7.笑顔のレクイエ。
第1章は次の話で終わり。
でも、ここが一つの区切りかな?
もし面白かった、と思っていただけましたら評価など。
創作の励みとなります。
レクイエさんの敗北宣言を聞いて、ボクの中で緊張の糸が切れた。
その場にへたり込み、彼女を見上げる形になる。これでは、どちらが勝者か分からない。まるでボクが負けて、レクイエさんが勝利したような。
――というか、勝ったのかボク……?
今さらながら、世界最強の魔法使いと名高い人物に勝利したこと。その事実に驚いた。無我夢中に、最後は半分以上賭けだったけど、まさかすぎる結末。
そして、その思いはレクイエさんも同じだったらしい。
「本当に、キミには驚かされたよ」
一言、そう口にして微笑んだ。
その後に手を差し伸べて、ボクの身を引き起こす。
すると、周囲の観衆からは拍手喝采。立会人もボクの勝利を宣言した。
「ありがとう、ライルくん」
「いや、お礼だなんて。ボクは本当に必死で……」
「それは私も同じさ。こんなに力を使ったのは、本当に久しぶりで――」
その時だ。
「レクイエさん!?」
彼女が、不意に膝から崩れ落ちたのは。
ボクはとっさに、その細い身体を支えた。
「あ、ははは。すまない、老体に鞭を打ったからね。少しばかり、限界を超えていたようだ」
「大丈夫、なんですか……?」
訊ねると、微笑みが返ってくる。
「気にしなくていい。ただ――」
「え、レクイエさん!?」
一筋の、涙と共に。
どうしたというのだろうか。
ボクは呆気に取られて、彼女の綺麗な顔を見つめ返した。
「あぁ、済まない。ほんの少し、死んだ友人を思い出したんだ」
「亡くなった友人、ですか?」
「そう。二百年ほど前に」
二百年――ボクは、途方もないその時間を思って言葉を失う。
きっと彼女は、数え切れない別れを経験してここにいる。
それを考えてふと、こう口にしていた。
「あの、お願いがあるんですけど。――いいですか?」
決闘の勝者には、一つだけ権利が与えられる。
ボクは、その内容を今この時に決めた。
◆
『僕がいなくなったら、きっと次にもっと強い人が現れるよ』
『なんだい、急に。縁起でもない』
『ははは。そう言うなよ、どうしたってキミの方が長生きなんだからさ』
『まぁ、たしかにそうけれど』
レクイエは、一人の青年と話す。
捨虫の魔法を会得した彼女の寿命は、普通の人のそれより遥かに長い。だからだろうか、漠然と青年の言葉に現実味があったのは。
ボンヤリと二人で空を見上げていた。
『ただ、こんな毎日が続けばいい。そう思うけどな』
その最中に、レクイエはそう呟く。
それが叶わない夢物語だと知っていても、そう思うのだ。
『なぁ、キミは今――幸せか?』
『どうしたの、レクイエ。そんな藪から棒に』
『いや。とくに深い意味はないのだけれど……』
『ふーん……?』
それを共有したくて。
レクイエは青年にそう訊ねた。すると、返ってきたのは――。
『僕は、レクイエが笑っていれば幸せだよ』
そんな、歯の浮くような台詞だった。
『ばっ――!?』
思わず彼女は顔を赤らめて、青年の名を叫んだ。
『何を言うんだ、リーデロッド!?』――と。
レクイエの反応に、青年――リーデロッドは笑った。
そんな幸せに溢れた記憶。
彼女はふと、そんな光景を思い出すのだった。
◆
――決闘の日から、数日が経過した。
「それで、今日はどうしようか!」
「相棒。ずいぶんとやる気だな!」
「そりゃそうだよ。だって今日からは――」
ボクは、ギルドである人を待っていた。
その人はとても頼りになる新戦力。間違いなく、最高の人材だった。
「レクイエさんも、一緒なんだから!」
ギルドの扉が開かれて、そこに立っているのは世界最強の魔法使い。
彼女はいつも通り、柔らかな笑みを浮かべてこう言った。
「やあ、今日からよろしく」――と。
そうして、一つの事件が終わって。
また新しい日々が、ゆっくりと始まるのだった……。
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