6.魔法の【置換】、決着。
まだ、もちょっとだけ続くんじゃ。
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――一羽の鳥が、空に飛び立つ。
レクイエは、一人の年老いた男性の寝台の横に立っていた。
彼が眠りに就いてどれくらいの時間が経っただろう。かつて共に切磋琢磨した相手も、老いには勝てなかった。レクイエのように、捨虫の魔法を会得した者とは違う。時の流れは残酷で、容赦なく人の命を奪っていくのだ。
それが例え、レクイエが唯一倒せなかった相手だとしても。
『どうして。目を、開けてくれ……!』
彼女は喉を震わせ、そう言った。
しかし、その男性は何も答えられない。
『頼む、キミがいないと。私は気が狂ってしまいそうなんだ……!』
必死の懇願も、届くことはない。
何故なら、この時にはもう彼は――。
『頼む。頼むから……!』
レクイエの願いは届かない。
ただ無情に、部屋の中に響くだけだった。
◆
「きた……!」
――この戦いの中で、最大威力の魔法が迫る。
レクイエさんの周囲には、尋常ではない量の魔力が渦巻いている。気を抜けば足が竦んでしまうような、そんな魔力の奔流だった。
それでもボクは直進をやめない。
ここで止まっては敗北は必須であり、勝利の目は万に一つもない。
「いくぞ、恐れるな……!!」
そう自分を鼓舞して、魔素の欠片を大量に握りしめた。
そして、次の瞬間だ――。
「さぁ、これで終わりだよ! ――ライルくん!!」
「ぐ、う……!?」
魔法がボク目がけて、一直線に放たれたのは。
真正面から、こちらもそれにぶつかる。一見して自殺行為とも取れるそれだ。
だけどボクの計算に狂いがなければ、ほぼ間違いなく――!
「うお、おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
――彼女の魔法を【置換】できる、はずだ!!
腕を前に突き出し、魔法を受け止める。
握りしめた魔素の欠片が眩い光を放って、その攻撃を吸収していく。理論は正しい、魔力から魔法への変換の『逆』――すなわち『魔法から魔力への変換』による『無効化』は可能だった。もっともレクイエさんの大魔法、ボク自身の身体にも多大なる負担が伴うけど……!
「ぐ、う、おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
歯を食いしばる。
彼女の魔法はまだ途切れない。
だが、確実にその威力は弱まって――。
「いま、だ……!」
ボクは、最後の力を振り絞って。
最後の疑似転移魔法を、展開した……!
◆
「なに、が……?」
レクイエは消失する魔法に、思わず目を疑った。
そんな理屈はあり得ない。仮にあり得たとしても、自分の膨大な魔力をこの青年が受け止め切るだなんて、あり得ない。彼女はそう思った。
だが、それが現に目の前で起きているのだ。
だとすれば、それは空想や妄想ではなく――紛うことない現実。
ここで少しでも力を抜けば、確実に殺られる。
そう考えたレクイエは、出力の落ちた魔法、それの安定を図った。
しかし、その瞬間だ。
「な、しまっ――!?」
突如として、ライルの姿が掻き消える。
そして背後に気配を感じた彼女は、とっさにそこから距離を取るが――。
「く――!?」
さらに疑似空間転移が展開される。
バランスを崩したレクイエ。そんな彼女の綺麗な顔に――。
「終わり、です……っ!」
魔素の欠片を握りしめたライルの手が、突き付けられた。
そこで、勝敗は決する。
最強の魔法使い――レクイエ・ウォータイム。
「あぁ……」
彼女は、静かに息をついて。
「私の、敗北だな」
二百年振りに、それを認めるのだった。
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