20話 ダンジョンの下調べ
前回のあらすじ
・経費計算しないといけない
・コンラがチャレンジメニューを挑戦と受け取ってステーキをたくさん食べる
ショッピングモールを出た二人は、荷物を抱えて家に帰る。
ちなみに、コンラはチャレンジメニューのステーキを18分で食べ終え、周囲から賞賛された。お店の人はチャレンジメニュー攻略成功の報酬として食事代の返金を申し出たが、ユウキは謹んで辞退した。
たくさんの肉が食べられて上機嫌なのか、コンラは大量の食料品を運びながら鼻歌を歌っている。そのリズムと音程が【害虫ダンジョン】でのコナハトの戦士たちの鼓舞に似ていたが、ユウキは気にしないことにした。
「早いけど、晩御飯どうする?」
「ん? 何でもいい。どうせなら肉が良いが」
「ついさっきステーキ食べたばっかりなのに、よく食べられるね……」
両手に布製の買い物カバンを持ち、楽しそうにいささか物騒……いや、勇ましい歌を口ずさむコンラ。生まれ故郷もそこそこ豊かではあったが、現代日本のように飽和するほどものに溢れてはいなかったため、買い物も新鮮味があったのだ。
「そう言えば、何肉が好きなの?」
「肉の種類か……肉なら何でも好きだが、羊と鹿が特に好きだな」
「うーん……これまた入手しにくい肉だな……」
ユウキは困ったように唸る。インターネットで買い物をすればいくらでも手に入るだろうが、それでも普通の肉よりは値段が張るはずだ。
__とりあえず、今日はハンバーグでいいかな。ソースも買ったし、調理実習で作ったことがあるから、何とかなるはず……
臨時報酬が手に入ったとはいえ、まだ油断できるような状態ではない。先日のダンジョン探索でナイフも防具もだめにしてしまったため、ここから出費がかさむのだ。今日くらいは良いだろうと羽目を外してしまったが、今後は節制しなければならない。
そして、等級を上げるためにも、研修で攻略したダンジョンを除いて、四つのダンジョンと一つの特五級ダンジョンを回らなくてはならない。
準五級なら、一律5000円で入場できるが、それ以外のダンジョンとなると、値段が変わってくる。入場料と装備、そして何よりも、相性を考えて攻略するダンジョンを選ばなければならないのだ。
ユウキはその身体能力の低さから、一定以上の運動能力が必要になるアスレチックダンジョンをクリアすることはできない。準五級ダンジョンにジャックと豆の木を模したダンジョンがあるが、30m近い豆の木を登らなくてはいけないという前提条件で既に攻略不可能が確定してしまっている。
コンラ一人だけならクリアすることができるだろう。しかし、昇級試験を受けるには探索者本人のクリアが必要なのだ。
それなら道をすべて覚えて、迷宮型のダンジョンに挑みたいところだが、そこでコンラが壁になる。コンラのゲッシュには、「進む道を変えてはいけない」と言うものがある。迷宮型のダンジョンでは、そのゲッシュが致命的になることが容易に予想できた。
__うっかり道を間違えでもしたら、その時点でコンラが死んじゃうからな……
禁忌を破るということは、それすなわち罰を受けるということだ。姦計で犬肉を喰らわされたクー・フーリンは罰として半身が動かなくなった。罰がどうなるかは知らないが、それでも、コンラに不利益が怒りえるようなことをしたくはない。
__いや、でも待てよ……?
ユウキはふと、あることを思いついて、上機嫌なコンラに問いかけた。
「ねえ、コンラって、クー・フーリンに会いに行く途中に、寄り道とかってした?」
「ん? いや、してねえけど?」
「じゃあ、移動の途中でどこかの町に寄って一泊、とかはなかったの?」
「いんや。移動中に近くに村があったら、休ませてもらったことは何度かあった」
突然な質問に、コンラは少しだけ困惑しつつも答える。それを聞いて、ユウキはさらに質問した。
「じゃあ、例えば迷宮型のダンジョンに挑むとして、ダンジョンクリアを最終的な道にすれば、途中で道を間違えて引き返しても、ゲッシュには抵触しない?」
「……ああ、なるほど、そう言うことか……うーむ……宣言さえしておけば、ギリギリゲッシュには抵触していないとは思うが、順守したことにはならないだろうから、祝福は得られないだろうな」
眉間にしわをよせ、考えながら答えるコンラ。どうやら、相当なグレーゾーンであるらしく、かなり悩んでいた。だがしかし、それで十分だった。
「わかった! じゃあ、一本道なダンジョンを中心に考えるね。ちょっとだけ申し訳ないけれども、パズル系はともかく、アスレチックダンジョンはちょっとまだ僕には荷が重いから……」
「わかった。挑戦する日を教えろ。それまでは鍛錬しておく」
「簡単なダンジョンを中心に選ぶから、来週の土曜日くらいに挑戦することになると思う。先に言っておくけど、今回みたいな報酬はないものだと思っておいてほしい」
「了解した」
コンラはそう言うと、えっちらおっちら歩くユウキの荷物を一つ取り上げ、そのまま歩く。ユウキは少し驚くも、すぐに「ありがとう」と礼を言い、家路を急いだ。
家についた後、すぐに手洗いとうがいをしてから、購入した食材を冷蔵庫の中にしまい込んで置き、そして、タブレットを取り出してこれから探索するダンジョンを探していく。
残念ながら、楽鳥羽町周辺はユウキも巻き込まれた広範囲型のイレギュラーが発生してしまっているため、必然的に公共交通機関を使って少し遠くのダンジョンに挑戦する必要がある。交通費を考えると、黒字を出すのは少し難しいだろう。
「僕の今の等級が五級だから、挑戦できるのは準五級から特五級まで。最速で等級を上げたいけれども、まずは基礎固めをしたいから、来週の土曜日曜で二つのダンジョンを探索する。再来週にもう二つで、三週間目に特五級ダンジョンに挑戦する。それで昇級条件を満たすから、昇級試験を受けるって感じかな」
ユウキはそう言って、地図アプリを開き、挑戦可能なダンジョンを確認する。イレギュラーが発生している地帯は除いても、まだまだ候補地はたくさんある。向き不向きを考えて、できるだけ良いダンジョンを選びたい。最悪、収益は二の次である。
これからの計画に対して、コンラは首をかしげた。
「週末にしかダンジョン探索をしないのか?」
「うん、平日はどうしても学校があるから。放課後の短時間だと、近所のダンジョンが限界だけれども、今イレギュラーが発生してるから……」
「ああ、近場は難易度が上がっているのか……」
「イレギュラーがクリアされたところは挑みたいけどね」
納得したように頷くコンラ。己の弱さは、己が一番わかっている。研修でも死にかけたのだ。油断する気はさらさらなかった。
候補地は今のところ三つ。一つは隣町大岡市にある竹取物語をモデルにした、【竹藪ダンジョン】。二つ目は、同じく隣町にある三匹の子豚をモデルにした【藁の家ダンジョン】、最後が赤い靴をモデルにした【赤い靴】の三つだ。等級は【竹藪ダンジョン】と【藁の家ダンジョン】が準五級、【赤い靴】が五級である。
【竹藪ダンジョン】はモブにネズミが、レアモブとして火鼠が出るダンジョンで、迷宮型のためボスはいない。竹藪の迷宮を探索してゴールである帰還用の魔法陣にまでたどり着けばクリアだ。簡単な分、利益がほとんど出せない。
年中タケノコ掘りができるのがちょっとした特徴で、春以外の季節に新鮮なタケノコを必要とする料亭が探索者にタケノコ掘りを発注することがある。しかし、現在の季節は春。普通にタケノコの在庫はある今、料亭の発注はまずないため、絶対に黒字にはならないだろう。
二つ目の【藁の家ダンジョン】はモブに風の精霊が、ボスとしてオオカミが現れる一般的なダンジョンだ。レアモブは今のところ発見されていないが、モブの風精霊は倒されると魔石だけを残して消えるため、魔石採取はしやすい。数を狩れば何とか黒字にすることができなくもないダンジョンだ。
三つ目の【赤い靴】は町を探索するパズル型であり、モブとして精霊が、レアモブとして老婆の幽霊が現れる。ボスはいない代わりに赤色の靴から逃げながら帰還用の魔法陣まで移動しなければならない。帰還用の魔法陣の位置は固定されているため、赤色の靴の移動パターンさえ覚えてしまえば、基本的に戦闘皆無で町を探索することができる。
ちなみに、赤色の靴に捕まると、強制的に靴を赤色の靴に履き替えさせられ、足を切らない限り死ぬまで踊り続ける羽目になる。油断さえしなければ無傷でクリアできるものの、即死に近いトラップがあるために難易度は準五級ではなく五級に定められている。
コンラがいれば、一番簡単なのは藁の家ダンジョンである。戦闘全てを彼に任せれば、後は藁の家の中の帰還用魔法陣を踏むだけの簡単な仕事である。
しかし__
__コンラだけに頼るっていうのは、違うよな……
ユウキは入場料を見比べながら、そう考える。そもそも、ユウキは姉を助けるためにダンジョン探索をしている。姉が助かれば別に何だって構わない。しかし、まったく関係のない他人を巻き込むのは、違う。おかしい。
だからこそ、ユウキは必然的に藁の家ダンジョンを候補から外す。そうすると、残ったのは【竹藪ダンジョン】と【赤い靴】。そして、ユウキは竹藪ダンジョンを先に、ついで赤い靴に挑戦することに決めた。
「竹藪ダンジョンは迷宮型なんだけど、順路は竹で出来ているから破壊しようと思えばできるんだ。ここで一回、ゲッシュの抵触について調べてから、町を探索する赤い靴に挑もう。竹藪ダンジョンでゲッシュに抵触したら、コンラには悪いけど、藁の家ダンジョンに挑戦する」
「わかった。注意事項は?」
「赤い靴に関してはあるけど、竹藪ダンジョンに関してはゼロ。竹藪ダンジョンは、難易度が低いのに比例して、うまみもないから。……あ、タケノコ好きだったりする?」
「たけのこ……? よくわからんが、食べ物が取れるのか?」
聞いたことも無い食材に困惑するコンラ。ユウキは小さく首を振ってから、「気にしなくていい」と前置きしたうえで竹藪ダンジョンのマップを広げる。低難易度かつ食糧採取にも使われるようなダンジョンであるため、探索者協会が無料でマップを公開しているのだ。
ユウキは入り口からタケノコ採取におススメされているルート、そして、最短距離である竹藪破壊直線ルートを見せる。
「まずはタケノコ採取ルートに進む。そのあと、元の道に戻れるかどうかでゲッシュの抵触を調べよう。無理だったら、ここの竹藪を破壊して最短距離の竹藪破壊ルートに合流する」
「わかった。敵は?」
「ボスは無し。モブで鼠、レアモブで燃えない毛皮を持つ火鼠が出るけど、火鼠にはほとんど会えない。ネズミの魔石だけだと採算取れないから、襲ってこない限り放置で大丈夫」
ユウキは短くそう言いながら、脳内で電卓を弾く。火鼠と遭遇できない限り、赤字は確定である。だがしかし、コンラのゲッシュを試すことができるのなら、必要経費と割り切れる。むしろついでにタケノコまで手に入るのだ。
「タケノコは炊き込みご飯にでもしようかな……あと、由美叔母さんにもおすそ分けできるならしておきたいな……」
「とらぬ狸の何とやらにならないようにしろよ?」
ウキウキしながら言うユウキに、コンラはあきれながらも言う。ユウキは思わず肩をすくめて、小さく頷いた。
「もちろん。あと、赤い靴はルートが決まっているから、それに沿って帰還用魔法陣に向かうだけ。道中の家から物をかっぱらって行っても文句は誰も言わないけど、家の中のものをあまりたくさん持っていくと、レアモブの老婆に見つかって、赤い靴を呼ばれるから気を付けて」
「靴は破壊できないのか?」
「無理だね。赤い靴は接触と同時に強制装備させられるから。遠距離から攻撃した場合は、あたりにいる精霊が赤い靴を守護するっぽいし」
「……赤い靴を履くとどうなる?」
「死ぬまで踊り続けるか、足を切るかの2択。もしもの時のために、足切断用の斧は必須……いや、ちょっと待て?」
ユウキは、とあることを思いついて、顎に手を置く。そして、しばらく考え込んだ後、コンラに言う。
「ちょっとだけ対策を思いついた。でも、成功するかどうかわからないから、ルートとマップを頭に叩き込んでおいてほしい」
「わかった」
こうして、短い作戦会議は終了した。
【竹藪ダンジョン】
竹取物語の最序盤、竹取の翁が竹を切っているところをモデルにしたダンジョン。場面的にかぐや姫はいないし、金持ちの兄さんたちもいないため、モブが鼠だけと言う非常に残念な状態になったダンジョン。火鼠はかぐや姫が求婚者に要求した【火鼠の衣】の原材料である。
ちなみに、求婚者は偽物をつかまされて高値で購入した衣を燃やされる。ちゃんと確認しないからぁ……




