21話 神は眠らない
「ダレンさん。ベッドは二人で使っていいんだって」
「お兄ちゃんと2人で使ってください」
「え? 寝ませんよ」
「寝ない?」
驚いた表情で俺は聞き返した。
「神は寝なくていいんですよ」
「何? その設定」
「よく言うでしょう? 神は眠らない」
人間とは違うだろうけどさ。
「聞いたことないですよ」
「色々、やることがあるんです」
夜中に何かやるなんて悪い人だ。
「ダレンさんも寝ましょうよ、お年なんですから」
見た目は俺よりは年上。
神様だからわかんないけどね。
「たくさん生きましたけど、神の中ではまだ若いんですって」
「寝ないでいて、一体何をするんですか?」
ストレートに聞いてみる。
「ちょっと……出掛けてきます」
秘密?
俺とダレンさんの仲なのに?
「どこへ?」
「あっち……」
「あっち?」
「そっちかな……、それともこっちかな」
何処へ行くか言えない……?
「人に言えないようなところへ行くんですか?」
「神は謎めいていたほうが、神っぽくないですか?」
ダレンさんの神様理論はハゲとヒゲと謎めいてる?
ダレンさんの神様美学なのか。
神様美学なんて止めて全部教えて欲しい。
「ダレンさんの神様像はハゲてて、謎めいているんですね」
「え?」
「そうか……じゃあ、あの人は神様だったのかな。近所のおじさん。謎めいていて、ハゲてたな」
家の近所の公園によくいた人。
ダレンさんの理論で言えば、理想の神様だろ?
まあ、神様ではないだろうけどね。
「それは、多分……普通のおじさんです」
「ハゲてて、夏なのに昼間っからコート1枚で下は何もつけてなくて……神様っぽかった~」
「……普通……ではないですね」
たまに警察に職務質問されていたけど、何故か何も咎められていなかった。
「そういうことですよ。ダレンさんの謎めいた、の意味って」
「意味がわかりません」
そう、謎めく必要なんてないんだ。
「……不審人物はダレンさんってこと?」
ゴブリンが会話に入ってきた。
そこは、ゴブリンが入ってくるとこじゃない。
そう、大人の会話だよ。
「いつ出かけるつもりですか?」
「いや、2人が寝たらやることもないので、朝まで出掛けてこようかと思いまして」
「朝まで?」
「モンスター退治には一緒に行きますよ」
「朝帰りですか? ダレンさんがそんなことをするなんて……いやらしい」
「お兄ちゃん……ダレンさんは何をするの?」
ゴブリンが俺に訊いてくる。
「小林さん……妄想が激しすぎる」
「2人が寝たら、やることもないのでって言いましたよね」
「え? ええ」
「じゃあ、寝ません」
「え?」
「ダレンさんが出掛けないように」
寝たら、出掛けちゃうと言うし。
「それは……やめたほうがいいと思います。明日、3人でモンスター退治に一緒に行けませんよ」
「俺がいなくても問題なさそう……」
「それはそうですけど……」
「否定されないと悲しいな……事実か」
「ちょっと出かけてくるだけですって」
「ダレンさん……戻って来ないとか、嫌なんですが」
そう言って、戻って来ないなんて事も有り得る。
「大丈夫ですよ、きちんと戻ってきますから。危ないことをするわけではないんです」
「そう?」
「居なくなるつもりだったら、初めから言いませんって」
「それもそうか」
確かに俺も、居なくなるならそ~っと出て行くかも知れない。
「仕事なんです……」
「仕事じゃ……仕方がないですね」
仕事だと言われると、納得しちゃうな。
「仕事って聞くと物分りがいいんですね」
「じゃあ、早く終わらせてサッサと帰ってきてください……居ないと、寂しいじゃないですか」
「小林さん……」
ダレンさんは、靴箱から靴を出すとカッコよく外へ飛び出していった。
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