2話 ダレンは神様の使いを頑張ります
実は、神の世界の手続きは自動化をあまりしていません。
神には時間が有り余っていますから。
その待ち時間などの、面倒臭さは神にとっては捨て難いものです。
急いでいる場合には、簡略化もできますが簡略化には神様ポイントを消費します。
収入の少ない下級神には馬鹿にできません。
手数料には消費税が取られていたり、きちんと従ったほうが出費が少なくて済みます。
「どうぞこちらへ」
龍神の男性が、受付の鬼神女性から案内を頼まれて、案内してくれました。
受付業務のすぐ隣の部屋だったので、それほど偉い人ではないと思います。
部屋に入ると、カエルのような顔をした神様がいました。
蛙の女神様ですかね。
それでも、つぶらな瞳にショートカットの髪型は可愛らしい感じがします。
「どうも、はじめまして。私の名前はヘケトと言います。この部署の係長をしています」
「ダレンです。高校を卒業したばかりの若輩者ですがよろしくお願いします」
「仕事を受領していただきありがとうございます。担当して頂く神様についてお話します」
「はい」
「今回はダレンさんへご指名があったので、ダレンさんが選ばれました」
「はい?」
「今回のダレンさんが担当する神様はドロシー・フィールという方です」
「え?」
「ドロシーさんのお父様からの指名です」
「それは、確かに知り合いですけど……。あの方がポイントを支払ったのですか」
「はい、確かに、ポイントを受領致しました」
「ワタクシの方が早く試用期間の資格を得ようと思ったのに……」
「そうなんですか、なにか思い入れがありそうですね。高校卒業のお祝いとおしゃっていましたが」
「まあ……、仕方がないですね。ドロシーのお父様が指名して下さったのも、ワタクシのことを信頼してだと思います」
「えっと……それでは、こちらの書類に、サインをお願いします。ペンです」
「はい。わかりました……ちなみにここまできて、断るとどうなりますか」
「暗殺部隊が1週間以内に処理することになっています」
「……そう、なんですね」
「はい」
もう、選択肢はないようでした。
サインをしていると、ヘケトさんからこう、切り出されました。
「あの、この依頼を受ける上で個人的にお願いしたいことがあります」
「え? 個人的にですか……ひょっとして……、口説いてますか?」
「違います……。あのですね、私には多少ですが未来予知とまではいかないのですけれど、上級神の端くれなので、似たような力があるんです」
「……違うんですか?」
「聞いてましたか?」
「はい、ちょっと期待しました」
「……」
「未来予知みたいな力があるんですよね」
「はい。それでですね……。ズバリ言います」
「はい」
「異世界から転移者が来ます。そして、ドロシーさんはその転移者を見捨てます」
「あの……、ドロシーは頭は悪いですけど、そういうことをするような性格ではありませんよ」
「見捨てます」
「……はい」
「その時のドロシーさんの対応は、後々には良い方向に働くのですけれど、傍から見れば最悪の行動です」
「……」
「おそらく、神様の試用期間の説明で、何かしらのサポートをすることが必須だということが知らされているので、何かしらはするのですが、助けるつもりはありません」
「信じられません」
「その時に、お願いがあります」
「ワタクシに何かできることがあるんですか?」
「転移者と一緒にいてください」
「はい? 一緒にいるだけですか?」
「一緒に居れば、ダレンさんはその人を助けることができます」
「神様の使いで、下界に下りると若干危ないことがあるんじゃないですか……」
「下界制限は、ドロシーさんの行動が確認できて、ダレンさんの報告があり次第、解除します」
「神がポイントを節約するために、転移者を見捨てることって、結構あると思うんですが」
「確かに、あまり役に立たないスキルを与えて、立派にサポートをしたという事にする神はいます」
「まあ、よくある話ですね」
「でも、今回の方はキチンとした対処をしないと、命が尽きます」
「死んじゃうんですか……」
「命が関わる時点で、精一杯の対処をしないということは罰則事項です」
「その転移者の方って、そんなに大事なんですか?」
「そうですね。第26世界に魔王が復活したら、なんとかする可能性はあります」
「曖昧な言い方ですね」
「予知みたいなものって、言いましたよね」
「その内、影響力を持つ可能性があるんですね」
「ええ……」
「ところで、その事が本当になるとして……、下界制限を解くということは、ドロシーの使いから解かれるのですか?」
「ええ、そのつもりでいますが……そのあとも転移者の傍にいてください。命の心配が要らなくなるまで。ポイントは倍払います。更に、必要なことがあったら、多少のことには応じます」
「倍……ですか……。もうワンランク上のアパートに移れるな……」
「よろしくお願いしますね」
「あの、ひとつ聞きたいことがあるのですが、第26世界で、その転移者が活躍するとヘケトさんに何か良いことがあるんですか?」
「おそらく、その人が居ないと第26世界の生命が多く失われます……。その世界の生命が著しく低下した場合、第26世界を担当しているこの部署は、縮小され人員も削減されます」
「削減ですか……」
「別に人族で繁栄していなくても良いのですが、知的な生命体が多く、たくさんの感情や思いのエネルギーがたくさん生まれれば生まれるほど、私達の活動は上から評価されます」
世界の評価はエネルギー産生量によって決まっているんですね。
「人員削減とは私達の消滅なので、職員を守るために仕事をしています」
命を守るために仕事をしてるなんて、ちょっとカッコイイかも。
「ワタクシより上級の神なのに、管理のために生み出された存在というのはそういう制限があるんですね……驚きました」
「世界担当の部署はそういうものです」
「へえ~」
「役職持ちは消滅しませんけど、職員が消えるのは悲しいものです」
「消えてしまうのは……そうでしょうね」
「まあ、他の世界の部署に空きがある場合には、そちらに異動してもらうということもあるので、全員消えるということはないのですけど……」
「はい、わかりました。もしヘケトさんの予知が当たったら、そのように対応させていただきます」
「お願いしますね……ダレンさん」
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