26話 俺にとっての異次元の強さが負けた日
今何時だろう?
17時か。
合計で8時間くらいは透析をやった計算だ。
折角、魔法を覚えたのになあ。
透析やって、カウンターショックやって、人工血液を輸血して、血糖センサーつけて……。
ウォーター、サンダー、ウィンド、ヒール、キュア。
もう、俺って凄いんじゃないか。
異世界に来た甲斐があったなあ、と思う。
勇者じゃなくて、魔法使い目指そうか。
でも、気絶しちゃうからなあ。
気絶する怖れがあるから、気絶してもいい時じゃないと魔法が出せない。
いや、怖れというレベルでなくて、ほぼ100%気絶するだろう。
気絶していい時なんてあるのだろうか。
誰かにそばにいてもらわないと危ない。
そして、傍らに除細動器にも居て貰わないといけない。
それにしても、透析をやり続けていると寝ているだけなのに疲れる。
5時間超えたくらいはまだ良かったけど、8時間は疲れてきた。
ダレンさんは相変わらず、何かの書物を読んでいる。
髪の毛が生えてからというもの、真面目すぎる。
一体、ダレンさんはどんな経験をしてきたのだろうか。
そういえば、ゴブリンはどこに行ったのだろう。
いつの間にかいない。
「ダレンさん。ゴブリンは?」
「外で適当にモンスターを倒してくるって言ってましたよ」
何だか軽い感じで返ってきた。
「大丈夫なの? 結界壊れてるのに」
未知なことだらけのこの世界。
ゴブリン一人で大丈夫なんだろうか。
「大丈夫ですって。他のゴブリンが住んでいる地域は、ここからずいぶん離れてますから」
「それはいいんだけど、モンスターの強さは問題ないの?」
ゴブリンが強いのは分かるけど、それより強いモンスターだっているかもしれない。
「ここら辺は、もともとあんまり強いモンスター居ませんから。蛇が強いかな?」
「ゴブリンが危ない目に合わなければいいんだけど……心配だな」
ゴブリンに任せておけば、モンスターは全部倒せるんじゃないかと思っていた。
けれど、ドラゴンの一発で気絶したゴブリンをみると彼女にだって勝てない敵はいそうだ。
ダレンさんはレベルを上げるためには、神や悪魔の協力が必要だと言っていた。
一体、加護が得られないこの世界の人間はどうやって生きているのだろうか。
ゴブリンやスライムが倒せれば生きていけるのかな。
この異世界では普通の人間は生きるのが難しい気がする。
ごく普通のゴブリンやスライムや村人は、まだ俺の想像で収まる範囲内。
けれど、そっから先は俺にとっては異次元でしかない。
だから、ゴブリンの能力は俺にとって異次元だ。
そして、ドラゴンを倒したダレンさんは超異次元だ。
超異次元のダレンさんの大丈夫という言葉は、はっきり言ってアテにならない。
ゴブリンが心配だ。
無事に帰ってくるだろうか。
「ダレンさん。蛇ってどれくらい強いんですか?」
なんだか嫌な予感がして、ダレンさんに聞いてみた。
「大きいヤツはドラゴンの半分の半分に少し足したくらいだと思いますよ。……ほんわかとそれくらいだった気がします」
「それ、多分……普通にやばい気がします」
ドラゴンのステータスは大体1000だから半分の半分は250。
少しがどれくらいかわからないけど、平均ステータスは300~400くらいかな?
全部、推測だけど。
それにしたって、ゴブリンのステータスは一番高い敏捷が装備を含めて210しかない。
「30分くらいで戻ってくるって言ってたから、もう戻ってくるんじゃないですか?」
「何時、行ったんですか?」
「40分くらい前です」
もう、時間を過ぎてる。
「……ダレンさん、あの子は言った時間を守る子ですよ。何かあったんじゃ……」
ゴブリンは銅の剣に時計が付いているせいか、時間を守るイメージがある。
ダレンさんを待っている時だってスライム退治を5分で済まして、5分前に戻ってきたんだから。
「……ちょっと、見てきま……」
その時、透析室にゴブリンが入ってきた。
「お兄ちゃ……」
ゴブリンがヨロヨロとこっちに歩いてきている。
なんだよ、傷だらけじゃないか。
ゴブリンの腕やら、足やらが傷だらけだ。
ブラックワンピースは無傷だけど、あっちこっちに血が付着している。
「だ、大丈夫ですか!」
ダレンさんが駆け寄る。
その場に、ゴブリンは崩れ落ちる。
意識を失ってるようだ。
俺は透析中で、何もできない。
「す、直ぐにヒールを掛けますね」
ダレンさんが全力でヒールをかけていく。
傷はどんどん塞がっていく。
傷は塞がったけれど、まだ、なんだか苦しそうだ。
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