11話 鼻血と変態と5億ポイント
「キーゼルバッハ部位の血管叢が負傷したみたい……」
鼻から何か水のようなものが……赤い。赤い水が流れてきた。
これは血? 鼻血。
「鼻の粘膜のキーゼルバッハ部位の血管叢にある粘膜は男性の方が破れやすいんですよね」
髪のあるダレンさんが補足してくれる。医療知識ついたんだね。
「お兄ちゃんって……」
その後に続く言葉は変態だろうか、最低だろうか……どっちもどっちだ。
そんなことを考えていたら、身体がおかしい。
神経が痺れる感じがする。力も入らない。息苦しいし、ちょっと、気持ち悪い。
「やばい……なんか、痺れてきた」
「小林さん? 小林さん!」
力が体から抜けていく……。
意識はあるけれど、体調が悪い。
だるい。
立っていられない。
腎性貧血?
鼻血が出たから?
……なんか違う。
確かに、鼻血が出たのはアレのせいだろうけど、貧血症状というよりは、筋肉や神経に直に来るような感じがする。
身体に力が入らない俺は、へなへなとその場でしゃがみこみ、横になった。
「これは……すぐにドラゴンをポイント化して、何か治療をしたほうがいいかもしれません」
「どうしたの?」
「はっきりわかりませんが、血液検査を直ぐにしたほうがいいと思います」
俺は寝ている以外何もできない。
ダレンさんは、ドラゴンを〈病院の卵〉に吸い込ませ、ポイント化しに行ったようだ。
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
「うん、な……なんとか生きてるみたい」
「私が、私が気を抜いたから……」
「いや、ちょっと調子に乗り過ぎた。多分、ゴブリンは関係ないと思うよ」
「鼻血……関係ないの?」
ゴブリンは不思議そうな表情で俺の顔を覗き込んでいる。
「今、透析施設ができました。何が原因か調べるので……、中へ運んでください」
ドラゴンをポイント化して、ハゲてないダレンさんは透析施設を拡張してくれたようだ。
ドラゴンと戦いながら、〈病院の卵〉からだいぶ離れてしまった。
〈病院の卵〉は拡張でどうなったのだろう。
建物に背を向けて横になっていた俺は、状況が分からなかった。
「わかりました。髪の毛のあるダレンさん。お兄ちゃんを運ぶから待ってて」
「……その呼び方、止めません?」
ゴブリンは俺の身体をひょいとお姫様抱っこして、運んで行ってくれた。
さすが、怪力……。
さすが強い子。
さすが……なんだろ?
今度、歩いてて疲れたらお姫様抱っこしてもらおう。
〈病院の卵〉の建物は以前と違って更に大きくなっていた。
「髪の毛のあるダレンさん。建物が大きくなったね」
ゴブリンが建物を見て、話しかける。
「ええ、ドラゴンのポイントがかなり多かったので」
だるい身体で顔を向けて、近づく建物を観察していた様子だと、2階建てになっているようだ。
1階がドンとあって、今までの建物がその上に載っている。
1階が下からせりあがってきたみたいな構造だ。
「透析設備が選べなかった理由がわかりましたよ。透析施設丸々が選択の最低単位だったんです」
「それって、どういうこと?」
「25個の透析の機械と25個のベッド、ナースステーション、除細動器、心電図モニタ25個、ベッドサイドモニタ5個、診察室1部屋、血ガス装置、X線検査室……」
何か、たくさん含まれているな。
「その他、針やガーゼなどの消耗品が諸々で5億ポイントでした」
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、億……なるほど。スライムだと2億5000匹倒さないとか」
ドラゴンでも倒さないと、透析はできなかったっぽい。
そして、髪の生えたダレンさんが来なかったら、ゲームオーバーだった。
でも、話が違うのではないか?
神の使いは下界制限が掛かっていて、力が発揮できなかったはず。
名前 :ダレン・カレン
種族 :神族
ジョブ:なし
レベル:300
HP :1300
MP :1200
力 :1010
敏捷 :1010
体力 :1010
知力 :300
魔力 :1000
運 :10
スキル:不明
称号 :不明
武器 :神界の辞典(風の理)
防具 :神界の衣
:神界のサンダル
:神界の下着(即死効果無効)
装飾 :魔力上昇の腕輪
下界制限は外れているみたいだ。
初めてステータスを見た時の数字に1000が足されている。
下界制限がHP、MP、力、敏捷、体力の数値-1000だったから、単純に戻っただけみたい。
レベルは300。
前は見れなかった気がする。
ゴブリンのレベル……ずっと1なんだけど、いつになったら上がるのだろう。
俺は倒してないから、上がらないのは当然だけど。
「聞こうと思っていたんですが……、知らない間に変わってしまいましたね、何かあったんですか?」
ダレンさんがゴブリンに話しかけてる。
「起きたら、こうなってました」
「……何か、小林さんに変なことされませんでした?」
俺は身体がだるくて、しゃべる気になれない。
ゴブリンが大人の階段を上りきってしまったかのような変貌を遂げたので、心配しているらしい。
「変なこと? 例えば?」
「例えば? えっと、しつこく触ってきたりとか……それから……」
「そういう男女の関係的なことは、なかったです」
「……そうですか、小林さんはひょっとして変態なんじゃないかと思っていたので」
そうか、変態か。
言いたい放題言いやがって。
そんな変態だと思われることはした覚え…………ないこともないな。
さっきの行動か。
さっきの行動が、きっと直樹変態説に確信を持たせてしまったに違いない。
変態という名声を下げなくては……。
見てろよ、変態の名声を……そりゃあ、もう全然だなって思えるくらいまで下げてやる。
そんなことを考えながら、〈病院の卵〉の中に入っていく。
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