9話 ダレンとドロシー
〈病院の卵〉から飛び出したワタクシ。
神の使いことダレンは、とりあえず神界に戻ろうと思いました。
その理由として一つはヘケトさんへの報告です。
この仕事を受ける時に、約束した事です。
ヘケトさんの言う通りにするならば、そのまま神様協会に直行すべきなんでしょうけれど、その前にどうしても行かなくてはいけないと思ったところがあります。
ドロシー様がやったことは、本当に小林さんを殺そうとしたことなんでしょうか。
ワタクシにはドロシー様が命を見捨てるような性格には思えません。
あの時は、見捨てているとしか思えなかったのですが、もし……〈病院の卵〉というものが、どういうものか分かっていたとしたら。
そして、ゴブリーヌが小林さんを助ける上で一番可能性を持った存在だと見抜いていたとしたら……。
そしたら、ドロシー様は助けようとしていると考えられるのではないでしょうか。
それらの事を全て解決するためには、ドロシー様のもとへ戻ってみるのが一番です。
色々なことが分かってから報告すれば、それでいいんじゃないかと思うんです。
私は神界に戻ってきました。
神界に戻った途端に、身体が軽くなります。
レベルが上がると、空も飛べました。
背中から光の翼が現れるのです。
ワタクシのは、神だけあって鳥のような形の翼です。
バアルさんのコウモリの様な翼とは違います。
イメージでしょうか。
イメージを変えてみます。
イメージを変えると、翼もコウモリみたいな構造にかわりました。
これはただの形だけで、機能は全く同じ様子。
むしろイメージによっては、なくてもいいみたいでした。
そういえば、アニメの世界では無くても飛んでいるものもありました。
試しにイメージします……。
途端に翼は消えてなくなります。
翼がなくても飛べるようです。
神界に入ってから、間もなくドロシー様のところに到着しました。
神殿の大きな扉を開きます。
音もなく、開く扉。
神殿内の清らかな空気が漏れてきます。
神殿の中に入ると、遠くの方にドロシー様の後ろ姿が見えました。
ワタクシが近づいても、こちらを振り返らずにいます。
只々、神殿の向こう側を眺めているようです。
「早かったのね、ダレン」
「とりあえず、落ち着いたので」
「病気は治りそう?」
「まだ、わかりません」
「ダレンなら出来ると思う」
「ドロシー様はポイントが勿体ないから、あの病院とゴブリンを?」
「え?」
「ゴブリーヌって、稀少種ですし、7年以内には処分されるので探すほうが難しくないですか?」
「アタシはね、ゴブリーヌじゃないとダメだと思ったの」
「ダメ……というのは? どうして?」
「まず、モンスターは手懐けられない。そして、隷属の魔道具にはその先の運命の繋がりを感じなかった」
何か……おかしな事を言ってます。
「色々と普通は見えないものが見えるんですね」
「ええ。アタシにはダレンと、ゴブリーヌと病院の卵と転移者にに運命の繋がりが見えた」
運命の繋がり?
何だ?
ワタクシの知らない能力があるのかもしれない……。
質問をぶつけていく。
「ゴブリーヌはどうやって、連れてきたんですか?」
「運命の繋がりを辿って、ゴブリンの住処に行って転移させた」
「繋がりっていうのは……糸とか縄とかそういったものなんですか?」
「最初はイメージ。助けるために必要なものとして浮かんでくる。そして、その後は鎖みたいなものが見えて、場所が分かる感じかな」
特殊な能力?
罪悪感から言ってる嘘……?
「……」
ドロシー様の後ろ姿をジッと見つめる。
「いつも見えるわけじゃないのよ。ただ、たまにそういう力が働く時があるの」
「〈病院の卵〉って、よく知ってましたよね」
「たまたま、知ってたの」
「たまたま? 知っているはずありません。あれを知っている神はいません」
「えっと……アタシの中の何でも辞典が知ってた」
何だそれ?
何か秘密がある?
何か、ワタクシが知らない出来事がある?
そうだ、後……あれを聞かないと。
「神様ポイントって、ドロシー様はあまり持ってないんですか?」
「うん」
「お父様からいつも貰っていたんじゃないんですか?」
「ちょっとね……ギリギリなの」
「転移者が現れると、ポイントが支給されると思うのですが」
「それは後払いだから……あの時はなかったの」
「つまり……ドロシー様には、助けるだけの能力と神様ポイントがなかった。そして、もともと持っていた能力を使って対応したということですね」
「そう」
「自分が対応するよりもワタクシが対応したほうが上手くいくという感覚を信じて、委託したと」
「そう。さすがは、ダレン……物分りがいいわ」
「ドロシー様、どうしてずっと、後ろ向きなんですか?」
「目にゴミが入って、痛くて目が赤いの。だから、恥ずかしい」
「……」
「ドロシー様って、本当は誰ですか?」
「何を言ってるの?」
「後ろを向いているのは、表情に嘘が出てしまうのを悟られないためですか?」
「……」
「ワタクシが思うに、今のドロシー様も前のドロシーと同じで嘘が下手です」
「……どうしたいの?」
「本当のことを知りたかっただけです」
「……ダレンって、アタシと運命の繋がりがあるのね」
「ひょっとして、口説いてます?」
色仕掛だろうか。
ワタクシの格好良さに参ってしまった?
「え? ハゲとヒゲなのに……どうして、そんな自信が?」
「……みんな、ハゲとヒゲの凄さを分かっていませんね」
「ダレンは、アタシのことを助けてくれる存在みたい」
「え?」
「そうじゃなければ、アタシの所に来なかった」
「何か、見えるんですか?」
「うんと……カエルがアタシを殺そうとしていて、ダレンがコウモリの翼を広げてそれを防いでいるような感じ。きっと、もともとはカエルの方に何か言われてたのかな……っていう感じがした」
それは、ドロシー様には知りえない情報。
能力は嘘ではないみたいだ。
そういうすごい能力……う、羨ましい。
「なんか、その能力便利だな~」
「ダレンに会った時にちょっと見えたんだけど……やっぱ見えたり見えなかったりで、抽象的な時もあるし、はっきり指し示してくれることもあるの」
「安定しないんですね」
「アタシの正体……知りたい?」
「ここまできて、焦らすんですか? 寸止め?」
「なんか、言い方にいやらしさを感じる」
「ワタクシが変態に見えますか?」
「見た目は……変態かと言われれば……」
「言われれば?」
「変態っぽい」
「紳士なのになあ」
予想してたけど、ちょっとショックです。
読んだらブックマークと評価お願いします