47話 知らない内に、俺は魔人になっていた
「両方いける人だったとは、予想外だったわ……こんな事なら、シャワーを先に入るんじゃなかった」
「両方?」
両方って、どういう意味だろうか。
「お兄ちゃん……」
ゴブリンが困惑の視線を向けていた。
ゴブリンも混乱しているのかもしれない。
……何を考えて、ゴブリンはそんな視線を?
両方……両方、両方……!
そういうことか。
「違う……、違うんだ。ダレンさんは俺がよろめいたのを助けてくれただけなんだ」
事故だということを、主張した。
「小林さんは、長時間ベッド上で寝ていたために、起立性の低血圧を起こしたのです」
ダレンさんが、答える。
ダレンさんの方が俺より、ウソをつかないイメージがある。
俺はちょっとずつ、小さな嘘を重ねてしまったから信用が落ちてる。
「え? そうなんですか……? 起立性低血圧……。う~ん」
ベルさんは少し考え込んでいる。
ダレンさんの言葉は信じるの?
俺の好感度や信頼は、常に大きく変動をしているらしい。
ベルさんの表情を覗き込んでいるゴブリン。
そして、ベルさんはこう結論付けた。
「そうですね。確かに、服も着てるし……行為には及んでいない。起立性低血圧も十分考えられる。現状では……証拠不十分ですね」
おお、無罪だ。
無罪を勝ち取ったぞ。
でも、俺が何をしたというのだろう。
悪いことをしていないのに疑われるなんて、損した気分だ。
もう……いいや。
損とか、考えるだけで損だ。
「良かった。そうなんだ、これは事故なんだよ」
疑いが晴れて良かった。
「お兄ちゃん……」
ゴブリンがホッとしたような表情をした。
なのに、また、ゴブリンの表情が険しくなっていく。
あ……ベルさんの姿を直視しすぎていた。
「違うんだ、違う……そういう、いやらしい意味で見てるんじゃないんだ」
まずい、これでは俺が変態だと誤解されてしまう。
ゴブリンの視線が痛い。
「お兄ちゃんのエロ魔人……」
知らない内に、俺は魔人になっていた。
「下着のデザインに興味があって、いい下着だなあって。……そうだ、勉強のため」
我ながら、良い言い訳だ。
ベルさんがその言い訳を聞くと、表情が見る見る曇っていく。
「……じゃあ、女の人じゃなくて……、私の身体じゃなくて……下着のデザインを?」
何か、違う感じに響いているみたいだ。
やばい……そうなっちゃうのか。
どうすりゃいいんだ……。
これは……。
「すいません。ごめんなさい。嘘です。ベルさんのネグリジェから目が離せませんでした」
「そ、……そうなんですね……ウフフ」
あれ? とても機嫌が良くなった。
「この下着は、ネグリジェじゃないです。透けるベビードールの下にショーツを組み合わせているんです」
ネグリジェじゃないだと?
そういう刺激的なヒラヒラした下着はネグリジェだと思ってた。
ベビードール? 何それ?
ショーツとパンティはどう違うんだ?
何て、奥が深い世界なんだ。
素材は何なのだろう……。
そんな探究心が働きそうなのを、誰かが止めてくれた。
痛い視線を感じる。
「お兄ちゃん……」
ゴブリンが俺の探究心が暴走するのを止めてくれているようだ。
常に俺のことを監視し続けている。
この視線が続く限り、探究心は抑えられるに違いない。
なかなか、目線を逸らせない俺。
……もう、痛い視線はしょうがないか。
そして、目線を逸らせないのもしょうがない気がする。
ベルさんはゴブリンとは反対に何故か嬉しそうだ。
でも、こんなことをしていると夜が明けてしまう。
何とか、必死にベルさんの身体から目を逸らしてダレンさんに話し掛ける。
「そうだ、遅くなっちゃうからダレンさんもシャワー浴びてきてよ」
ダレンさんがスムーズにシャワーに入れるために、透析を早めに終わって貰ったのにな。
こんなことしてたら同じだ。
もう少しで、10時。
「ええ……、じゃあ。行ってきますね」
ダレンさんは颯爽と透析室から出て行った。
俺の中の称号は、ゴブリンによって大変態から、エロ魔人に変化した。
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