ああ、草薙くんか! 知ってる知ってる、確かなんかのアクション映画で最優秀子役賞とってた子だよね?」

「何年前の話っすかそれ……」


 あきれたように言う茶髪の男。草薙翼と言えば、テレビにもネット番組にも出ずっぱりの超人気俳優である。子役のころから中に大人がいるのでは、とささやかれるほどに大人びた性格で、愛らしい顔も小学校中学校を経て大人びていき、今年から高校生だという。


 整った表情に引き締まった体。はにかむような笑顔は一体何人の少女の初恋を奪っていったのだろうか。運動神経も優れていて、ハリウッドに呼ばれたときにはワイヤーなしで激しいアクションをこなして魅せた。その時は悪役を演じていた彼だが、それでも主役に近い人気を勝ち得たのである。


 海外でも人気な彼は、高校入学を期に探索者の資格を取ったようだ。順当に考えれば、仕事の時間でろくに探索できなそうだが……それでも、有名人である彼が探索者になれば、その影響は莫大だろう。


「来季から試験会場増やさないと不味そうだな……」

「そうっすね。成績優秀者には賞状送っておきます」


 茶髪の男はそう言って賞状の発注をする。

 オフィスはまだまだ明るく、山積みであった。

【探索者にかかる税金について】

 ダンジョンは多大な危険とともに、莫大な富や資材を生み出す。そのために、探索者にはそれ相応の税金が課せられるのである。

 とくに有名なところで言えば、ダンジョンへの入場料だろう。ダンジョンへの入場料は等級や入手できるものによって左右されるため、ところによっては莫大な入場料を支払わなければならないことになる。


 さらに、呼び出した召喚獣にも税金がかかり、大抵は人間同等の税金を支払う義務と呼び出した召喚獣の保護義務が課せられる。召喚獣への虐待行為は社会一般的に認められていないが、まだ法整備が追い付いていないところがある。

 ちなみに、武器にも税金がかかる。2015年の銃刀法の改正で一般市民でも銃の所持が可能となったが、銃を使った場合には普通の犯罪よりも罪が重くなるうえ、銃を所持しているだけで税金がかかってくるため、一般家庭で銃を所持している家はあまりない。しかし、モンスターに対して銃は時に有効手段になる。

 そのため、結構な税金を支払ってまで銃を持つ探索者もまあまあいるらしい。

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