39話 ハゲとヒゲとダレンへの嫉妬
「あれ……お兄ちゃん。私と愛を語り合ってたのに」
変な夢を見ていたに違いない。
「それ、夢だよ。疲れているんだよ」
「夢だったのかあ」
どこか、この世にない遥か上空を眺めている。
「ベルさん、もう小説読むのやめて。ご飯だよ」
「……」
聞いてない。
「ダレンさん。ベルさんから本取り上げて」
ダレンさんはベルさんから、本を取り上げようとする。
本を持って、引っ張る。
離さないベルさん。
引っ張り合いになる。
赤頑張れ、白頑張れ。
……と思ったけど、ステータス的に圧倒しているダレンさんは本を奪い取った。
「せっかく、イイところだったのに……」
不服そうな表情。
ほっぺを膨らませている。
「ご飯を食べてから、読んでください。そんなことしてたら寝る時間ですよ」
ダレンさんがお母さんみたいだ。
「皆さん、ベッドについてください」
もう、恒例の病人スタイルの食事会。
まだ2回目だけど。
ほぼ、みんなベッドに座っているから立ってるのダレンさんだけ。
辺りがシーンッてなっている。
「じゃあ、ダレンさん。そこのベッドに座って……」
俺がボソッと告げる。
「はい……」
ゆっくりとベッドにつくダレンさん、背中に哀愁が漂う。
「はい、じゃあ遠隔スキャン」
天井から光が降りてくる。
光の柱が身体に降り注ぐ。
「じゃあ、サイドテーブルの上に出します」
ボンッ。
次々と、サイドテーブルの上に食事が出てくる。
今日はハンバーグだ。
俺の前に大容量のハンバーグが置かれる。
あと、スープとサラダ。
スライムトースト。
ジュース……。
こんなに食べてもいいのかな。
ゴブリンの前にも同じものだけど、俺よりも大容量のものが置かれる。
ダレンさんの前にはやっぱり、海藻サラダ。
ベルさんにはミルク……ではなくて、俺と同じものより量が多いハンバーグ諸々。
「ダレンさんはいつもサラダですけど……髪の毛生えたら出ないんじゃないんですか?」
「マンドラゴラでできた薬は、なかなか抜けないようです」
「ダレンさん、薬やってたの?」
何の薬? 若干危ないと思ってたけど、やっぱり?
「覚醒剤、だめ……絶対」
ゴブリンがポスターに書いて有りそうなスローガンを言っている。
「何の薬ですか?」
俺は疑問に思ったので聞いてみた。
「ハゲとヒゲにする薬です」
「え?」
そ、そんな薬が……なんでやめちゃったんだよ。
俺……悲しい。
「何でやめちゃったんですか~。ハゲとヒゲで良かったのに」
ダレンさんに疑問をぶつける。
「あの、小林さんは何でそんなにダレンさんのハゲにこだわるんですか?」
ベルさんが俺に、不思議そうに聞いてきた。
「ダレンさんは恵まれすぎてるんだよ」
「恵まれすぎてる?」
「だって、神だし、ステータス高いし、優しいし……唯一、俺が勝ってた髪まであるなんて……」
「小林さん……」
ダレンさんがこっちを見てる。
「俺は顔は普通だって言われてた。カッコ悪くもないし格好良くもない」
元の世界で自分に言い寄ってきた人に聞いたら、そう答えられた。
個性のなくマイナス要因のカタマリの自分より、ダレンさんの方が魅力的だと思う。
「お兄ちゃん……」
ゴブリンも話を聞いてる。
「しかも、頭もいいし、病気もないし、髪が生えてかっこよくなって、自分が情けなくなる……」
みんなが俺を見ている。
空気が若干重くなったかな……。
「つまり、嫉妬……というか、羨ましすぎるんですね」
ベルさんがまとめてくれた。
「小林さんはワタクシをそんな風に見てたんですね」
「うん……だから、別にハゲとヒゲに執着しているんじゃないよ」
「ハゲとヒゲのカッコよさをわかっているのは小林さんだけだと思ってたのに……」
ダレンさんの表情が悲しそう。
ハゲとヒゲに未練があるのか。
今の方がむさくるしくないし、女性ウケはいいと思うんだけどな。
「前のダレンさんのイメージの方が自分に都合良かったから……」
自分のコンプレックスに耐えきらなかったが故の気持ち。
それがハゲとヒゲへの俺の未練だ。
「お兄ちゃん、大丈夫。お兄ちゃんには私が……」
「さて、ご飯食べましょうか。冷めちゃいますよ」
うん、空腹と低カリウム血症で死んでしまう。
「じゃ、食べようか」
俺は食事の開始を促す。
「今日は3種類のモンスターを使ってますね」
読んだらブックマークと評価お願いします