4話 目覚めの朝と溜め息
朝。
たぶん、朝だ。
〈病院の卵〉の中は窓がないから、外の様子は分からない。
枕元の腕時計は7時を示している。
時間だから、もう起きないといけない。
病院で働いている時は、朝5時台に起きていたからそんなにはキツくないハズだと思っていた。
でも、今の自分は糖尿病で腎不全。
そんなに体調が良かったら、それこそおかしい。
まぶたが重い。
体がだるい。
足は……まだ浮腫んでないか。
水分は食事以外には摂っていないから、大丈夫だと思う。
不感蒸泄で1000㎖くらいは水分出る。
不感蒸泄というのは発汗以外の皮膚や呼吸から排泄される水分の事を言う。
汗だってかいてるし、口にしたのは転移前の昼食と昨日食べたスライムステーキ分。
水分は寝る前に飲んだ水一口だし。
うん、水分摂取量は大丈夫。
それよりも、気になることがある。
それは匂いだ。
尿素窒素やクレアチニンなど様々な排泄すべきものが、只でさえ排泄できない身体。
更に自分のステータス鑑定から透析不足ということが分かっている。
透析が足りてないのだから透析患者独特の老廃物の匂いがしてきていても、不思議ではない。
自分で匂いを嗅いでみる……分からない。大丈夫か?
幸いにも、一緒に寝ているゴブリンは背中向き。
そっと、ベッドから抜け出す。
相変わらず、身体が重い。
「ふう」
軽くため息を一つ。
動くのにも、気合がいる。
ジャージに着替えてしまおう。
今日は1日ジャージで過ごそうと思う。
パジャマはランドリーボックスへ。
今入れたから、洗濯されて出てくるのは夜の12時過ぎてからか。
全自動とか言っても、このよくわからない設定はやめてほしい。
服を朝洗って、乾いたのを夜着るとかもできない。
今日の分のパジャマはどうするんだ。
もともと、パジャマが掛かっていた所には……新しいパジャマ?
ハンガーから勝手に生えてくるのか。
それとも、ポンッといつの間にか出てきたのだろうか。
昨日の夜は確かに無かった。
少なくとも、起きている間には無かった気がする。
ま、いいか……。
今更、そんなことはどうでもいい。
「ふっ」
俺は鼻で笑った。
この〈病院の卵〉は、かなり変わり者の悪魔が造ったらしいから何が起こっても不思議じゃない。
そんなことで驚く、俺じゃないぜ。
さっさと、自分の支度は終わらせてしまおう。
さっさと、顔を洗って歯を磨いて、ヒゲを剃って……自分の用事を済ませてしまう。
「朝だよ、起きて」
身体を揺すってゴブリンを起こす。
「ん? ん~。あ、おはよう」
「おはよう」
まだ、寝ぼけてるみたいだ。
寝癖がたっている。
目やにもついている。
鼻くそもついている。
ひどい顔だ。
昨晩、話をして別人のような性格になったような気がしたけど……。
顔まで変わってしまっていたら、知らないゴブリンになっているようで怖かった。
でも、ちょっと顔の丸みがなくなったような気もする。
「顔を洗って、歯を磨いてきなよ」
「あい」
ゴブリンは布団を払って、ベッドに座って大きなアクビをした。
「ふぁ~ああ」
「まだ、眠い?」
「だいりょうふ」
朝は弱いのかな。
ベッドからゆっくりとゴブリンが立ち上がる。
やっぱ、背伸びた?
超成長期なのか。
もう、子供じゃないな……。
身長はきっと、140cmを超えたと思う。
昨日までは、小学校に上がるかどうかの体格だったのに。
大人でも小柄な人だったらこの位の人いるかもしれない。
胸はペッタンコだったのに、小振りながら明らかに女性のものだと思えるような形になっている。
もう、ここまで来ると男だと思うなんて勘違いはできないな。
でも、マントとかで全身を隠せばギリギリ勘違いできるかもしれない。
喋ったらバレるけど。
うん、色々顔に付いてはいるけれど十分可愛い。
世の中のゴブリンは放っておかないだろうね。
あ、ゴブリンは感覚が違うね、きっと。
ゴブリンの世界ならブスかも知れない。
それも絶世のドブス。
昨晩、子供扱いしたけれど取り消したい。
普通の男性ならこんなシチュエーションなら色々な意味で大変だろうけれど、今の自分なら大丈夫。
身体がだるくて、そんな気にはとてもじゃないけどなれない。
まあ、元気になってもこんな自分じゃ、ゴブリンは嫌なんだろうけど。
「ふう~」
そんなことを考えていたら、ため息が出た。
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