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野良猫と夏の暑い日

好きな人が

仲良さげに友達と話している昼下がり


僕は、私は、横目でそれを見ながら風と一緒に通り過ぎていく


もしもあなたとおなじ性別だったら


もしもあなたと親友だったら


たわいないことが日常だったのに


そう感じながら、幸せそうにくしゃりと笑う君を見る


ああ、僕は、私は、



あなたと同じ性別になりたかった。







夏の日差しは暑くて、とても窮屈だ。

首周りにべったりをくっついたワイシャツの襟をつまみながら、片方の手でぱたぱたと扇ぐ


僕の席は窓際で、夏の強い光が直接こちら側へやってくる。

本を読むには少し居心地が悪い。


だけどその窓から見える景色だけは好きだった。


特に面白味の無い木々に、古い校舎が並んでいるだけのごくごく普通な、何の変哲もない景色に、僕の「好きな人」が、可愛い顔をくしゃりと崩して笑いながら友達とお昼を食べている様子が見える。

唯一の友人が横で騒ぎ立てているが、それは完全に無視することにした。


だけどその景色がまるで僕のことを表しているようで、とても嫌いにはなれなかった。


「…夏はどうして暑いんだろう…」


今日もまた同じように景色を眺めては独り言を呟く、そんな日常








夏は嫌いだ。


暑いし汗はべたつくし、何よりゆっくり昼寝ができない。

私は学校に立っている立派な木(名前は知らない)の下でお昼の鮭おにぎりを口に頬張りながら教室で静かに本を読む男の子と、その横で騒いでいる男の子を見ていた。


片方はいわゆる「好きな人」というやつで、片方はその友達(私にとってはお菓子のおまけみたいなもの)にあたる。


もし男の子になれたなら、一日だけでもいいから肩を組んで、一緒に笑って、泣いて、叫んで、ふざけあって、そんな日常に小さな夢を持つ。


「もしほんとにそうなったらいいんだけどね」


小さく呟きそんなことはありえないと一人で笑いながら、私は木の下に寝っ転がって、重たい瞼をゆっくりと閉じた。











チャイムが鳴る。

昼休みが終わり、時間は過ぎて、気づけばもう放課後だ。

1日というものは長いもので、退屈なものでもある。


ふわりと髪をなびかせる僕の「好きな人」は、放課後も変わらず友達と一緒。

そんな「好きな人」の友達に小さな憧れを持ちながら

、僕は今日も早足で駅へ向かう。


教室は騒がしくて、放課後までそんな場所にはいたくない。


だから僕は早足で駅に向かった。


いつものように改札口を通って、いつものように電車を待つ。


ひとり、ひとりでだ。


























目が覚めると、目の前に誰かが仁王立ちしていた


「いつまで寝てるのよ」


その子は肩に鞄を背負い、腕を組み、口を膨らませて言った。


「…ごめん、寝すぎた」


「寝すぎたも何も、昼休みどころかとっくのとうに学校終わってるからね」


「えー…うっそだ」


「ほんとだって」


「そんなまさか」


「時間見てみなよ」


「…ほんとだ、もう下校時間過ぎてる」


「でしょ、部活には連絡入れたから、今日はもう帰ろ」


「…ん」


私は勢い良く体を起こし、ぐんと伸びをした。

夢の中で私は男の子になって、「好きな人」と笑って過ごしていた。

でもこれは夢、所詮夢でしかないのだ。


「ていうかよくここで寝れたよね、こんな時間まで、先生も放置でさあ」


「別に先生たちも慣れちゃったんでしょ、また寝てんだなって」


「だってあんた、起こしても起きないから」


「睡眠が深いからねえ」


「とか言って、また例のあの人の事覗き見して話しかけらんなくて寝ちゃっただけでしょ」


「あらま、さすがゆっちゃん。ゆっちゃんには隠し事出来ないですわ」


「何せ友達歴が長いですから」


自慢げに胸を張るゆっちゃんと、そんなたわいのない会話をして、一日を過ごす、それが私の日常。















蝉や子供の声が響く放課後の公園

そっと僕はその公園のベンチに腰をかける。

自宅近くのこの公園は、僕をそのまま包んでくれるような、そんな安心感がある。

携帯で時間を確認しながら僕は、足元にやってきた野良猫の頭を優しく撫でた。


「お前もひとりぼっちなのか」


指先を猫の顎へ移動させ、優しく撫でてやる。

ナァン、と心地よさそうな声を出しながら、猫はごろりと転がった。


「僕もお前みたいに自由に生きてみたかったな」


僕は自分の足元を見つめながら小さく呟いた。


ごろりと転がっている野良猫を僕はそっと抱き上げる。


「あれ、お前、メスなのか」


ナァと猫が返事をする。


「そうか…いいな」


「ナァー」






僕も、





「僕も女の子になりたかった」






思わず口からこぼれ落ちた言葉をはっと飲み込み、僕は公園のベンチから立ち上がり、野良猫を逃がし、僕はそそくさと近所の古本屋へ向かった。













ゆっちゃんと一緒に過ごす放課後は、とても楽しい。

友達同士だから、悩みも恋の話も何でもできる。


だから、男の子が羨ましかったのだと思う。


男の子だったら、気軽にあの人と話せるし、話しかけられなくて寝ちゃうこともない。

クラスが違っても部活とかで付き合いはあるだろうし、放課後も、ゆっちゃんと私みたいに過ごすこともあると思う。


だから、




「男の子になりたい」



思わず口から漏れた言葉を飲み込んだ。



「どうしたの?」



「ううん、何でもない」


今日私は、初めてゆっちゃんに嘘をついた。












人通りが少ない場所にあるこの古本屋は、僕にとって穴場でもある。

知り合いはほとんどいないし、置いてある本はマイナーなものばかり。


そんな本が並ぶ中、まるで物語の中にある魔法の書のような分厚い本が置いてあった。


「なんだ、これ」


表紙に文字は一切なく、あるとすれば細かな埃がちらほら舞っているだけ。


「中身も何にもない本だな。白紙のページしかない」


ペラペラ本をめくっても、ただ古い紙が重なっているだけで面白味も何も無かった。


「…ん?」


最後から二番目のページにだけ妙な厚みがあった。

何かを挟んでいるような、そんな厚み。


僕は気になって最後のページをめくった。

そこには一通の古い手紙が挟まっていた。

手紙には「女の子になりたかった僕へ」と書かれていた。


「…僕へ?どういうことなんだ?名前も何も書いてないし、誰宛かも書いてない」


不思議に思った僕は思わず手紙を開けてしまった。

中には折りたたまれた便箋と薬のようなものが入っていた。


「なんだこれ」


中には今の僕とそっくりな筆跡で

「過去の僕へ

これは1度だけ女の子になれる薬です。

これを飲んだ時、僕は女の子として生活することができます。

だけどもう二度と男の姿には戻れなくなります。

1度だけ、1度だけしか使えません

きっと僕は_」


ここで文は途切れていた。

少し怖くなった僕はその手紙を制服のポケットに詰めて古本屋を出た。

その時、さっき出会った野良猫が僕の前を通り過ぎた。










ゆっちゃんと通学路で分かれて、小石を蹴飛ばしながら道を進む。

今日見た夢が忘れられなかった。


「私だって、男の子になったら友達にだってなんだってなれるのに。神様は理不尽だ」


「男の子は友達にはなれるけど、恋人にはなれないでしょ?」


私の独り言に誰かが答えた気がした。

後ろを振り向くと、


「ひょあ…ぉ……」


そこには野良猫しかいなくて、その野良猫が私に向かって言った。


「確かに男の子は楽しいかもねえ。あなたの大好きな人も男の子だったら笑って遊んでふざけ合えるかもね。でも女の子だったら?あの人の恋人になれるじゃない」


「…無理だよ」


「どうして?」


「どうしても無理だもん」


「なんで?」


「だってあの人は、私じゃなくてゆっちゃ……友達が好きなの。だから私は恋人にはなれない」


「譲原明仁ね」


「…なんで知ってるの?」


「心は女の子で体は男の子、貴方の古くからの幼馴染で貴方の「好きな人」の好きな人。そして貴方の「好きな人」は_」


「だめ、それ以上言わないで」


思わず私は野良猫の口を塞いだ。

同時に涙がボロボロ出てきた。

見慣れた通学路が悲しくなった。

少し暖かいアスファルトにぺたりと座ったら、また涙が出た。

車は滅多に来ない。


「ねえ猫ちゃん、どうしたらいいのかな?私、あの人のことが大好き、でもゆっちゃんも大事なの」


涙で声が震えた。

野良猫が私の身体に近づいてきて、ナァと鳴いた。

そして一通の手紙を咥えて私の足元にそっと置いた


「…忘れてたけど、これは未来の貴方から預かった手紙よ。読むも読まないも、貴方次第。」


そう言って野良猫は私の前から姿を消した。










僕、二宮智広のもとに一通の手紙が_














私、小畑日夏のもとに一通の手紙が_


























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