27話 白い世界の赤い悪魔
「ダレンさん、なんかおかしい」
「え?」
ヒールが効かないとなると……。
ゴブリンの呼吸はどんどん荒くなっていく。
「ダレンさん、俺のところにゴブリンを連れてきてくれない?」
「早くしないと、危ないんですよ。小林さんに何か出来るんですか?」
「大丈夫。俺が絶対助けるから」
「……何かあるんですね……分かりました」
ダレンさんに近くまで運んでもらう。
「よし、やるか」
ゴブリンの身体に俺は手をかざす。
全部のMPを掛けて。
浄化のイメージ。
俺の手から何か白い光が見えた。
急速にゴブリンの症状が改善していく……。
呼吸が落ち着いていく、顔色が良くなっていく、眼が……開いて……。
俺の……意識が薄れて……いく……。
ダレンさんの声が聞こえる。
「小林さん、小林さん!」
何度も見ている世界が訪れた。
どこまでも白い、真っ白な世界だ。
今度は誰だろうな。
今度は髪が赤い人だ。
「ワタシは嵐と慈雨の神バアルよ」
バアル……バアルさん……バアルさんか。
ダレンさんがよく言ってる人か。
なんて綺麗な人なんだ。
包容力というか、柔らかさというか、そういうものを感じる。
「バアル・ゼブブがワタシの名前……人によってはベルゼバブブと呼ぶけれどね……」
「!」
バアルさんって、ベルゼバブブ……。
あのコバエの……。
……憎いと思っていた。
……殺してやりたいと思っていた。
俺の苦しみの元凶。
病気のきっかけ。
転移のきっかけ。
出会いのきっかけ……。
病院の卵……彼女が創ったのか。
「……ワタシの息子と仲良くしてくれて、ありがとうね」
「え? 息子?」
「あの子は、いい子だからよろしく頼むよ」
何時も通り、一方的に喋る白い世界の人達。
夢の世界なのだから、本当かどうかわからない。
けれど、間違っていない気がする。
「BELL-822はね。人型に変身できるようにしたんだ。自我は自分で設定しなよ、ポイントあげるから」
「え? 自分で設定?」
「ジョブも特別にあげるよ。Kを入れ忘れちゃったけど……」
「K?」
「バイフェージック、270J。ショックします」
誰の声?
聞いたことのない声だ。
少し無機質な女の人の声……。
強い衝撃。
でも、懐かしい衝撃。
白い世界が消えて、透析室の天井が見える。
女性の手が右肩と左脇腹にある。
「自己放電完了。心電図解析。正常。sinus。自己放電モード完了しました」
身体から手が離れる。
銀色の髪の人だ。
今度は元の除細動器には戻らないようだ。
でも、相変わらず無表情……。
只々、棒立ちになっている。
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
「小林さん、目が覚めたんですね」
「今度は気絶してる時間長くなかった?」
「え? 数秒ですけど」
どうやら、白い世界の時間とこっちの世界の時間はマッチしないようだ。
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