52話 優先すべきことがある
透析室を3人で出る。
透析室の中よりは、廊下の方が涼しいかもしれない。
寒いほどではないけれど、廊下だから少しだけ温度が低い。
ダレンさんが先頭で、俺が真ん中、ゴブリンが後ろ。
とりあえず、真っすぐ歩く。
本来なら透析室から出て、このまま真っすぐ行くとX線検査室。
右に曲がるとエレベーターホールと外来の待合室。
透析室からエックス線検査室への通路に、外来へ行く通路が横からきてT字路になっているはずだ。
それが、今は十字路になっていた。
左に行くと大浴場らしい。
矢印で外来や、エックス線検査室と同じように記されている。
病院の玄関から入って、真っすぐ行くと大浴場なんて、何だか大浴場が主役のような構造だ。
3人で廊下を大浴場に向かって歩く。
真っすぐ30メートルくらい歩くと、入り口が見えた。
「ダレンさん、ちょっと遠くない……?」
「そうですか?」
ダレンさんは、俺のためにかなりスピードを抑えてくれているはずだ。
ドクロン装備でステータスを上げて、ようやく一般人に追いついているくらいの俺には、まだきつい。
あともう少しで、大浴場だ。
ダレンさんが目一杯ゆっくり歩いてくれてるのに、俺は息が切れてしまう。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
後ろから、俺のことを心配してゴブリンが声を掛けてくれる。
「はあ、はあ……うん、キツイ……」
「すいません、加減がわからなくて……小林さんを先頭にすればよかったですね」
そうだ。
何で、この順番になったのだろう。
出入口から近い順にでたら、自然とこの順番になってしまった。
「もう、着いたから……いい」
みんなで行こう、と思ってしまったのがいけなかったのか?
でも、俺の身体のことが二人共心配だろうから、やっぱ順番がいけなかったに違いない。
二人で挟むから、余計頑張ってしまった。
ようやくたどり着いて、引き戸のドアを開ける。
「「「おお~」」」
思わず3人でハモってしまった。
俺はあまりに広い脱衣所に驚いてしまった。
別に造りは王室の物とかそういうものではないが、一気に多くの人が着替えることができそう。
何ここ?
スーパー銭湯?
入口の右手にはロッカーが30メートルくらいの長さで、奥までズラリと何列もある。
ひとつひとつのロッカーは高さ1メートルで、横が30センチくらいで2段になっているタイプだ。
横長の部屋で、脱衣所は密集すれば300人くらい着替えられるかもしれない。
密集したくないけど。
左手には洗面台と椅子が設置されていて、綿棒やヒゲソリや化粧水などが置いてある。
白を基調とした造りは清潔感が漂っている。
男湯と女湯は別れてないみたい……明日からは、二人ずつ入ればいいね。
そうだ……さっき、ゴブリンが俺の顔をじっと見ていたんだった。
鼻毛が出ているかもしれない。
洗面台の方へ向かう俺。
自分の顔を確認。
「小林さん、何やっているんですか?」
ダレンさんが俺の動きを不審に思ったようだ。
「いや、ゴブリンがあんまり俺の顔を見るもんだから、鼻毛が出てるか見てる……」
ん……、ちょっと出てるか。
こんなちょっとならいいじゃん。
洗面台に置いてあった鼻毛切りでカットした。
……あ、これ眉毛ハサミ……ま、いっか。
鼻水で錆びちゃうかもしれないけど、ベルゼバブブ製だからサビないんじゃないかと思う。
「小林さんって、サイテー」
ダレンさんが俺の悪口を言う……。
「何が?」
鼻毛? ハサミが違うのバレた?
ゴブリンの顔が何故か赤い……。
両手でホッペを挟んでいる。
「小林さんは、ホントにアホなんですね」
一体、どうした?
ダレンさんはため息をついた。
何のことか、身に覚えがない。
ま、いいか。
そんなことより、優先すべきことがある。
「ダレンさん、首のカテーテルをまた、コーティングしてくれる?」
そうそう、大浴場のお風呂に俺は入りたい。
ダレンさんはやれやれ、という仕草をすると、俺に向かって手の平を向けた。
「いいですよ。はい!」
ダレンさんが手をかざすとなにか光が飛んできて、首のカテーテルの辺にくっついた。
この前より、使っている様子がはっきり見えた。
それは、俺が魔法を使えるようになったからかもしれない。
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