8話 病院の卵と女心
〈病院の卵〉の中に久しぶりに入りました。
元々、内包されていたエネルギーがあるので、ポイントなしでも利用できる部分が沢山あります。
バアルさんが色々使いやすいように、楽しみながら作ったこの建物。
ワタクシにとってもなかなか楽しめるものでした.
こういったものを創ることができるバアルさんは流石だなと思いました。
小林さんがゴブリンに気持ち悪いくらいにしつこくしているので、何かしそうで心配でした。
男が本当は好きなのでしょうか。
ワタクシとの会話の中で否定していたのに、嘘なのかもしれません。
ひょっとしたら、ハゲとヒゲも好きなのかも知れません。
ゴブリンの事を心配しながら接していたら、いつの間にか、ゴブリンが可愛く感じていました。
うがいを一緒にしたり、ご飯を一緒に食べたり、とても楽しく感じました。
可愛いといっても、小林さんみたいに変態的に可愛いというのではありません。
あくまでも、愛らしいものを大事に思う、という方の可愛いと思う感情です。
子供もいないのに、何故か気分はおじいちゃんです。
それでも、小林さんにゴブリンは女ですよ、と言う機会を逃してしまい……黙っていることにしました。
小林さんは、それでもグイグイとゴブリンにしつこくしています。
聞く所によると、小林さんは男が好きなのではなく、ゴブリンに捨てられないように心のつながりを作ろうと必死だったみたいです。
ただの変態だと思っていましたが、違ったみたいです。
ドクロンブランドの服を選ぶ時、女性ものばかりに目がいっているゴブリンを見て、少し可哀想でした。
小林さんがシャワーに行った時に、ゴブリンから言われた言葉は胸に突き刺さる言葉でした。
「ダレンさんは、知っていますよね?」
「何のことですか?」
「私が……私が女だってことです」
「え?」
「……知ってて。私が女だってことを知ってて、黙っているんですよね」
「いや、その……すいません」
「どうして、知ってて言わないんですか?」
「小林さんがそう思い込んでいるのを見て、言い出せなくて」
「……そうだったんですか。私は面白がっているだけだと思いました」
「え……」
「ゴメンなさい。そういう風に見えてしまったんです」
「いえ、こちらこそ。すみませんでした。小林さんにはワタクシが伝えます」
「ううん……いいです。私が明日の朝、直接言うことにします」
「大丈夫なんですか? 言いにくくないですか?」
「男が好きだったら、お兄ちゃんはがっかりするんでしょうけど。私は無理して一緒に居るのは辛いのがわかったので、無理しないで一緒にいたいと思いました」
「そうですか……小林さんは弱っちいですよ」
「今は、私にはここで暮らしていくことしか生き方が見つからないので」
「まあ、ここにいれば他のゴブリンも来ませんし、食べ物にも困りませんし……楽しいのかもしれないですね」
「お兄ちゃんは本当は分かっていて、男が好きなフリしてる可能性もあると思います」
「……そう……ですかね。それは、考え方次第だと思いますけど。男でも女でも小林さんにとって貴女は大事な存在だと思います」
こんな会話をしていたら、小林さんが出てきました。
とても、満足そうです。
人工透析のためのカテーテルを防水保護するためにワタクシの魔法が役に立つとは、思いませんでした。
シャワーを勧められて、ワタクシも久しぶりに、シャワーを浴びてみました。
流石に何もかも、装備を取り外してしまうと危険なので、パジャマは断りました。
久しぶりのシャワーは最高でした。
今度から、生活魔法で綺麗にするのではなくシャワーを利用しようかとも思ったくらいです。
でも、シャワーから出て、久しぶりに入ったことを口走ってしまったのは失言でした。
不潔扱いされて、ワタクシの心は深く傷つけられました。
神を人間の感覚で考えてもらっては、困ります。
一生懸命に説明して何とか二人に信じて貰いましたが、久しぶりに入ったとかは、もう言わないように気をつけようと思いました。
二人が寝ると言ったので、照明の調整方法を調べました。
バアルさんは結構、いじくっていたのですね。
ピンクの照明やミラーボール。
たくさんの猫のホログラムが出てきたときは、ちょっとウケました。
確かに、こういうのを入れちゃえとか言っていたのを、聞き流していましたが何のために、そんな機能を入れたのか謎です。
まあ、気分なんでしょうけど。
照明の準備が出来たようだったので、ワタクシは出掛けることにしました。
小林さんに神は眠らないのだと伝えると、聞いたことないと言われました。
小林さんの世界では神が眠らないことが常識ではないということに驚きました。
もう少し、神に興味を持って欲しいです。
ワタクシは朝までの時間を仕事のために使おうと思いました。
予想外だったのは、小林さんに行かないで欲しいと、引き止められたことです。
ワタクシの存在は小林さんにとってどんなものなのでしょう。
しかし、ワタクシはいつの間にか、二人に対して愛着が生まれていました。
引き止められて、嬉しく思いました。
でも、嬉しく思うがこそ行かなくてはならないと思いました。
これは、ワタクシの仕事でもあり、小林さん達のためでもあります。
引き止められながらも行く……なんだか、とても気分がいいと思いました。
それでも、仕事だと言ったら行かせてくれました。
その物分りの良さはちょっと悲しい……。
じゃあ、そろそろ行きますか。
きちんと、戻ってくるので安心して、よく休んでくださいね。
小林さん、ゴブリン。
それでは、行ってきます。
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