10話 探究心は身を滅ぼす
「え?」
呆然とする俺。
元から、何もしてないけど。
「すまない。医学を学んでいたんだ。何度も、医者の人生を見せられていたから遅れてしまった」
「誰?」
ゴブリンを起こす。
「起きてよ。ドラゴン倒したよ。おーい」
ゴブリンの身体を揺する。
「え? あれ? ドラゴンは?」
「あの人が倒してくれたんだよ」
「あの人……」
ゴブリン……知ってるのかな。
「知ってる人?」
「知らない」
知らないのかよ。
その見知らぬ男性は、俺達を知っているようだ。
コウモリの翼……あ、消えた。
しまえるんだね。
髪は勇者っぽい髪型をしている。
アニメの物語の主人公がしているボサボサ頭だ。
服装は白い服を着ていて、片手に本を持っている。
あれ? どこかで。
「わたしだよ。わたし。ダレンだよ」
「お兄ちゃん、ダレンさんを語る詐欺を働こうとしているよ」
「ダレンさんはワタクシっていうぞ。それに、ハゲてないじゃないか。いやらしいヒゲもないし」
「そうだったか? なんだか、よく分からなくなってしまって……。一応ダレンなんだが」
「一応って、違うかもしれないってことじゃないか」
「ん~。日本で医者をやってた者の人生を何度も見てたら、何となく医者になった気がするんだが、自分がダレンなのか、高田純一なのか、分からなくなってしまった」
「何か、いい加減そうな名前だな」
なんとなく、日本にいた時の芸能人の名前に似ている気がする。
「ミスター無責任?」
そうだそうだ、そういう異名がついていた。
「カトリーヌの知識をこういう時は尊敬しちゃう」
「大丈夫。二人のことは覚えているし、〈病院の卵〉で小林を治してやるために医学を学ぼうと思ったんだから」
「でもなあ……あんまりキャラを変えると、対応に困る」
「ダレンさん、私もお兄ちゃんも違和感が凄まじいから、口調直してください」
「えっと、そう? わかったよ。ワタクシを使って……丁寧な言葉で喋るんだよな」
「そうそう、キャラを戻して。鳥肌が止まらない」
「ワタクシ、ダレンです。小林さん、これでいいですか?」
「うん、オッケー。それで喋ってくれれば何も文句ない。なんだ、戻せるじゃん」
「そうですね。こっちの方がしっくりきますね。ちょっと、混乱してました」
その時、強い風がピューっと吹いてきた。
ゴブリンのワンピースって、めくれないのかなって……男心に心配になった。
ゴブリンのワンピースは……全くめくれない。
びくともしない。
なんて安定感だ。
そういえば、ドラゴンと戦っている時でさえ、動いてもめくれていなかった。
心の底から不思議に思った。
ゴブリンに聞いてみる。
「ねえ、ところでさ。そのワンピースって、動きにくくないの?」
「え? 何? どういう意味? 大丈夫だよ」
そういう受け答えになるか。
あんまりストレートに聞くと変態の名声が上がってしまう。
「小林さんも、ドクロン装備にしたんですね」
「え? ああ、そうそう。なんか、性能がすごいから」
大事な考え事をしている時に、話しかけるから戸惑ってしまった。
「それは、ブラックワンピースですね。よく似合ってます。それは、自信作って言ってましたよ」
「ダレンさん、ありがと。これ、可愛くっていいなと思って」
「そのワンピースは、本人が許可を出さない限り絶対にめくれないという親切機能が付いてます」
「え? ダレンさん。このワンピースってそんな性能あるの? ……絶対?」
思わぬ言葉に身を乗り出す。
俺の疑問が解けそうだ。
絶対ってどういうことなんだ。
「頼みがある。めくらせて……」
「え……?」
電光石火の速さで(自分的に)ゴブリンのワンピースをめくってみた。
おお……見事に……めくれない。
つかんで上へ持ち上げようとすると、生地が伸びやがる。
「すごいな……これ」
「お兄ちゃんって、やっぱ変態?」
「違うよ。探求心が強いんだよ。いわば、勉強熱心と言って貰いたい」
「モノは言いようだね」
「ダレンさん。これって本人がめくれてもいいかな、って思うとめくれちゃうんでしょ?」
「ええ、そうに言ってましたよ」
思いっきりめくっても、どこまでも伸びる。
「お兄ちゃん、もう、いいんじゃない?」
「ああ、ごめん。もうやめておく」
……と見せかけて、もう1回。
後ろからめくってみた。
「え?」
バサッ……時が止まる。
全てがスローだ。
ワンピースの裾が上に浮き上がる。
目の前には黒いティーバッグが鮮明に……。
時間が止まった。
後悔したが、何でこんなことをしてしまったのか。
そして、再び時が動き出す。
「……ごめん」
とりあえず……謝った。
「しまった。油断してた……」
ゴブリンが呆然とした表情で答える。
「小林さん……」
ダレンさんがつぶやくように名前を呼んだ。
「うっ……」
「お兄ちゃん?」
「小林さん?」
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