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3話 ダレンの目標

 ワタクシ、ダレンは神の使いとしての仕事を引き受けました。

 

 思いもよらぬ方からの依頼でしたが、報酬が2倍だそうで、ちょっとテンションが上がりました。


 それにしても、ケチで有名な方でも、娘は可愛いのですね。


 ワタクシより、劣っていると思っていたドロシーが、世界管理の試用期間を受けるということは、とても腹が立ちますが、長い間生きていれば、そのくらいのことはあるかもしれません。

 

 まあ、仕方がないことです。


 仕事は1週間後の朝9時から試用期間が終わるまで。


 試用期間の終了はいつだかわかりませんが、神様協会の方で問題がないという判断ができるまでが試用期間です。

 

 疑わしい神は長くなり、日頃の素行が良い神は短くなる傾向にあります。

 

 ドロシーは……いや、ドロシー様は高校に上がってからは、ワタクシとはクラスが離れ……それほど接点がなくなりました。


 ワタクシが存在を確認する術は遠くにいるドロシー様を眺めるくらいでした。

 

 もともと近寄りがたい雰囲気があったドロシー様は、いつも一人で過ごされていました。

 

 上級神の両親を持つ家柄の良いドロシー様なら本来なら楽しい学校生活を送れたことでしょう。

 

 しかし、周りから友好的に近付いてくるものを全て拒否しているようで、寂しそうな学校生活を送っていたようでした。

 

 もともと、優しくて内向的な性格のドロシー様は人付き合いが苦手で、周囲を誤解させてしまった部分もあると思います。


 けれど、両親とも良い方に愛されて生活しているドロシー様が羨ましくて、いつの間にかワタクシの中には苛立ちというか、なんとも煮えきれないような感情が芽生えていました。


 対してワタクシは下級神の父と下級神の母との間に生まれました。


 本当なら、学校どころか生きるのもやっとの環境です。


 それが、色々あってドロシーと同じ学校に入れることになったのだから、人生はわからないものです。


 そもそも、ワタクシの両親は小さい畑を借りて野菜や果物を作って暮らしていました。


 神は生きるために食物を取り込む必要がなく、食物はほぼ嗜好品扱いなので、買っていく人の少ないこと少ないこと……。

 

 それでも、神としての身体を維持するためには、神様ポイントを獲得しないと生きていけません。


 いわゆる、神様ポイントは通貨でありエネルギーであり、生命活動に必要なものでした。


 貧しいワタクシ達家族はボロ屋を借りて、神様協会からの生活保護を貰って生活していました。


 ある日、ワタクシと両親3人で畑仕事に出掛けた日のことです。


 夕方に家に帰ると、ワタクシ達のボロ屋にテレビが置いてありました。


 ワタクシの父は不審に思いました。


 外に捨てよう、と言いました。

 

 ワタクシは良いものなのだから、貰っておけばいいのにな、と思っていました。


 まだ、ワタクシは頭の中は幼い身。


 それほど、おかしなことだと思いませんでした。

 

 父が捨てようと、テレビに手をかけた直後のことです。


「すいません、どなたかいらっしゃいますでしょうか」


 ドアの向こうに誰か来ました。


 父は、知らない人が来た時にむやみに出てはいけないと言って、出ませんでした。


 そしたら、外から術みたいなもので鍵を勝手に開けて、入ってきました。


 真っ白な服を着た、髪の毛が蛇でできた女の人でした。


「すいません、いらっしゃるようでしたので、勝手に入らせていただきました」


 父は母とワタクシに奥に行っているように言いました。


 ボロ屋で激しく狭いので、奥といってもそれほど奥へはいけないのですけど。


「どちら様でしょうか」


「私はGHKという団体の職員でして、正式には神界放送協会というものです」


「何の御用ですか」


「こちらに受信媒体があることを確認したいのと、確認できた場合に受信料を頂きに来ました」


「は?」


「テレビの確認をさせていただきます」


 勝手に上がってきたこの人は、ワタクシ達とテレビを舐めいるように確認すると、懐から円盤のようなパネルを取り出しました。


「はい、確認できました」


「あの、自分達は貧しいのでポイントは払えません。生活保護の場合は免除されるのではないですか?」


「一度お支払いになって下さい、話はそれからです」


「支払うって、どうやってですか」


「自動徴収します」


 円盤が軽く光ると、神様ポイントは吸い取られていきました。


 我が家の生活保護で支給されている神様ポイントは一気にゼロになりました。

 

 父は何とか、家族を守ろうと言葉を続けます。


「生活保護の家庭は免除されると思うのですが、払ったので返してください」


「はい、確かに免除されますよ。けれども、一度お支払いしたものはお返ししないのがこの協会のやり方でして」


「汚いやり方しやがって……」


「おや、ポイントが足りませんでした……失礼します」


 円盤がもう一度光ると、両親は光となって消えていきました。


「あ……」


 ワタクシの力も、半分以上持って行かれました。


「それでは、失礼します」


 その人は、何事もなかったかのように帰って行きました。


 ワタクシは、気を失いそうになりながらも、憎しみで心が満たされていきました。


 その強い憎しみの心は精神エネルギーとして、放出されていたようでした。


 それはたまたま、近所で散歩をしていた神に伝わったようです。


 一人の神がボロ屋の中に入ってきました。


「おや……、可哀想に。随分と悪魔のようなやり方をする連中が居るもんだ」


 ワタクシにはその人が、救世主のように見えました。


 窓から入り込む満月の光は彼女の赤い髪をより美しく、煌びやかに映しだしていました。


 漆黒の衣は辺りに溶け込むように、闇を全てを支配しているかのようでした。


「ワタシは嵐と慈雨の神バアルよ」


 ワタクシは、口を利く余裕もなく……只々、彼女を眺めていました。


「バアル・ゼブブがワタシの名前。人によってはベルゼバブブと呼ぶけれどね……助けてあげるわ」


 彼女がワタクシに手をかざすと、身体の自由が戻って行きました。


「あ……あの……」


「ワタシのところにおいでよ、もう、独りでは生きていけないでしょ?」


 先ほどまで満たされていた憎しみはどこに行ったのでしょうか……今は、ただただ喪失感と悲しみが一斉に押し寄せてきました。


「うわあああああん。あああ~」


 彼女の胸を借りて、泣いて泣いて泣きました。


 とめどなく流れる涙は心を癒すまさに、慈雨。


 慈雨の神バアルが心を癒してくれたのだと、ワタクシは思いました。

 

 本人は、何もしてないよ、と言っていましたが。


 ワタクシは、バアルさんの家に住むことになりました。


 ものすごく、大きな家なのにバアルさんは独りきり。

 

 聞く所によると、バアルさんは神様でもあり、悪魔でもあるそうです。


 悪魔である方が有名になっていますが、一応協会は神様協会の方が僅かに使う頻度が多い、と本人が言っていました。


 神様ポイントもたくさん稼いでいる様子なのに、贅沢をするわけでもなく、毎日毎日、何かを発明したり、どっかに出かけたり、とても忙しそうです。


 そして、ワタクシを学校にも入れてくれました。


 今まで、無縁だった世界。


 それが学校。


 存在を知ってはいましたが、自分とは関係ないと思っていました。


 ワタクシのことをこんなにも良くしてくれるとは思わず、嬉しかったです。


 甘やかされて育ったとお思いでしょうが、神様ポイントは常識の範囲内で多くもなく、少なくもありませんでした。


 いろいろ計算して、ワタクシの丁度いい量を考えて与えてくれているようでした。


 様々な異世界に行く様子で、中でも第23世界の文化に夢中になってました。


 夜な夜な画面に向かって「萌え~」とか、「彼女が攻略できない」とか色々言ってましたが、研究をする仕事だって言ってました。


 両親が居ないワタクシは、寂しくてバアルさんに甘えたかったのですが、いつも忙しそうで……ワタクシの事はいつも放ったらかし。

 

 そのことを本人に言ったら、ギュって抱きしめられてこう言われました。

 

「大丈夫だよ、ダレン。ワタシはダレンを自分のパートナーだと思ってるよ。いつも、放ったらかしでゴメンね。愛してるよ……ダレン」


 これは愛の告白かな、と思いました。


 ワタクシは親としてバアルさんを見ることを辞めました。


 いつか、立派な神様になったら、バアルさんを迎えに行こうと思っています。


 高校を出たら、自立をしなさいと言われて今は、アパートを借りて暮らしています。

 

 立派な神様になるために。


 そして、バアルさんに見合う神様になるために、ワタクシの神様像を一生懸命、追求していこうと思います。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 報酬二倍って良かったですね!ダレンさん。 ダレンさんより優秀でなくてもドロシーさんは世界管理の試用期間を受けられるんですね。 上流家庭に生まれるとお得ですね。 試用期間は、本人次第ですね…
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