15話 追体験
「願いの輪から生まれたドロシーは〈病院の卵〉の治療機能を見抜いて、転移者に送ったんです」
「なるほどね。ダレンがワタシに何を求めて、訪れたのか分かった気がするよ」
「バアルさん、分かりましたか……流石です」
「その転移者のことが好きで、愛の先導者のワタシに恋の相談に来たんでしょ。当たり!」
「バアルさん、転移者は男ですよ」
「ダレンって、そういうのが好きだったの?」
「何を聞いていたんですか? バアルさんはそういうの読みすぎです」
「ごめん、ちょっとふざけただけだよ。分かってるよ。医学の知識が欲しいんでしょ?」
「はい。神なので少しは分かるのですけど……人工透析とか医学的な事になるとさっぱりわからなくて……」
「ダレンは真面目だね。そういうことを考えるなんて、いい子だね」
「モンスターを倒して、まずは透析装置を作りたいのですけど……これから先、転移者の事を良い方向に導いていける者が必要だと思うんです」
「なるほど、なるほど」
「それで、朝までになんとかならないかな……と思いまして」
「わかった。じゃあ、第23世界の医者の人生を送ってみたらいいよ」
「え? 聞いてました? 朝までに戻ろうかと……」
「ここに、第23世界で医者をやっていた人間の魂があるよ」
「魂?」
「悪魔だから、魂を買ったの」
「どうやって?」
「願いを叶える代わりに魂を捧げて貰うの」
「悪魔みたいですね」
「悪魔だもの」
「ソレ……魂をどうするんですか」
「どうするんだろうね」
「え? 知らないんですか」
「うん、知らない」
「……」
「ワタシもね、〈病院の卵〉を創る時に医学の知識が必要だけど、どうしようかなって思ったんだ」
「なるほど……」
「それでルシファーに相談したら、第23世界の医者の人生を追体験したらどうだろうって言われた」
「追体験?」
「その人が送ってきた人生をもう一度、送ってみるの。そうすると、何にもわからなくても、なんとなーく医学というものが分かってくるよ」
「なんとなくですか」
「まあ、人生を追体験するだけだから、すべての感覚が分かるわけではないかな……やって見ればわかるよ」
「やってみたら、わかるんですか?」
「ワタシも何回かやって、基礎知識がついたかなって思ったところで、〈病院の卵〉を創り始めたんだよ」
「はあ」
「後は、論文とかも読んでみたほうがいいよ。難しい表現がたくさん出てくるけど、追体験をした後なら、何となく分かる気がするから」
「何となくなんですね」
「因みに、この人が得意なのは内視鏡手術が得意みたいだよ。あと、人工透析の部分は研修医の時にちょっと出てくるかな」
「難しそうですね……ちょっと、不安です」
「大丈夫だよ、神なんだから」
「はい」
「でも〈病院の卵〉のポイントで購入できるモノは、ワタシもめんどくさくなっちゃって自動更新にしたんだったかな」
「自動更新ですか……」
「医学って、数年で結構変わるんだよ。だから、数年毎に更新しなくちゃいけないことがたくさんあって」
「進歩し続けてるんですね……すごい」
「最初はきちんとやっていたんだけど、面倒臭くなっちゃって、ある程度自動で更新するようにしちゃったんだ」
「じゃあ、バアルさんでも分からない事があるかもしれないですね」
「そうだね……。でも、ワタシが創ったところは活きてるはずだよ。照明とかちょっと、遊んじゃったり……シャワー室の色とか、ちょっとやりすぎちゃったかな」
全部変なとこばっかりじゃないですか。
「そういえば、ドクロンブランドの服とか一式を標準装備にしたんだよね。あの時は売れなくて売れなくて、在庫をたくさん抱えてしまったから」
「ああ、あれはもう使ってると思いますよ」
「そう。それは良かった。ドクロンブランドのお店を神様協会の近くに建てたのが間違いだったかな。ドクロ趣味の神の居ないこと居ないこと……。もう少し考えれば良かったね」
「神様に悪魔趣味とか、絶対に受けませんよね……普通に考えて」
「もう、あれは趣味でお店やってるようなもんだ。あのお店も珍しいドクロ好きの神を雇ってやらせているけど……」
「……」
「そういえば、この前ドクロンブランドを気に入った神がいたって言ってたなあ。在庫はたくさんあるし趣味みたいなもんだから、その店長って一式をその神にあげたんだって」
「どこかで聞いたような話……」
「そしたら、その神が可愛い女の子でさ。周りの人に広めてくれて、最近はあんな場所なのに売上が上がってきているんだよね。その女の子に感謝しないと……」
「バアルさん、その神は願いの輪から生まれたドロシーですよ」
「え? そうか……フフッ。あれの良さが分かるなんて、見所がある」
「み、見所?」
「そうだ、ワタシが開発した超過激な下着を送ってあげようかな。すごいんだよ、デザインは黒で露出が多くて、やばいんだけど……」
「やばいんだけど?」
「特殊効果で防御力が2倍になるという矛盾した性能を持っているんだよ」
「超過激……どんなのだろ……」
「ダレンでも興味持つんだね。でも、安心して隠れるところは隠れてるから。そうだ、今ワタシが着けてるから、見せてあげようか?」
「ぶっ……いや、今は……じゃあ、後で……いや、やっぱいいです」
「冗談だよ」
「……あ、あの何か話題逸れてませんか?」
「そう?」
「逸れてますって、追体験するんですよね」
「ああ、そうだ。そうだったね。内視鏡検査もそうだけど、血液とか傷とかダレンは大丈夫?」
「ワタクシ、そういうの苦手なんですけど」
「医療従事者に向いてないんじゃない? 気絶していても、何していても勝手に感覚も何もかも進んでいくからね。安心して」
「何を安心するんですか?」
「何回も見てれば慣れるよってこと」
「そこなんだ……」
「朝までに何回もやれば、下界に行く時には何となく医者だよ」
「何となく……ですか」
「そうそう、退屈な講義とかは神でも眠らせる効果があるから、今から言っておくよ」
「講義って、そんな強力なんですか?」
「ああ……すごいよ。眠くなくても、眠らされるんだよ。教科書をただ読むだけの講義とか、アンダーラインを教科書に引くだけの講義とか、講義をやっている人物を殺そうかと思ったよ」
「肝に銘じておきます」
「もう使っているかもしれないけど〈病院の卵〉で日本の研究論文を取り寄せられる機能があるから、一応言っておくね。ワタシ忘れっぽいから」
「はい」
「じゃあ、実験を始めようか」
「実験?」
「ああ、ごめんごめん。この前見た特撮番組の決めゼリフがそんなのだったから」
「やめてくださいよ。怖いな……実験されるかと思った」
「じゃあ、今度こそ」
バアルさんが青白い光を取り出しました。
その青白い光に、バアルさんが自分の魔力を通していきます。
光の色が紫色になり、不気味さを醸し出し、同時に美しい明滅をしています。
その光がワタクシの頭の辺を包み込み、ゆっくりと意識は暗転していきました。
気が付くと、人間の少年の姿になっていました。
身体は4歳くらいでしょうか。
こんな所から追体験するなんて、気が遠くなりそうです。
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