55話 俺は立っているのを諦めて、ペタンと床に座り込んだ。
それでも、頑張って全部の衣服を脱いで浴室に向かおうとした。
「二人共、待……」
一歩踏み出そうとした時、あまりに身体が重くて、思うように足が踏み出せなかった。
この足は俺の足なんだろうか。
もつれて、あっという間に体勢が崩れていく。
そういえば、地面に熱烈な接吻をしてしまいたい気分だったんだ。
愛しい地面よ、俺の愛を受け止めておくれ。
……時はスローモーション。
身体中の感覚だけが異様に研ぎ澄まされる。
この研ぎ澄まされたスローモーション状態に、何かがこちらへ高速で向かってくるのを感じた。
普段の動体視力では見ることも不可能な動き……。
今は事細かに見ることができる。
必死な表情で、懸命に俺を助けようとしているようだ。
光の球が覆っているので、白い光の中に顔が浮いているように見える。
そこまで、必死になる必要なんてないのに。
間もなく、ゴブリンの顔が俺の視界を埋め尽くす。
支えられる身体。
抱きしめられる感触。
強い腕力がグッと締め付けてくる。
俺の冷え切った肌にゴブリンの熱い体温が伝わってくる。
普通に支えるだけで、そんな密着はしなくてもいいんじゃないだろうか。
シャンプーの匂い、胸郭の上下する動き……。
柔らかな膨らみに、スベスベとした肌。
ゴブリンの熱い息遣いが喉元のあたりに感じられる。
155センチくらいありそう? ゴブリンの身長は伸びたようだ。
全身からゴブリンの肌の質感が伝わって来る……。
そういえば、光の球はただのホログラムで……全裸なのか。
一応、全裸で抱きしめられている。
「お兄ちゃん……大丈夫?」
ゴブリンの顔は、更に赤くなっている気がする。
この前から、ゴブリンのやっていることがおかしい?
確かに、光の球に隠されているのでダレンさんからは何も見えないだろうけど……。
ゴブリンの力が強すぎて、身動きがとれない……。
「あ、ああ……ありがと……」
悪い気はしない……それどころか感触は心地よいとは思う。
けれど、ステータスが低下した現在ではゴブリンの腕の締めつけが痛くて堪らない。
でも、言ったら傷つくんじゃないかと思って黙っていた。
「うっ……」
我慢してた声が、つい出てしまった。
ゴブリンが苦痛と快楽の狭間から開放してくれた。
「お兄ちゃん、どっか悪いの?」
「装備でステータスを上げていたのがなくなったから、急に弱くなったのに慣れなくて……」
どっか? と言われると腎臓も膵臓も血液も全部だけどわかりやすく伝えた。
ダレンさんも心配そうに近づいてきた。
「そうですね……ステータスが慣れるまで10分くらいは動かないほうがいいですよ」
聞こえていたらしい。
「……勉強になったよ。俺みたいな病人はドクロン装備を外すとしばらく動けなくなるのか……」
まるで、透析後の患者だ。
俺は立っているのを諦めて、ペタンと床に座り込んだ。
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