1.魂の【置換】、新しいパートナー。
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――工房に閉じこもって、二ヶ月が経過した。
ボクはひたすらに【置換】の理論を突き詰めて、なにかに応用できないかと考え続ける。そしてたどり着いたのは、目に見えないものに形を持たせることができるのではないか、ということだった。
「え、っと……?」
で、その結果なのだけれど。
ボクは薄暗い工房の中で、過去に鉄の塊で生成した鎧を前に首を傾げていた。どうしてボクが首を傾げているのか、というと……。
「キミの名前は、リュードで良いんだよね……?」
「さっきからそう言ってるだろ? つーか、お前さんは誰なんだよ」
――喋っていた。
鎧がボクの目の前で、はっきりとした自我を持って喋っていた。
リュードと名乗った鎧は、周囲をキョロキョロと見回す。そして金属の擦れ合う音を立てながら、腕を組んでこちらを見るのだった。
「えっと、ボクはライル。ライル・コーナー」
「そうか、ライル。オレはお前に、訊きたいことが山ほどあるんだが?」
そして、彼はボクを見下ろしてこう言う。
「オレ、もう死んでるはずなんだが。どういうことだ?」――と。
◆
【置換】というのは、すでにあるものの形状を変化させる。
ボクはそれをさらに一歩前に進めて、こう考えた。
死者の魂を鎧に移し替える、そういったこともできるのでは――と。
「まさか、成功するとは……」
で、研究の成果を確かめるためにやってみた。
簡単に説明すると、魂の位置を置き換え。魂の素材は不明のため生成できないから、その辺をうろついている死者の霊魂を使用して。
そして、成功したのだ。
いまだかつて、誰も成し得なかった偉業。
ボクはそれを今、この手で成し遂げてみせたのだった。
「何の気なしにこの周辺をふらついてたら、急に目の前が暗転したんだが。とりあえずオレは、ライルに二度目の生をもらったわけか」
「そう、なるのかな……?」
だけど、素直に喜べないのは彼がいるから。
死者の魂を勝手に呼び起こすのは、どこかタブーのような気もしていた。だが、そう考えているとリュードは大声で笑いながらボクの背中を叩く。
「なに辛気臭い顔してんだ。大丈夫、オレはライルに感謝してんだぜ?」
「へ……感謝?」
「あぁ、そうさ!」
彼は明るい口調で、こう続けた。
「オレは冒険者やってたんだが、ふとした拍子に死んじまってな! もっと暴れたかったんだが、ずっと叶わなくて成仏できなかったんだ!」
「なるほど……?」
「だから、これも何かの縁だ! 一緒に暴れようぜ!!」
リュードはそう言って、ボクの手を取る。
「冒険者――か」
そこで、考えた。
自分には向いていないと思って、いの一番に除外していた選択肢だけど。もしかしたら、フィールドワークのついでに良いのかもしれない。それに、ダンジョンでは素材も採れるし。何より、この二ヶ月の研究で至った仮説を実証するにはちょうどいい――と。
「うん、分かったよ。一緒に行こう!」
「よっしゃ! そうと決まれば、善は急げだな!」
リュードはボクの答えにまた笑った。
鎧姿で表情がないというのに、心底嬉しそうなのがよく分かる。引っ込み思案なボクとは正反対な性格だけど、自然と気分が明るくなる人柄だった。
そんな彼がボクの新しいパートナー。
もしかしたら、案外悪くないのかもしれない。
そう思うのだった。