プロローグ 学会を追放された、一人の錬金術師。
新作です。
今日は合計3話投稿します。
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「お前はいつになったら、成果を出せるんだ? ――ライル」
「す、すみません。学長……」
ボクは強面の男性の前で、何度も頭を下げる。
その姿を見て、男性――錬金術師を束ねるデオン学長は、大きなため息をついた。そして、ゆっくりと椅子から立ち上がり、ボクの方へとやってくる。
「他の者たちは、すでに鉄を金に変える域まで至っている。それなのに、お前はいつまで経っても【置換】などという、基礎の中の基礎で止まりおって……」
「………………」
肩を少し強く小突かれた。
バランスを崩したボクは床に尻餅をついて、学長を見上げる形になる。そんなこちらに、学長は心底呆れた声色でこう告げるのだった。
「そろそろ潮時か。座学は一級品でも、この世は成果主義だ」
あからさまに、ゴミを見るような目で。
「貴様は本日付で、この学会より追放処分とする」――と。
◆
錬金術の基本というのは、いわゆる等価交換である。
一定の価値を持つものは同じ価値のものにしか、変換できない。でもその『価値』というのは、状況によって移ろうものだ。
例えば、水なんかが分かりやすいかな。
あれだって砂漠地帯の町では重宝されるが、水辺に栄える町では安価に手に入る。さっきも言った通り、状況次第で物の価値なんてのは簡単に変化する。
だからこそ、その壁を乗り越えるのが錬金術師の目標になってきた。
鉄を金に変える。
低価値のものから、高価値のものを作り出す。
それは、間違いなく大偉業だった。
「でも、そんな優秀な人たちと比べられても……」
平凡でしかないボクには、そんな才能はない。
やれることといったら【置換】と呼ばれる、基本的なものだけだ。
簡単に言えば、スプーンを溶かして別の型に流し込んでフォークを作る、ということ。その過程をすっ飛ばして、すぐにスプーンからフォークを作り出すのだ。
「でも、そんなのはどうせ基本中の基本だし」
錬金術師の学会から追放されて、自分の工房に戻ってきたボク。
ベッドに身を横たえて、そんな愚痴を口にした。
「これから、どうしよう……」
そして、これからのことを考える。
働こうにも取柄なんて、今までやってきた研究くらいしかないし。人付き合いもそこまで得意ではない。非力だし、冒険者にも向いていないだろう。
だったら、どうするか――。
「自分で、研究を続けるしかないか……!」
どうせなら【置換】を極めてやろう。
ボクは前向きなのか後向きなのか、分からない気持ちになってそう決めた。
だけど方針が決定すれば、やることはもう簡単である。
その日からボクは、自分の工房で研究を始める。
その決断がまさか――あんな成果を生み出すなんて、想像もしていなかった。
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