15話 ありがとうが伝えたくて寂しくなった
透析が始まって、一安心。
それにしても……前の世界でも病気、異世界に来ても病気か。
俺の人生は散々だな。
思い返してみると、今日は色々なことがあった。
……といっても、まだお昼にもなっていない。
短い時間に色々あり過ぎて、頭の中がグルグルしてしまいそうだ。
ドラゴンが倒せてよかった……と思ったら、また一難あるとか誰がわかろうか。
ドラゴンを倒した御陰で〈病院の卵〉は透析と外来診療を備えた医療機関らしいものになった。
そして、その恩恵を真っ先に受けるのが俺の身体。
今はゆっくり休みたい。
人工透析を受けられるようになったから、人工透析ができる内は何とか生きられそうだ。
この建物で出される食事を食べている限りは高カリウム血症なんて、なるとは思わなかった……。
まさか操作ミスで、こんなことになるなんて。
人工透析でカリウムが下がれば、この経皮ペーシングも心電図も外れてくれるはずだ。
転移前の世界で透析患者の方々にカリウムに気を付けて、死んじゃうよって言ってた俺。
透析患者の全死亡原因の2%前後くらいが毎年お亡くなりになっている。
カリウムは筋肉中に多く存在するから、筋肉の少ない人は簡単に上がってしまう血中のカリウム。
今の激弱で筋肉減少中の俺も同じだ。
それを考えると……食事コントロールの難しい透析食を美味しく作ってくれるここの厨房は優秀。
カリウムを抑えるためには野菜は水に晒しておいたり、煮こぼしたり……けど風味も落ちる。
異世界に来てなかったら、食事だけで俺の人生の質は低下してたに違いない。
病気になってしまったのは残念だったけど……この建物があってホントに良かった。
そして、俺のために一生懸命になってくれる二人に出会えて……。
こんなに嬉しいことはないなと思った。
「ダレンさんいる?」
俺が休んでいる間、席を外していたダレンさんを呼ぶ。
「なんですか?」
「いや、お礼が言いたくて。ありがとうダレンさん」
助けてくれたダレンさんには感謝しても感謝しきれない。
「嫌だなあ。急に……気持ち悪い。ワタクシはバアルさん一筋なんですから」
そういう意味じゃないのに……何か変な風に伝わった。
バアルさんって誰だろう。
「ゴブリンいる?」
「なに?」
ベッドサイドモニターの向こう側の隣のベッドから声が聞こえた。
顔が見えなかっただけで、傍に居たみたいだ。
「ごめん。心配かけて。……あと、ありがとう」
「……うん、どういたしまして」
なんか、照れ臭かったけど言いたくてたまらなかった。
そして、心が寂しくって仕方がない。
誰か傍にいてほしい気持ちが強い。
できれば、二人ともいてほしいのだけど。
話題が欲しくてダレンさんに話しかけた。
「そういえば、ダレンさんは下界制限外れると、あんなに強いんだね」
「まあ、ワタクシはレベルを上げてもらいましたから」
ダレンさんのレベルは誰かの助けによるものなんだろうか。
「レベルか……俺も、上がるの?」
モンスターさえ倒せれば、俺も強くなれるかもしれない。
「上がらないですね」
何で? 俺だけ?
「え? 上がらないの? ゴブリンは?」
「上がりません」
レベルって今のままじゃ、上がらないのか。
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