11話 ダレンとヘケト
ヘケトさんの所なんて、レベルが上がって空の飛べるワタクシにとって、あっという間です。
そして、あのバカみたいに広くて、どこまでも高いというよくわからない建物ならば、どこからでも目指せます。
神様協会の事務所の建物へ一直線に飛んでいきます。気分的に悪魔の翼で飛んでいきましょうか。
この前使った入口がよくわからなかったので、違う入口から入ります。
そして、受付っぽい人を探します。
あの人ですね、きっと。
礼儀正しい感じの人で、服装がドレスです。
頭には何故か果物がなっています。
話しかけて、認証を済ませます。
「担当部署は979万6666番です。102番のエレベータで96階までお進みください」
もう、面倒くさいやりとりだな、とか思いながらエレベータに乗りました。
今度は前回よりも随分遠くに着いてしまったらしく、〈受付はこちら〉の文字と矢印に従って、しばらく歩き続けます。
受付に着いたので、番号札をとりました。
この時間は、誰もお客がいないようで直ぐに対応してくれました。
今日は魚神の女の人が受付係です。
「今日は、どのような御用ですか?」
「ヘケト係長に会わせていただけますか?」
「少々お待ちください……わかりました……。直ぐにお会いできるそうです」
魚神の彼女は、案内係の猫獣神の女性に案内の指示を出しました。
猫獣神の彼女は丁寧にお辞儀をすると、前回と同じ部屋へ案内してくれました。
「どうぞ、こちらの部屋になります」
「ありがとうございます」
ワタクシは、ノックをしました。
中から、ヘケトさんの声がしました。
「ダレンさん、どうぞ中へ」
ドアを開けて中に入ります。
ヘケトさんは身体をこちらに向けて、椅子に座っていました。
準備万端と言う風な感じを漂わせていました。
「ダレンさん。久しぶりですね」
「そうですね。ワタクシも会いたいと思っていました」
大きな瞳は、以前より潤って、ワタクシにはより美しく見えました。
「ドロシー様のことの報告で今日は来ました」
「ええ」
「女性って変わるものですよね」
「ええ」
「もし、ドロシー様に見えたドロシー様が、ドロシー様でなかったらヘケトさんならどうしますか?」
「え? ドロシーさんが偽物だったらってことですか?」
「いやあ、女性の素晴らしさというもののひとつは、不安定さだと思うんです。そして、女心というものの気まぐれさ。仮に別人だったとしても、ワタクシは信じてしまうかもしれないな、と思いまして」
「え? あ。私を口説いてます?」
「え? あ……ん~? 気づいちゃいました?」
「前回も、そうやって冗談を言ってましたよね」
「そこまでは冗談ではありません。少し、そういうことを言いたい気分にさせるのがヘケトさんの魅力だと思いますよ」
「ダレンさんて、そういうことを言わない人だと思いました。そうですね……もし、ドロシーさんがドロシーさんでなかったら、やはり、この世から消えてもらおうと思います」
ヘケトさんは、微笑みながらそう答えました。
その答えには嘘はないのだと、ワタクシは感じました。
「そうですよね。ドロシー様がドロシー様でないってことは有り得ないですけど、もし……そうであれば、そうなりますよね」
「ええ。私なら1週間あれば確実に消えてもらえるように、できますよ」
うん、怖い人だ。
「えっと、そうですね。報告を始めます……ドロシー様は転移者の余命が残り少ないということをステータス鑑定から知り、ご自分で対応することを諦めまして、ワタクシにすべてを委託しました」
「やっぱり、私の未来予知が概ね当たっているようですね」
「その際に、神界のゴミ捨て場に放置されていた通称〈病院の卵〉とゴブリンの稀少種ゴブリーヌを隷属の魔具などを使わない状態で転移者に送りました」
「病院の卵って、何に使えるんですか? 隷属の魔具なしのモンスターなんて、止めを刺そうと思ったのですか? そもそも、隷属の魔具があってもゴブリーヌなんて役に立たないんじゃないですか?」
「そうですよね。そう思いますよね。〈病院の卵〉自体の用途は殆どの神は知りません」
「じゃあ、何だかわからないものを送ったということですね」
「ワタクシも知らないで、送ったものだと思ってました。けれど、ドロシー様は知っていたんです」
「え? それは……どういう……」
「ドロシー様は一生懸命努力をしたそうで、〈病院の卵〉の用途をある程度、予知する能力を持っていらしゃいました」
「そんな能力持っているなんていう話は知りませんけれど」
「ワタクシとドロシー様は中学までは同じクラスでしたから、多少の秘密は話してくれるんですよ」
「えっと……それじゃあ、〈病院の卵〉は何をする物なのですか?」
「魔法や術を用いずに医学という学問を用いて、病気を治療するものに育つものです」
「医学?」
「要はドロシー様は見捨てたのではなく、全ての機能を理解した上で助けようと思い、ワタクシの力まで引き出して、全力で助けようとしてくれていました」
「え?」
「ゴブリーヌは性格が穏やかなモンスターで、モンスターの中でも貴重な他種族と意思疎通ができるという不思議な存在です」
「え?」
「病気の人の心を癒す効果と、転移者の身を守るという大事な役割を同時に賄うのに必要な存在でした」
「え? 言ってる意味がよくわかりませんが」
「今、ワタクシとゴブリンはドロシー様の精一杯のサポートを受けながら、転移者の病気を治療している最中です」
「あの……ホント?」
「本当です」
「じゃあ……私の予知能力は?」
「惜しかったですね」
「そ……そ……そう」
「あの……下界制限を解除するという話と報酬が2倍という話は大丈夫ですよね」
「……そうね。報酬を2倍というのは守ります。ダレンさんの下界制限も解きます」
「ありがとうございます」
「あと、ドロシーさんの使いは他の適任者を当てます」
「え?」
「ダレンさんは転移者の治療に専念してください」
「え?」
「大丈夫ですよ。これ以上のことはドロシーさんの元に起こらないと思います。私の予知能力によれば、だけど」
「じゃあ、ワタクシは……」
「神様の使い終了です。だけど、転移者を助けるという仕事を言い渡します」
「また、報告が必要ですか?」
「そうですね。転移者の病気が治ったら教えてください。この仕事が終わったら私の権限で、ポイントだけ納めてくれたら、世界管理者の試用期間なしで、パスにしてあげますから」
「ポイントは免除してくれないんですね」
「どうしよっかな……でも、やっぱダメです。ポイントは貴重な収入源なので」
「……わかりました」
「そうね、転移者の事がうまくいったら世界管理者の試用期間を受けるのに必要なポイントを3%免除してあげるわ」
「ケチ……」
「え? なんか言いましたか」
「……独り言です」
ワタクシはこうして、神様の使いの仕事を歴史に残るような速さで終わらせました。
報告内容については、後で嘘でないことの調査をすると言っていましたが、じゃあ、報告の仕事ってあまり意味がないんじゃないか、と思ったりしました。
けれど、この仕事の意味は下級神のための研修の意味もあるそうです。
そして、きちんと神様協会へ報連相ができる下級神を育てる目的もあるそうです。
特に決まりはないそうですが、そういった意識を持って神を続けて行かせるようにしたいそうです。
色々、あるんですね。
まだまだ、朝まで時間はたっぷりあります。
次は……。
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