48話 何か違う気がする
それにしても、何でまたベルさんはそんな恰好を……。
「ベルさん。どうして、そんな恰好してるんですか?」
気を抜くと、俺の見える世界がベルさんだけに向かってしまう。
「え? 何でって……嫌ですか?」
ベルさんが近付いてくる。
視界にベルさんの顔が大きく映る。
ベルさんのお風呂上がりのいい匂いが鼻腔の中に迷い込んできた。
何だか、変な気分になってくる。
ゴブリンが居てくれなかったら、その下着の素材とか構造とかを調査したくなってしまう。
「えっと……嫌じゃないけど、……何か違うと思う」
「違う?」
ベルさんは不思議そうな表情でキョトンとしている。
「俺は患者さんで、ゴブリンは患者の家族だからいいような気がするけど、医療従事者にはちゃんとして貰わないと……」
俺は未だに盗賊の格好をしているし、ゴブリンはお風呂から上がってフリーサイズのパジャマ姿。
だけど、患者とその家族だから仕方がない。
だけど、ベルさんのまるで恋人と二人きりで楽しむような恰好。
これは職場で医療行為を行う人物として相応しくない気がする。
元? 医療機器だし。
「医療従事者?」
何それ? みたいな表情をして聞き返してきた。
「だって、ダレンさんはお医者さんでベルさんは医療機器兼医療スタッフでしょ?」
言葉の意味は知っているはず。
だって、ベルゼバブブが創ったベルさんだから。
「医療機器兼医療スタッフ……」
ベルさんは呟いた。
「職場でそういうことしちゃあ、いけないんじゃない?」
職場でそんな恰好は不謹慎だ。
そんな刺激的な恰好していると、俺みたいに探究心の強い人が布の材質が何か、知りたくなるかもしれない。
「ここって、職場? 私って、今も勤務中?」
病院で役割を持っているんだから、職場じゃないの?
白衣で居ろとは言わない、でも、その恰好はけしからん、と患者として指摘しておく。
俺はさも、当たり前だよ……という表情をして話を続ける。
「それに病院って、公共の場だからベルさん猥褻物陳列罪で捕まるよ……捕まえる人居ないけど……」
むしろ、俺が捕まえてもいい。
……そう思ったけど、ゴブリンがそれを感じ取ったかのように、殺気の籠った目つきをしたので、言えなかった。
「う~ん、そうですか……じゃあ、患者との恋愛はどうしたらいいんですか?」
「恋愛? 恋愛はプライベートなところでやればいいんじゃない? 病院じゃない所……」
普通は、職場で堂々とイチャイチャしてるのを見たら、心が居た堪れなくなってしまう。
少なくとも俺は……。
そういう所に関しては、人の不幸は蜜の味。
人の幸福は毒の味だ。
「病院じゃない所なら、いいんですね」
「まあ、患者がいなくて職場じゃない所ならいいと思うよ」
患者って、俺だけだけど……。
「……そうですか。う~ん? 2階はプライベートルームだから……」
「一人で独り言を言ってる?」
「それ、重語……二重表現?」
ゴブリンが表現について指摘してきた。
腹痛が痛い、馬から落馬など無駄に言葉を重ねることが重語だ。
世の中には重語が溢れてるから、割と気付かない人も多いのに……。
「そっか、ゴブリンがいるからか……今は……ってこと?」
ベルさんは独り言モードだ。
「医療従事者って、独り言多いんだよな」
ベルさんは独りの世界にひとしきり浸って、何かを納得した。
「もう、小林さんったら……恥ずかしがり屋さん」
「え?」
「じゃあ、寝る時ね。とりあえず、着替えてくるわね」
とか言って、透析室から出て行った。
また着替えるのか。
たくさん服を持ってるみたいだ。
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