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4話 ダレン バアルさんに逢いにいく

 ヘケトさんと、話をした次の日。


 たまには、バアルさんに逢いに行こうと思いました。


 ある程度、仕事の依頼をこなすことができるようになり、アパートでの一人暮らしにも慣れてきました。


 神様の使いというそこそこ大きな仕事の依頼まで受けられたことだし……報告しにいかないといけないと思いました。 


 来週にはドロシー様の所に出勤しなくてはいけません。


 逢いたいと思っても、しばらくは逢いに行けないのだから、今のうちに逢いに行っておこう思いました。


 今住んでいるアパートは、実はそれほどバアルさんの所から離れていません。ほんの20㎞位のところです。


 本当はもっと近くが良かったのですが、家賃が高くて住めませんでした。

 

「バアルさん。いますか~?」


 呼び鈴も鳴らしてみました。


 返事がありません。


 また、パソコンゲームに夢中で気付かないんでしょうか。


 留守だったら、鍵が閉まっているはず。


 ガチャ。


 鍵は開いていました。

 

 これは、何かに夢中で聞こえていない可能性があります。


 普通に考えれば、不用心この上ないのですが、それでも、この家のセキュリティは万全です。


 なぜならば、ワタクシとバアルさん以外はバアルさんの許可がないとこの家には入れないようになっているからです。


 敷地内は、結界が張ってあったり張ってなかったり、その時の予定によって色々です。


 ビジネスの商談相手や友人が来ることもあるので、事前にわかっている時は外してあります。


 今日は、そういえば外れていました。


 商談中なんでしょうか。


 この結界もワタクシだけはフリーパスです。愛ですね、きっと。


 とりあえず、入ってみようと思いました。


 誰か来ているとすれば、客間にいるだろうし、何か発明に夢中なら研究室。


 第23世界の文化を研究しているなら、自室にいるはずです。


 まずは1階の……研究室。


 メカなのか、魔術なのか、生物なのか何を研究しているのか、わからないものがたくさんあります。

 

「バアルさ~ん、いますか?」

 

 いなそうです。


 2階のバアルさんの自室は、ワタクシとバアルさんだけが入れます。


 ワタクシの部屋にもバアルさんは自由に出入りしてました。


「バアルさん、いますか?」


 ノックします。


 いないようです。

  

 一応、久しぶりなので中に入っておきましょう。


 懐かしい、バアルさんの香りがします。


 そして、大小様々な、なんだかわからないエロティックで不思議な格好をした女性の人形達。


 増えてる?


 バアルさんの香りを思う存分堪能した後、おそらく、ここにいるだろうという客間に向かいました。


 客間はやや奥まっていて、何かあった時に捕えやすいような所にあります。


 何かっていうのはよくわかりませんが、バアルさんがそう言っているので、そうなのでしょう。


「バアルさん、いますか?」


 ドアをノックします。


「ダレン。入っていいよ」


 客間に入ると、誰かバアルさんと向かい合って座っていました。


「やあ、ダレン。久しぶり」


 振り返ると、バアルさんの友人のルシファーさんでした。


 ルシファーさんは青いストレートの女性で、バアルさんに負けず劣らずの美しい方です。


「どうした? ダレン。急に帰ってきて。こっちに座りなよ」


「ただいま、バアルさん。こんにちわ、ルシファーさん」


 バアルさんはワタクシを隣の椅子に座らせ、ハーブティーを淹れてくれました。


 久しぶりに逢うバアルさん。


 感動のあまり涙が出そうになります。


 「いや……一人で何とかやっていけているということを伝えようと思ったのと、神様の使いという仕事を受けることになったので、しばらく逢えなくなるなと思って……」

 

 緊張と感動で、なんだか上手くしゃべれませんでした。


「ダレンってば、緊張してる? ちょっと、泣きそう?」


「バアル。ダレンは好きな人に逢えて嬉しいんだよ」


「そう? ダレン、ワタシも嬉しいよ~。ギューッなんちゃって」


 バアルさんはワタクシをギューっと抱きしめてくれました。


 豊満なものが視界を埋めます。


「アンタ、ダレンの気持ちに気付いてないでしょ?」


「気持ち?」


「ダレンも可哀想なもんだね……。ダレン、挫けちゃだめだよ」


「はい?」


 ルシファーさんに励まされました。


「まあ、いいか。そんなことより、話があってきたんだった」

 

「ワタクシが居ても、いいんですか?」


「別に居てもいいよ。ダレンだし」


 ワタクシは、なんなんでしょう……。


「何? 話って」


「GHKって知ってる?」


「GHK?」

 

 GHK……、ああ、忘れもしないあの日のジーエイチケー。


「バアルさん、ワタクシの両親を消し去った奴らですよ」


「ああ、そう言えばそんなことを聞いたような、聞かなかったような……」


 聞いたと思いますけど。


「アンタは忘れっぽいからね」


「……」


 確かに、忘れっぽいです。


 忘れっぽすぎますよ、バアルさん。


「それで、そのGHKが何?」


「下級神を受信料の取立てとか言って、次々と消してる……」


「そんなの昔からやってるじゃん」


「それが数が凄いんだよ。生活保護を受けている下級神を全部消し去ったんだよ」


「それで?」


「生活保護でない下級神も、今月だけで321人消えた」


「GHKの受信料って、そんなに高いの?」


「少し前まで、額が決まっていたみたいなんだけど、最近は初めから消しにかかってるという感じ」


「誰かそれを見たの?」


「私」


「自分で見たの?」


「ちょっと気になって、魔法でちょちょいと……」


「そう……。それで、どうしたいの?」


「力を貸してもらいたいんだけど」


「ルシファーなら、負けることないでしょ?」


「相手がミカエルでも?」


「え? なんで?」


 驚く、バアルさん。


「GHKの首謀者は私達と同じ熾天使の役職のミカエルよ」


「GHKって神様協会が支援してるから、あんまり関わりたくないんだよね」


 GHKはバックが大きくて、動きたくないんですね。


「創造神のこと嫌いなんでしょ? 私と一緒。いっそのこと悪魔協会の仕事1本にしちゃえば……」


「ルシファーはどっち派?」

 

「両方やってるけど、この仕事が終わったら悪魔派」


「神様ポイントは世界管理を放ったらかしにしておいても、仕事をサボっていても勝手にポイントが入ってくるからやりたいことができるんだよ」


 悪魔と神様って、良く分からないです。


 仕事が違うだけなんでしょうか。

 

「悪魔協会は感情エネルギーを集めればあっという間だろ?」


 ……意味が分かりません。


 質問してみましょう。


「はい、質問です。ルシファーさん」

 

「はい、なんですか? ダレンくん」


「神様ポイントと感情エネルギーはどう違うんですか?」


「神様ポイントは世界で知的生物が生み出した色々なエネルギーを神様協会が処理をして、使いやすいように加工したものが神様ポイント」


 お米だと精米してある感じですかね。


 無洗米とか上白米?


「感情エネルギーは知的生物が生み出したエネルギーそのものだよ」


 種もみ?


 精米してないものですか。


「処理前と処理後?」


「うん、そうとも言えるかな」


 何となくわかった気がする。


「だから、集めたエネルギーを一度は悪魔協会で使いやすい形に加工するの」


 神様協会は全自動で、悪魔協会は手動なのか。


「加工したモノのいくらかが悪魔協会の手数料になって、残ったエネルギーが自分のものになる」


 処理手数料がとられるんですね。


「そのエネルギーは神様ポイントじゃないのですか?」


「神様ポイントじゃないけど、自分の魔力を通せば神様ポイントと同じように使えるよ」


 更にもうひと手間掛るんですね……。


 確かにメンドクサイ。


「ルシファー。その魔力を通す時間が勿体ない」


「バアルの魔力なら1日中魔力を通せば、今の神様ポイントの収入なんて要らないだろ?」


「う~ん」


 悩んでる。


 得られるポイント量は悪魔協会の手法の方が多いらしい。


「悪魔協会の方が、面倒くさいけど、効率は良いんですね」

 

「神様ポイントの方が処理が粗いから、半分位が失われて効率が悪いんだって」


 ルシファーさんが効率の悪さをバアルさんに推している。


 半分も?


「感情エネルギーってどうやって、集めるんですか?」


「怖がらせたり、喜ばせたり、興奮させたり……色々」


「色々?」


「今のダレンは、すごい感情エネルギーが出てるよ……今日1日で、ダレンの住んでるアパート1ヵ月分くらいのポイントが稼げる」


「そんなに?」


「ダレンは、なんでそんなに感情エネルギーが出てるの?」


「……」


 バアルさんが近くにいるからです、とは言えませんでした。

 

「戦争とかが起こせれば、そのエネルギーで新世界が作れるよ」


 ルシファーさんが話題を変えてくれました。


「へ、へえ~」


「まあ、時間が経てば、エネルギーは消えてしまうから、素早く捕獲して素早く悪魔協会に持っていかないと、どんどん減って行っちゃうけど」


「やっぱ、悪魔協会はめんどくさいですね。上級悪魔より上級神のほうがいいです」


 悪魔の方が色々テクニックが必要みたいです。


 悪魔が起業家で、神が雇用労働者かもしれません。


「まあ、ダレンはまだ弱っちいから、悪魔は効率悪いかもね。魔力が多くないと、集めても魔力が通せなくて、あっという間に消滅だよ」


「ルシファーさんはバアルさんが力を貸してくれなかったら、どうするんですか?」


「独りでも行くよ。だって、やり方が酷いんだもん」


「……ルシファー」


 バアルさんはルシファーさんの方を見つめています。


「バアルさん?」


 バアルさんは溜息を一つ吐き出しました。


「……しょうがないな。ワタシも手伝うよ」


「バアル……ありがとう。実はね、ちょっと自信がなくて。相手が上級神1万とかいるから、どうしようかと」


「1万? やっぱ……ワタシ」


 聞いてないよ~、って感じの表情のバアルさん。


「バアルさん?」


 でも、一度言った以上引き下がれないみたいです。


「……ダレン……。今日は、泊まっていって。それで、帰ってくるまでこの家から出ないでね」


 覚悟に満ちた表情……。


 強く美しい……表情。


 ワタクシは言いつけ通り、家から一歩も出ずに只々、二人を待っていました。

 

 永遠のように感じた夜でした。


 長くて長くて、心配で仕方がありませんでしたが、2人なら大丈夫な気もしました。


 しかし、夜が明けても2人は戻ってきませんでした。


 それでも、只々、ワタクシは待っていました。


 何もできない無力感。


 でも、二人を信じてました。

 

 昼になり、夜になり、また、朝が来た時にドアの外で物音がしました。


 ドアの外には、傷だらけの二人が寝息を立てて寝ていました。


 神が寝ているのをワタクシは初めて見ました。


 ああ、こういう時に神は寝るんだなと思いました。


「おかえりなさい。バアルさん、ルシファーさん……お疲れ様」

 

 一応、飾りで置いてあったベッドに2人を寝かせ……ワタクシは、目覚めるまで待っていました。


 昼になり、夜になり……。


 それでも、二人は目覚めません。


 二人の寝顔は疲れ切ってはいましたが、それはそれは美しい……何かをやりきった満足そうな表情です。





◇◇◇


 只、ただ……ワタクシは二人のそばで二人を眺め続けていました。


 美しさに見惚れるように。


 植物の発芽を待ちわびるかのように。


 只、ただ……見入っていました。

 

 次の日の朝、2人は同時に目を覚ましました。


「あ、ダレン」


「ん~、バアル? ダレン?」


 一瞬、バアルさんの方が早かったですかね。


「おはようございます、バアルさん。ルシファーさん」


 2人はGHKを壊滅させ、ミカエルを消滅させたという罪で熾天使の役職と上級神の地位を剥奪されました。


 そして、悪魔協会よりサタンの役職と上級悪魔の地位を与えられたのでした。

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[一言] 神様であるダレンさんがアパートに住んでいるって面白いですね。 どんなアパートなのかビジュアルが気になります。 大好きなバアルさんとうんと近い所だと 家賃が高くてすめないという部分に哀愁感じ…
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