10話 ドロシーと願いの輪
「えっとね、アタシは願いの輪っていう魔道具によって生まれたのよ」
「何それ」
「10万年に1度だけ、願いを叶えられる不思議な魔道具」
「へえ~、そんなのがあるんですね」
「レアでしょ?」
「あ……アタシの中の何でも辞典って……」
「そう。願いの輪」
なんだか、そういうレアな魔道具なら知っていても不思議じゃない。
逆に知らないと、馬鹿にしたくなる。
や~い、知らないでやんの~って。
「で……本物のドロシーは?」
「様は……もういいの?」
「ワタクシが仕えてるのは、目の前のドロシー様ですから」
「そっか。そういうものなのね」
「ええ」
「本物のドロシーはもう、神界にはいないわ」
「どこに行ったんですか」
「下界に転生したよ」
「それが、願いだったんですね」
今までの彼女の言動を考えると、とても納得できる。
何かしらの偶然で、ドロシーは願いの輪を手に入れたのでしょうね。
そして、それを使って下界への転生を望んだようです。
「アタシはドロシーが神界から消えたことをなんとか、取り繕うために生まれたの」
「いつ頃、生まれたんですか?」
「16年前くらいかな」
「じゃあ、彼女はこの第26世界の下界に生まれて16年なんですね」
「うん、多分そのくらい」
「それで、こっちのドロシー様も16歳なんですね」
「そう」
「じゃあ、右も左も分からないということですね」
「そんなことないよ。もう、大人だよ」
「身体は大人でしょうけど、頭の中は違うと思いますよ。少なくとも回転は今の方が良くとも知識量が違いますよ」
「……また、そんなこと言って、いやらしい」
「今の会話にいやらしさの要素がありました?」
「ダレンが言うからかな」
「紳士なのにな~」
「つまり……ドロシー様は願いの輪で、ドロシー様ではないということですよね」
「うん……そういうことになるね」
「神様ポイントがないのは、生まれる時に消費したからですか?」
「そうでしょうね。お陰で貧乏この上ないの。生存エネルギーも結構危ういくらいだわ。異世界転移者が来たから、そのお陰で支給があっていろいろ助かったけれど」
え?
それって、横領じゃないの?
そのお陰で小林さんは何もスキル持っていないし……。
「もし、支給がなかったらゴブリーヌを探すのも、転移させるのもできなかったかもしれない」
まあ、確かにエネルギー不足で消滅しちゃってたら、今居ないだろうけど。
「アタシを生まれさせたドロシーに恨み言の一つでも言いたいわ」
エネルギー不足で苦労しているらしい……。
「でも、ワタクシが思うに、自分にないものを今のドロシー様に望んだのだと思いますよ」
もっと、こう内向的で……綺麗だけど、弱々しくて湿っぽいのが前のドロシーだ。
「正確にはドロシーではないけどね。どの辺が?」
「全然内向的な感じがしないところとか、ファッションセンスとか、訳がわからないながらも世界管理者の試用期間を受けているところとか」
「内向的とかそういうんじゃなくて、普通に話してるだけ。ファッションセンスは……なんで? 世界管理の試用期間は本人が受けるように要望を出して行ったらしいわよ」
「まあ、お父様を安心させるためなんでしょうね。……その後って、どうして欲しいんでしょうね」
試験が通ったら、その後何か要望があるんだろうか。
「さあ……」
ドロシー様……何のために生きてるか、分からないみたい。
「自分がいなくなっても、寂しがるのは家族だけだと思っていたのかもしれないですね」
「とりあえず、試用期間をパスしたいんだけど」
使命は全うしたいんですね。
「そうですね……」
「ダレンはずっと、使いでいてくれるの?」
「さあ、試用期間中はそのつもりですけど」
「まあ、試用期間が無事に終わって、世界管理権と世界作成権が取得できても、何ができるってわけじゃないのよね」
「そうなんですか?」
「ダレンはベルゼバブブなんていうすごいのと一緒にいるから、麻痺してるのよ」
「麻痺ですか?」
「世界を作るのって、エネルギー消費やばいのよ。アタシは願いの輪から貰った力で色々、分かる部分があるけれど、ダレンにはまだ、わからないかもしれないわね」
「ワタクシの方が年上なのに……」
「願いの輪的に言うと、まだまだね」
「願いの輪が言ってるんですね。ならいっか」
ワタクシよりは随分年上だろうから、気にならない。
「ドクロンブランドって、ベルゼバブブが造っているのよね?」
「そうですけど……どうして、一族の人達にドクロンブランドを広めてくれているんですか?」
「え? 良いものだから、広めようと思って」
良いもの?
神様受けはしないけど、いいものなのか。
「それに、ドクロンブランドってアタシが気に入ったって言ったら、一式タダでくれたのよ。神様ポイントがないアタシにはまさに神よ。恩を返さなくちゃ」
「なるほど」
そういうこともあるのか。
「あと、ドクロンブランドって、魔力が上がったり力が上がったり凄いんだから」
「え? そんな効果あるんですか? 知らなかった……趣味が悪いだけかと思ってたな」
「趣味は多分……、悪くないと思うよ。アタシが着ているモノの事を言っているのだと思うけど。この服はエネルギーを生み出すことができるの」
……そうなんだ。
エネルギーには相当困っているらしい。
「生命エネルギーがゼロにならないように、この服を着ているのよ」
生命レベル?
そんな深刻?
「……すみません、そうだったんですね。生まれたばかりで仕事も難しかったんですよね……それで、その服を着ることになったのですか?」
「仕事はしているんだけど、何せこの身体はエネルギー消費量が多くて、なかなかやりくりが難しいのよね」
燃費が悪い身体らしい。
「まあ、魔道具の力で生み出されたのなら、そういうこともありそうですね」
欠陥品とか?
「仕方なくその服を着てるんですね。ドクロンなんて可愛くないのに……」
「え? ドクロンちゃん可愛い……」
「可愛いんだ……でも、燃費が悪いのは大変ですね」
「ホント……もうちょっと、違うふうに創り出してくれればいいのに」
頑張って、生きてください。
命が掛かっているから、転移者にあれだけのことしかできなかったんですね……。
「えっと、これからワタクシは引き続き小林さんの治療に協力しようと思っていますけど、それでいいですか?」
「もう、ダレンに任せたんだからお願い。その方が良い方向に向かう気がするわ。後は何もなければ書類仕事をやって、なんとか試用期間をやり過ごしたい」
上級神になるのが目標ですものね。
「どうしても、手に負えないことがあったら、また頼むから。ステータスがアタシより全然上なのは知ってるんだからね」
そうだ、ステータスを上げておいたからか。
バアルさんの嫌がらせが、違うふうに働いたっぽい。
「了解です、それでは、小林さん達のところに戻りますね」
ワタクシは、そう言い残すとヘケトさんの所へ向かったのでした。
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