21話 ハングリーランチタイム
「そういえば、お昼食べてませんでしたね」
ダレンさんも時間に気付いたのか、食事のことを気に掛けてくれた。
ダレンさんは腕時計を身体の中に入れてるから、いつでも時間が視界に表示されているはず。
ゴブリンは銅の剣に入っているから、透析室の時計で確認する。
「ねえ、今回は俺動けないんだけど……どうやって、厨房のパネルの前に立つの?」
今までは、生活スペースだけだったから大丈夫だった。
けれど、こんなに広くなってしまっては透析を中断して厨房パネルまで行くのも大変そう。
なんせ、階が違うのだ。
血液回路さえ固まらないようにしておけば、行けるのは行けると思う。
血液回路は脱血側と返血側を何かの管でつないで、クルクル循環させておけば固まらない。
そうすれば、俺は透析から離れて移動はできるはずだ。
それでも、ここは悪魔が創った医療施設。
透析室で食べられるくらいのことは、できるだろう。
「透析室ができて広くなったので、あらかじめパネルに情報を登録していれば大丈夫になりました」
ダレンさんがタイミング良く、その答えについて教えてくれた。
「さすが、悪魔の館」
俺はやっぱりなって思いで、讃える。
「お兄ちゃん、それって……蝋人形にしてやろうか~ってやつ?」
また、ゴブリンが変なことを言ってる。
「それ、もう知らない人いるから気をつけて」
話題が若干古い?
ゴブリンは昭和も平成も令和もごっちゃになって困る。
「あの、できれば二人はここで一緒に食べてくれない?」
一人で食べるのは、流石に寂しい。
透析自体は長時間なので、水もちょっとずつしか引かないから身体は全然平気。
1.5kgを4時間で引けば、1時間辺り380㎖くらいだが10時間で引けば150㎖でしかない。
これなら、血圧も下がりにくいだろうし足もつりにくいと思う。
一人になったってナースコールで……どっかにあるだろう。
「ワタクシは大丈夫ですよ。ここにいますから。ま、もう髪があるから何も出ないでしょうけど」
ダレンさんは一緒にいてくれる。
「私もいいよ、特に用もないから」
ゴブリンも居てくれるようだ。
「良かった。こっちの世界に来てから、心細くて心細くて。変なことばかりしてるから断られるかと思った」
「自覚はあったのね……」
ゴブリンが冷めた目でこっちを見てる。
「……分かっててやっていたのですか。タチが悪いですね」
ダレンさんも、何だか冷たい眼差し。
……墓穴を掘った。
「血液回路から採血をさせていただいて、カリウムが正常範囲まで下がってれば食べていいですよ」
カリウム次第らしい。
「別に、ずっと透析してるんだから食べて平気じゃないですか?」
もう俺は大丈夫な気がしたので、そう言った。
「ワタクシもそう思いますけど、念のためです」
ダレンさんがナースステーションの奥に行ってシリンジを持ってくる。
血液回路から血液を採取し、血液ガス装置の方へ向かう。
「うん、大丈夫ですね。もう正常範囲です」
測定結果の用紙を読みながら歩いてくる。
良かった……、もうお腹ペコペコだ。
透析をすると血糖値が下がるし、いろいろ抜ける。
透析中に何も食べないなんて、やっていけない。
「まあ、生き物は食べないと大変でしょうから。……ちょっと待ってくださいね」
ダレンさんは魔法バッグから生活スペースにあったのと同じ形のタブレットを取り出した。
「あれ? ダレンさん。それって、いくつもあるの?」
「えっと、3つありますよ。生活スペースに1個とワタクシが持っているもの。あとナースステーションにあります」
知らない内にタブレットが増殖してる。
「へえ……、やっぱ大きくなると増えるんだ」
俺も操作ができるなら、自分用のタブレット端末が欲しい……。
文字は読めるけど、何故か操作させてくれないこのシステム。
ダレンさんがタブレットを操作した。
「えっと……、遠隔スキャン開始っと」
ダレンさんの操作で天井から光が降りてくる。
光の柱が身体に降り注ぐ。
「はい、終わりました。サイドテーブルの上に出しますよ」
サイドテーブルの上に置いてあった魔法バッグを枕元に移した。
俺の前のサイドテーブルに料理が出る。
俺も起き上がらないと。
「ちょっと起こしてよ」
ゴブリンの手を借りて、上体を起こす。
血液回路だけ引っ張らないようにしてもらわないと。
ベッドの頭部をギャッチアップして貰って準備万端。
これは、いわゆる座位だ。
続いて、料理が次々と出現する。
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