54話 病人のステータス
次の瞬間には淡い光が膨れ上がって球状になった。
浴室側はロッカーに挟まれていないので、背中側には空間がある。
俺は浴室側の壁の方へ更に数メートル離れた。
ダレンさんは、その光の球に飲み込まれていく。
直径2メートルはあるであろう大きな球だ。
俺は何が起こっているのか分からずに、ぼーっと眺めていた。
ゴブリンはダレンさんの向こう側に立っているから、球の脇にゴブリンの姿が見える。
ゴブリンも立ち尽くしているようだ。
俺は何だかわからないので怖いが、ゴブリンは特に恐れていないように見える。
「……わ~、きれい……」
ゴブリンが呟いた。
その光が3つに分かれて、バランスボール位の大きさに小さくなった。
ひとつからはダレンさんの顔と手足が見える。
言い方を変えれば、光の球からダレンさんの手足と顔が生えてる。
そして、その内のひとつの球が俺の方へすごい速さで飛んできた。
勿論、俺にはそんなのをよけられる様な能力はない。
思いっきり、身体が光の玉に飲み込まれた。
「わっ! ぐっ!」
激しい熱さや痛みが来ると思っていた。
……けれど、何も起こらない。
光の球がただ、俺の身体を覆っているだけ。
俺はダレンさんと同じように、球から手足と頭が生えてる姿となったようだ。
ゴブリンも一緒。
「ふう~。これで、どうですか?」
ダレンさんがようやく言葉を話す。
結構疲れる魔法らしく、やや疲労の色が見える。
「ダレンさん、これは?」
「究極の魔法だとバアルさんが言ってました。服を着なくてもおまわりさんに捕まらない……」
どうやら、身体にモザイクが入るような魔法らしい。
「裸で逃げなくてはいけない時に役に立つという究極の魔法です」
そんなことが人生であるのだろうか?
それって、他の魔法で代用可能なのでは?
ベルゼバブブは感覚が違うのかもしれない。
でも、この場には適した魔法だ。
服を着ていても脱いでいても、これなら何もわからない。
光はホログラムのようで、ただそこにあるだけ。
触れば、自分の身体に触れられるし、服を脱げばお風呂にすぐに入れそうだ。
「ダレンさん、ありがとう」
ゴブリンは嬉しそうに、俺の隣のロッカーで服を脱ぎ始める。
俺の隣で脱ぐ必要はないと思うんだけど……。
俺はゴブリンの脱いでいる様子が気なってしまう。
何も見えないのだけど、光の球を凝視してしまう。
そんなことをしていたら、あっという間に、二人共服を脱いでしまったようだ。
ダレンさんは魔法バッグへ、俺とゴブリンはロッカーへ服を収める。
魔法バッグは防水性なのかな……でも不安だからロッカーの中へ。
脱ぐのは自分が一番最後。
二人共、待ってくれている。
先に行ってもいいのに……。
俺はドクロン装備をつけているから、身につけているモノが多いと思う。
俺がゴブリンの脱ぐ様子に見入っていたからではない。
ゴブリンなんてフリーサイズのパジャマと下着だけだし、ダレンさんなんて神界の衣一枚だけ。
服装から言ったら、ダレンさんが一番変態だと思う。
そんなことより、待ってて貰うと悪い気がする。
早く脱がないと。
光の球に覆われているから、脱ぐのは手探りでちょっとメンドクサイ。
しかし、そこまでの不自由はなかった。
ひとつずつ確実に外していく。
装備を外すごとに、身体が重くなり……だるくなり……きつくなっていった。
全部、脱ぎ終わった瞬間に襲ってくる急激な脱力感。
ドクロン装備を身につける前はそれが普通だったのに、補助が外れると身体に落差を感じる。
ドクロン装備のお陰で、何とか普通の人間のステータスだったのに病人のステータスへ戻ったのだ。
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