53話 ダレンさんは何も言わず怪しく笑う。
とりあえず、俺はお風呂に入りたい。
お風呂から出たら、11時近くになってしまうかもしれない。
今日の疲労度を考えたら、早く身体を休めたい気分だ。
12時を過ぎると眠りの質は落ちる。
……ベルさん次第だけど、明日の夜は蛇を退治しに行く予定のはず。
もしゴブリンが毒になったら、俺のキュアで治療することもあるかも知れない。
周りに迷惑を掛けずに魔法を使うには体調は大事だ。
俺のマジックポイントは、もう……キュア1回くらいでは気絶しないような気がしないでもない。
そして、おそらく後ろから見てるだけだけど、俺の見せ場があるかもしれない。
俺は浴室の方へ歩みを進める。
「二人共~、浴室見てみよ~」
一緒に来たけど、二人の目的は浴室を見ることだ。
俺の入浴という崇高な目的とは違う。
見て貰って、さっさと帰ってもらおう。
服をさっさと脱いでしまいたかったが、ゴブリンがいる手前、やめといた。
そういうのを、セクハラって言うんだ。
二人共、俺の後ろをついてきた。
俺は思いっきり、バンッと入口を開いてみた。
湯気がモアッと向かってきて、視界を覆う。
やがて、湯気が過ぎ去って現れたのは、縦横30メートル程の広い空間。
お風呂ならではの、お湯の匂いが漂っている。
床は大理石のような白っぽい材質で、浴室の壁は薄い青色をしている。
真ん中にはひとつ大きな浴槽があって、ライオンの彫刻からお湯がジャバジャバ出ている。
そして、右と左の壁際にシャワーを備えた洗い場がある。
なかなか、立派な浴室じゃないか。
「お~……、すごい」
俺は感嘆の声を上げた。
「これは、なかなかイイモノに投資しましたね」
ダレンさんも満足そうだ。
「私も入りたいなあ」
ゴブリンも入りたいのか……もう、シャワー浴びたからいいじゃん。
「よし、俺は早速お風呂に入ろ~っと」
くるっと振り向いて近くのロッカーの前に立った。
服を脱ごうとした。
「よし、ワタクシも、もう一風呂~っと」
ダレンさんが右隣に来た。
ダレンさん、もう一回入るのか。
「よし、私もは~いろ」
ゴブリンが左隣に立った。
え?
ゴブリンも?
それは流石に……。
ダレンさんは男同士だからいいけど、ゴブリンはダメだと思う。
「ちょ、ちょっと待った~!」
俺はゴブリンに向かって、頑張って言ってみた。
「「え?」」
二人共動きを止めて、両側から俺の方を見る。
「ゴブリンは女の子だから、ダメ」
「え……、あ……そっか……」
ゴブリンはお風呂を前に、我を忘れていたようだ。
恥ずかしそうで、悲しそうな複雑な表情でこっちを見る。
ダレンさんはゴブリンの反応を見て可哀想に思えたようで、視線をゴブリンの表情へ向けている。
前をタオルで隠せばいいのだろうか……。
でも、いろいろ見えちゃうものもあるし、見られちゃうものもある。
俺のガリガリな身体なんて見たら、ゴブリンは俺のことを嫌いになってしまうかもしれない。
「ゴブリンは透析室に戻っててよ……終わったら戻るから」
ゴブリンの顔は、なお悲しそうになる。
ダレンさんは俺とゴブリンのやり取りを、難しそうな表情で眺めている。
ゴブリンは肩を落とすとドアの方向へ歩き始めた。
「待ってください、お互いに身体が見えなかったら問題ないのですよね?」
ダレンさんが何かを思い出したように、口を開いた。
ゴブリンは不思議そうな表情で、こちらを振り返って様子を伺っている。
「そうだけど……、水着とかそういうのだったら、マナー違反だよ。タオルだって浴槽に入れちゃダメなんだから」
仕方がないことなのだということを先に匂わせてみる。
「大丈夫です。任せてください。究極魔法ですから」
「きゅう……何だって?」
ダレンさんが魔力を集中させ始める。
見る見る内にダレンさんの身体が白色の光で覆われる。
熱くも寒くもないが、ただただ光っている。
……怖い。
危険を感じて俺はその場から数歩離れた。
ひょっとして、攻撃魔法?
「ダレンさん! 何するつもり?」
ダレンさんは何も言わず怪しく笑う。
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