51話 アホなので気を付けてくださいね
ゴブリンはダレンさんに話をしている最中も、俺の顔を見つめてくる。
ひょっとして、鼻毛とか出ているのだろうか。
これだけじっと見つめてくるのだから、何かおかしいところがあるのに違いない。
鼻毛が出てたら、恥ずかしい……。
嫌だな……、言ってくれればいいのに。
ゴブリンはただ、見つめてくる。
鼻毛について気になっても、ここではどうにもできない。
じっと見つめてくるゴブリンの顔を、逆に見つめ返してみる。
……目で訴えてみる。
何かおかしなところある?
すると、視線に気付いたのかゴブリンは顔を真っ赤にして俯いた。
よし、俺の勝ちだ。
あれ、何してたんだっけ? ……とりあえず……。
入浴前に鼻毛をチェックだ。
こんな思考とやりとりをやっていたら、ダレンさんが話を進めていた。
「はい。分かりました。10000ポイントで最高級の大浴場を……」
「最高級?」
ダレンさんはタブレットを素早く操作すると、大浴場を造った。
操作、早っ!
数秒の時間差で、病院全体が揺れる。
地震?
ちょっと、めまいがするくらいの揺れ。
震度3くらい?
すると、透析室出入り口のドアの向こうから破裂音がした。
ボーン!
「きゃっ!」
ゴブリンが俺の方に抱き着いてくる。
結構、がっしりと。
身体が動けないくらい強い力だ。
本人としては手加減しているのかもしれないけど、ステータスの差が激しすぎる。
ゴブリンはフリーサイズのパジャマを着ているだけだ。
薄手のパジャマは布越しにゴブリンの身体を伝えてくる。
密着したせいで、入浴後のシャンプーの香りがした。
腕の締め付ける感覚。
柔らかなふくらみに、熱い体温……。
冷え性の身体には、より強い熱さが伝わってくる。
やや湿った髪が頬にあたり、潤いのある肌を全身で感じる。
俺の透析で水を抜いて、カサカサになっている肌とはえらい違いだ。
抱きつかれた感覚は、悪くない……。
ゴブリンは女性といっても、まだ、幼い感じがする。
いくらゴブリンが早熟で成長が早いといっても、まだまだ子供。
俺みたいな、30になるかならないかの男からしたら、女性というより女の子だ。
でも、今のタイミングは少しおかしかった、音が鳴ってからの反応がちょっと遅かった気がする。
それに、俺が大丈夫なのに、ゴブリンがダメな訳がない。
まあ、料理とかでもボンって出るから、大浴場はボーン! だよね。
俺もその位は予想できた。
ゴブリンも予想できてる……はず。
ダレンさんが、ゴブリンが抱き着いた様子をチラッと見た。
「頑張ってますね~。でも、小林さんはアホなので気を付けてくださいね」
「え? なんだって?」
さっき、俺のことをダレンさんがアホって言った気がする。
ゴブリンがその言葉を聞いて、恥ずかしくなったのか赤い顔をして離れる。
何だかダレンさんとゴブリンでは、意味が通じてるようだ。
「ダレンさん、行ってみよう」
どんな感じだろう。
大浴場が見たくなった。
「ワタクシも楽しみです」
俺はそのまま、お風呂に入っちゃおうかな~と思い魔法バッグを持って行く。
みんなで行こう。
読んだらブックマークと評価お願いします