19話 銀色の髪の人
ふと、身体が楽になった。
「あ、心房細動が治ったみたいですね」
おお、身体がだるいのが治った。
MPを確認する。
あ、また回復してる。
ちょっと上限が上がっているぞ。
今度はMPが11。
使っていると、MPが上がるのだろうか。
これは……俺の時代が来たかもしれない。
雷魔法を上手く気絶せずに使い続ければ、雷魔法をカッコよく決められる時も来るだろう。
幸いにも、ゴブリンから隠れて練習すれば透析していても鍛えられる。
そうだ、布団を被ろう。
頭から布団を被った。
これで準備万端。
指を1本立てる。
よし、いくぞ。
指先に神経を集中する。
……とその時だった。
バサッ。
世界が明るくなった。
光あふれる世界。
そして、絶望的に明るい世界。
お兄ちゃんと呼ぶ、可愛い悪魔のいる世界。
「お兄ちゃん……何してるの!」
「え……」
ヤバイ、怒られる。
そもそも、ゴブリンはいつの間に俺を叱る立場になったのだろう。
対等だったはずなのに……。
指を1本立てたまま、時は止まる。
しかし、時というものはいつかは流れるもの、いつまでも止まってはいられない。
きっと……間もなく時は動き始めるだろう。
どうやって、切り抜けるか。
頭を一生懸命働かせる。
「その指は何やってるの?」
来た。
的確な指摘。
指を立ててすることなんて、日常生活にあるだろうか。
「いや……この指は……」
なんて言おう……頭が混乱する。
指の筋トレ?
指人形の練習?
一人で指と会話を……。
ダメだ。
思いつかない……絶望的な状況。
「……は……は……鼻を……鼻をほじろうと思ったんだよ。それで、見られるのが恥ずかしくて」
お、我ながら良い言い訳だ。
「お兄ちゃんは危ないからなあ……。水を出したあとから魔法を使いたそうな顔してるから」
「そんな顔してるかな……ハハハハ」
何なんだ、ゴブリン。
なんで分かるんだ。
まるで、心を読んでるみたいだ。
でも、そんなはずはないな。
そんな能力があれば、俺の気持ちがもっとよく伝わっていても良いはずだ。
大丈夫……俺ならうまくごまかせる。
根拠のない自信が溢れてくる。
そういえば、母親が時々言ってたっけ。
その根拠のない自信はどこからくるんだい?
どこから来るかって、きっと宇宙……?
それでも、これは気をつけてやる必要があるな。
「寒いから布団を掛けといてよ」
「ごめん」
ゴブリンは謝ると丁寧に布団を掛けてくれた。
そうだな、全部隠そうとするからいけない。
手だけ隠そう。
指先を見ないで布団の中で電気を流せばいいんだ。
静電気みたいなもんだし、これでMPが増えるなら儲けもんだ。
布団の中で指先に集中する。
バチバチバチ!
ベッドサイドモニタがアラームを告げる。
「お兄ちゃん!」
「小林さん!」
あれ?
……威力が上がってる……。
白い世界がやってきた。
「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」
誰だろう。
髪の毛の青い……女の人だ。
「私はルシファー、出番がないから出てきたの」
悲しそうな表情で俺に意味不明なことを伝える。
「致死的不整脈ヲ感知シマシタ。ショック治療ヲオコナイマス」
何を言ってるんだろう。
ルシファーという人……ロボット言葉だ。
「270Jバイフェージック。ショックシマス」
ビビビビビビビビビビビビビーーーーーー。
充電完了音の次の瞬間……。
身体に走る衝撃。
白い世界から戻ってきた。
透析室の天井が見える。
ふと感じる温かな温もり。
誰かの手が右肩と左脇腹にある。
誰?
色白な顔に銀色の髪の毛。
白い服を着た……無表情な女の人だった。
「自己放電ヲ実行シマシタ」
……ジジ……ジジ……。
ノイズ音が聞こえる。
「自己放電完了。心電図解析。正常。サイナス。自己放電モード終了……」
彼女は俺の身体から手を離し、ベッド脇に直立不動で立ち尽くしている。
……と彼女の身体が青白く発光する。
四角い形へと姿が変わっていった。
そこには、医療用除細動器のBELL-822があった。
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