22話 固くて太いもの
「行っちゃったね……お兄ちゃん」
「じゃあ、歯を磨いて寝よう」
「歯?」
「ゴブリンは歯を磨かないの?」
「磨かないかも」
「歯が強いのかな……虫歯にならないの?」
「虫歯?」
「歯が溶けて痛くなるやつだよ」
「う~ん、無いかも」
「甘いもの食べないからか。……でもね、ここで食べてると虫歯になるから磨こう」
「歯が痛いのは嫌だな。溶けたら、スライムステーキ食べられないか。わかったよ」
洗面台の方に行く。
2人で並んで教える。
「歯ブラシに歯磨き粉を、ちょっとだけでいいんだよ。ちょこっとだけ、ほら、指の先くらいね。このくらい付ける」
「ふむふむ」
ゴブリンも真似て付ける。
加減が流石だ。
ほんとに同じくらいの量をつけている。
「水で濡らして、満遍なく磨く……。ゴシゴシって。ホラこんなふうに」
「やってみるね」
「うん、そんな感じ……磨き残しがないようによく磨いて……ペって出す」
「ゴク」
「また、飲む~」
「ごめん」
「汚いし……風邪引くよ~」
「ついつい」
「まあ、いいか……初めてだし。それで、水ですすぐ。グジュグジュ……ぺっ」
「ゴクゴク」
「また飲む~、それ一気飲み? 死ぬよ」
「死ぬの?」
「……繰り返してるとね……」
「嘘でしょ?」
「……ゴブリンはわからない」
「飲んでもいいの?」
「冒険者になった時、恥ずかしい思いをするよ……いつかわからないけど」
「そっか……もう飲まない」
「まあ……こんだけ。わかった?」
「余裕」
「なんか、最初と性格が変わってきた?」
「同じだよ」
「そうかなあ」
俺らはベッドの方に向かった。
「じゃあ、寝ようか」
「うん」
「あれ? なんで、床で寝るの?」
「え?」
「2人ならベッドで寝られるって言ったの誰?」
「わかったよ~」
別に、何をするってわけじゃない。ただ、気持ちが心細い。
一緒にいるだけでいい。
「うん。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
照明を暗くして、薄明るい状態にする。
今日は疲れた……。
その前に、水筒の中身の水を飲もう。
一口だけ。
うん、うまい水道水だ。
なんだか、安心した気分になった。
そのまま、意識を手放した。
……はずだった。
うん? ゴブリンがなんか言ってる。
あれから、1時間しか経ってない。
22時30分。
ゴブリンは俺に背中を向けているから、背中越しになんか喋ってる。
「お兄ちゃん……お尻に何か固いものが当たってるよ~」
固いもの?
なんだろう?
「太くて固くて、これお兄ちゃんの?」
何言ってるんだろう。
「お兄ちゃん……知ってたんでしょ? 知ってて、私のことを男だって言ってたんでしょ? 私、女だよ。ゴブリーヌに男のゴブリンはいないんだよ」
眠くて言ってる意味がわからない。
「お兄ちゃんは私が行くところがないのをいいことに、そんなことをするの?」
こんな小さい子に、誰も何もしないって。
なんか、勘違いしてる?
「あの……ねえ、ねえ?」
「お兄ちゃん……何? 変なことしないって言ったのに……もう」
全然取り合ってくれない。
自分の世界なのか。
向こう側で、ずっと喋ってる。
「おーい……聞いてる? それ、水筒だよ」
「え?」
「お尻の所の固くて……太いものだっけ? それ、俺の水筒」
「え?」
「ごめん、ついつい一口飲んだら、眠くてそのまま寝ちゃったみたいで」
「え? あ……私の勘違い?」
「うん、そうだと思う」
「私が女だって知ってた? お兄ちゃん」
「知らなかった……。ごめん、悪いことしたね」
「ダレンさんは知ってたから。お兄ちゃんも知ってて、なんかしようとして言ってるのかと思ってたの」
「うーん、小さい子供には興味がないよ。可愛いとは思うけど、そういう対象じゃない」
「でも、ゴブリンの女の人をそういう目的で、年齢関係なく人間が拐うことがあるって……」
「まじ?」
「うん、大人達が言ってたから間違いない」
「というか、ゴブリンって女の人もいるんだね。いないかと思った」
「あのね……ゴブリーヌって、女しか生まれないんだって」
「さっきも言ってたね」
「ゴブリーヌって名前は、人間に味方した女ゴブリンのカトリーヌっていう名前からとった蔑称なんだよ」
「蔑称っていうぐらいだから、悪い意味なんだろうな」
「もともと、ゴブリーヌって成長が遅いの。能力も低いと言われていて、モンスターとしての凶暴性や攻撃性も低いから、他種族に利用されやすいんだって」
「まあ、見た目も人間みたいだもんね」
「それで、大昔に人間の仲間になったカトリーヌというゴブリンがゴブリンの一族に対して、大損害を与えたらしくて……ゴブリンにとって悪い影響をを与える可能性のある存在を処分することにしてるみたい」
「そっか……」
「でも、実際には本当かどうかわからないよ」
「そんなことより眠いから、寝ようか」
「うん、何か聞きたいことある?」
ないな。
あ、でも一つだけ気になることがあった。
「パンツは何履いたの?」
「黒のティーバッグ」
「そっか……。7歳なのにそういうの履くの?」
「ゴブリンは10歳で成人だよ」
「人間だと幼女だよ」
「私が成長してたら、危なかった~。そういう対象ってことでしょ」
「お兄ちゃんをからかわない。相手がいいって言わないと、そういうことはできない」
「お兄ちゃんは絶滅危惧種だね」
「草食系男子は増えているんだよ」
「お兄ちゃんの病気が治って、冒険者になれて、私がそういう対象として好きになれたら、言うよ」
「永遠にこなそう」
「かもね」
「じゃあ、おやすみ。寝ないと……明日は力が出ないかも」
「大丈夫よ。お兄ちゃんが倒れるだけ」
「確かに……」
「でも、私も眠いわ」
「急に、女らしい口調になったね……見た目は子供なのにな」
「もう、隠す必要なくなったもの」
「そっか」
ずっと、ゴブリンは背中を向けて話しているけど……なんか、短時間に色々変わってしまった気がした。
振り向いた時には、知らない顔だったりして。
「お兄ちゃん……寝るね、おやすみ」
「おやすみ、明日は頼むよ」
「うん……」
ようやく、意識を手放せそうだ。
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