13話 心臓が止まりそうだから……
透析室のドアをダレンさんが開ける。
俺を抱き抱えたまま、透析室に入るゴブリン。
開けた空間に出た。
入ってすぐのところにカウンターがあって、その横に体重計がある。
人がもしカウンターにいたなら、受付とか説明とかするんだろうな。
マスクが置いてあって、ダレンさんは自分にマスクをする。
ゴブリンもマスクをつけた。
俺にもマスクを着ける。
俺達の他は誰もいないから、いらないと思うんだけどな。
体重計は軽くスロープがついていて、車椅子でも測れるようにバリアフリーになっている。
幅が1mくらいある大きなものだ。
透析室としての備品として、体重計は必要不可欠なものだと言える。
俺は透析室の中をぐるりと見回した。
透析の機械とベッドは25組みあるようだ。
ベッドが25床もあるのだから、まずまずの規模の透析室。
ベッドは勤務先のベッドの大きさから比べると、だいぶ大きい。
セミダブルくらいはあるのかもしれない。
透析の機械のパイロットランプは殆どがグリーンで、いつでも透析できる状態らしい。
いくつかは青色で洗浄中のようだ。
透析室の壁際にはダレンさんが言っていた血液ガス装置が置いてある。
透析室に置いてあれば便利だろう。
「そこです、そこの近いところでいいです。そこに寝かしちゃいましょう」
透析装置のパイロットランプが緑色の所で、入口に近いところのベッドへ向かっていく。
ダレンさんはベッドに備え付けの体重計の電源をオンにした。
「はい、いいですよ。準備OKです」
ゴブリンは俺を優しく、ベッドに降ろしてくれた。
それから、スライム素材の靴も脱がせて貰って、靴下の状態になった。
「ダレンさん? 何したんですか」
ゴブリンが不思議そうにダレンさんに尋ねた。
「体重は測っておかないとダメですよ、特に透析患者は。このベッドは体重計が付いてるんです」
ダレンさんは落ち着いた表情で説明している。
「ワタクシは透析の準備をしますから、10ccシリンジを3本持ってきてください」
ダレンさんはそう言いながら、ベッドサイドモニタを俺の傍まで持ってくると電源を入れた。
心電図電極を両胸と左脇腹に全部で3個貼り付けて、指先に青い血液中の酸素を測るプローブを挟む。
血圧計のマンシェットも手馴れた手つきで腕に巻きつけると、計測ボタンを押した。
同時にベッドサイドモニタはアラームを鳴らす。
ベッドサイドモニタの数字は脈拍が42回、血圧が90/40を表している。
血中の酸素は93%。
一瞬、誰のバイタルサイン? と思ったら自分だった。
「ちょっと、間に合わないかもしれませんね」
ダレンさんは除細動器を持ってきた。
除細動器のカウンターショックのパドルではなく、AEDパッドのような薄いパッドを右肩と左脇に貼る。
心電図電極3個を追加で両胸と左脇腹に貼り付け、除細動器のダイアルを回す。
「小林さん、透析が始まる前に心臓が止まってしまいそうだから経皮ペーシングしますよ」
電流と心拍数をいくつで打つか設定している。
経皮ぺーシングか。
経皮ペーシングは、リードを入れてペースメーカを埋め込むのではない。
皮膚に貼って、そこから心臓に電気を流してペースメーカと同じことをする。
心臓が止まりそうでも、心筋が生きていれば電気を流して打たせることができる。
経皮ぺーシングは心電図モニタとは別に、3枚の電極を貼らないといけない。
パッドが2枚と心電図電極が合わせて6個貼ってあって、もう胸とお腹はシールだらけだ。
電極やらなんやらで8本も線が出てるのか……。
何かゴチャゴチャ繋がれていて嫌な感じ。
「うっ、痛、痛、痛」
「ちょっと、電流が強すぎますね。弱めていきます」
経皮ぺーシングは皮膚から心臓に打つので痛い。
心臓が心拍を打てて、何とか我慢できる電流に調整していく。
「この辺でどうです?」
「ちょ……ちょっとピリピリするけど、だ、大丈夫です」
ベッドサイドモニタの数字は脈拍が80回、血圧が140/80を表している。
血中の酸素は100%。
アラームは鳴り止んだみたい。
身体は楽になった。
なんだ、心臓が打てないから苦しかったんだ。
ダレンさんは生理食塩水1リットルを1本と500㎖の生理食塩水を透析装置のスタンドにかける。
血液回路とペアンを4本、ダイアライザーを持ってきて、プライミングを始める。
ダレンさん……ホントにダレンさん?
まるで、医療従事者みたい。
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