20話 罪と罰とカウンターショック
「ダレンさん?」
ゴブリンがダレンに疑問を投げかけている。
「……なんだったんでしょう」
BELL-822という除細動器は何事もなかったかのように、そこに存在し続けている。
自己放電というスキルを行うためには姿を変える必要があるのだろう。
パドルが勝手に伸びてきて、カウンターショックを行ってもいいかもしれない。
それでも、人の姿になったほうが自然な感じはする。
電気を片方の手から流して、もう片方の手の平で回収するのは悪くない方法なのかもしれない。
でも、面積が狭いとヤケドするし、女の人の小さな手の平では向いてないのではないだろうか?
それでも、ショック治療を受けた俺の身体にはヤケドはないようだ。
痛くもないし、熱くもない。
魔法とか術とか、そういう類のものなら接置面積を上げるようなことも……きっとできるのか。
悪魔が創ったのだから、そういう機能面に関しては凝っている気がする。
抜けているところはあっても、変な所には凝っているそんな人間性を感じた。
きっと、悪い人ではないのだろうけど変な人だ。
ダレンさんが好きなんだから、普通の人であるわけがないと思う。
……そんなことを考えながら、目の前の状況に意識を向けた。
二人は驚いた表情で、顔を見合わせている。
「二人共。大丈夫?」
何だか、その驚いている時間が長く感じたので声を掛けてみた。
「小林さんこそ、大丈夫ですか?」
逆にダレンさんに心配される。
気を失ってたのは自分だから、当たり前か。
「お兄ちゃん……なんで? なんで、そういう馬鹿なことするの?」
とても、真剣な表情をしている。
何か……罪悪感を感じた。
……今日はやめておこう。
「……ごめん。もう今日はしないよ」
明日は大丈夫かな。
「ダレンさん、お兄ちゃんは魔法に関しては信じちゃダメですよ」
なんで?
「そうですね。信じたワタクシがダメでした……」
ダレンさんは息をふーっと吐くと、残念そうな表情をした。
「ダレンさん……大丈夫だよ、今日は使わないから」
「お兄ちゃんは、今日だけやらない気なんです。なんか、やらない方法を考えないとダメです」
なんで、そういうことを言うんだろう。
「それじゃ……透析中の筋トレの負荷を上げます」
「え?」
筋トレなんて、藪から棒に何てことを言うんだろう。
「今日は疲れたと思ったから、トレーニングを免除しているんです」
「透析中に起きてるだけじゃダメ?」
俺に筋トレなんて、苦しいに決まってる。
「知ってますか? 透析中の運動を推奨している施設があるってことを」
「ダレンさん、看護師の国家試験の問題で透析中は安静とする、が正解だったよ」
滅多に看護師の国家試験に出ない人工透析の問題。
それでそう言っているのだから、筋トレなんてしなくていいんじゃないだろうか。
「透析患者さんの身体能力は普通の人の半分が普通だそうです」
「……まあ、そう言うよね」
透析の学会に行った時に、そんなことを聞いた覚えがある。
「この後、腎臓が元に戻ったとしても……筋肉がないと、最低限の強さにもなれないですよ」
それは、正論過ぎるくらい正論な気がして何も言えなくなった。
人生は苦しみの連続だ。
ここで、この苦しみを受け入れないと……もっと大きな苦しみがくるかもしれない。
「……わかりました」
ゴブリンがいろいろ言わなくても、きっとこの先……魔法を練習する余裕なんてないのかも。
その時、また不思議な声が聞こえ始めた。
[BELL-822のレベルが上がった]
[BELL-822は自我を獲得した]
[小林直樹はカウンターショックの治療によってウィンドを獲得した]
お、きたきた。
カウンターショックを受けると、色々と閃くみたいだ。
そして、BELL-822には経験値が入る。
やっぱり、そういった一連の事象は嬉しい。
その時……俺のお腹がぐ~っと小さく鳴った。
もう、13時を過ぎている。
二人に言ってみよう。
「そろそろ、お昼食べない?」
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