20話 寝るには準備が必要です
「明日って、何時から出発ですか?」
ダレンさんに明日の予定を訊ねた。
「狩りの時間ですよね」
「はい」
「起きて、首の管の処置をしていただいて、ご飯を食べて、身支度をするまで2時間あれば余裕だったりしません?」
「じゃあ、ダレンさんの言うことを全面的に採用して7時起床の9時出発くらいでは?」
「そのくらいでいいと思います。ああ……そういえば、時計がないですよね」
「時計は……ないかも、持っていたガラケーも電池ないしなあ」
「お兄ちゃん、ガラケーって何?」
「えっと……元いた世界で使ってた通信機かな。みんな普通に誰でも持っていて、お兄ちゃんのは旧型。スマートフォンをみんな使ってたな」
「通信機……みんな持ってる……すごいねー」
「一応、今調べたら、ポイントを1ポイント消費で腕時計をペアで注文できます」
「最後の1ポイントか……。そうですね、よろしくお願いします」
ポンッと青い腕時計が2個出てきた。
シンプルな構造で、小窓に現在の時間が数字で表示されている。
今は21時03分か。明日のためには、早く寝たほうがいいな。
これで、残り0ポイント。
「ポイント、これで全部使い切りましたね」
「全部使ってしまって、良かったんですかね?」
「これから、ここで生きていくぞ……という、覚悟の意味で、良かったと思います」
「諦めないための、投資なんですね」
「まあ……そんなようなもんです、ちょっとやっちゃったかなって思いますけど」
「明日中に透析設備ができればいいですね」
「ええ……」
「なんにせよ、まずは生きられれば、誰も文句言いませんって」
「俺が生きたからといって、どこまで価値が有るかわかりませんけどね」
何はともあれ、腕時計を手首につけてみよう。
時計を手首に近づけただけで、腕時計は手首に吸収された。
吸収?
「ダレンさん……これ、腕の中に入っちゃったんだけど」
「大丈夫ですよ、時間把握能力というスキルを得ただけです」
「は?」
「時間が知りたいと、念じさえすればいつでも時間がわかりますよ」
「ああ、なるほど視界の中に出そうとすると、出てくるんだ……不思議。異世界っぽい」
「お兄ちゃん……この形をしている意味がないと思うよ」
「確かに……。ダレンさん。これって、こっちの世界ってみんなこれ?」
「神界だと、みんなこれが売ってるんですけど。外す時は外れろと念じればいいだけですし……慣れれば便利ですよ」
「便利だけど……なんか、あんまり気持ちがいいもんじゃないな、普通のが良かった」
時間が分かればいいか……普段は魔法バッグに入れておいて、寝る時だけ枕元に置いておこう。
ゴブリンはどうする?
「着けとく?」
「
う~ん、銅の剣に吸収させておく」
「なにそれ?」
ゴブリンが壁に立てかけてある銅の剣に腕時計を近づけると、銅の剣に腕時計が吸収された。
銅の剣の柄に小窓が出来て、時間が表示されている。
「なんか、カッコいいようなカッコよくないような……微妙な気持ち」
素直に、表現してみた。
「……」
ゴブリンは無言だ。
「……そうですか、便利なんですけどね。まあ、時間が分かればいいだけですから」
「ダレンさん。あの、これから寝ようと思ってたんだけど……照明ってなんとかなりません?」
「そうですよね……寝る場合には明かりは暗いほうがいいんですよね」
「ええ。お願いします」
「えっと、照明について……ナニナニ、照明操作のためのリモコンがあります」
「リモコン? どこに」
どこにも見当たらないんだけど。
「机の下に収納されています……」
ダレンさんが読み上げる。
「机の下?」
「お兄ちゃん……なんか、ここ開くみたい」
「なんで、隠してあるんだよ……照明のリモコンなんて」
「きっと、気分だと思います……見ているテレビ番組とか、ハマっているゲームとかで……」
「色々、何かをやりながらつくったのか……リモコン操作してみよう」
ポチッとな。
「うわ……ピンクの照明、なんか趣味悪いよ」
「じゃあ、これか」
「なんか、天井から出てきたよ」
ゴブリンが面白そうに報告する。
「ミラーボールが回っていやがる」
中々の大きさだ。
この部屋に不釣り合いなくらい大きい。
「これは?」
続けてボタンを押す。
「星がイッパ~イ」
ゴブリンが満天の星空を見上げて声を上げる。
「プラネタリウム?」
多分、プラネタリウムだ。
それも、結構出来がいい。
完全に真っ暗の中で星々が輝くから、とても綺麗だ。
こういうのって恋人と見るのがいいなあ。
今はそんな気分じゃないなあ。
「じゃあ、これかな」
続けてボタンを押す。
「可愛い生き物がいっぱい……」
ゴブリンが目を輝かせている。
こういうの好きなのかな。
「これは、猫か」
部屋中に猫がたくさん現れた。
だけど、触れない……光の像だ。
「そういえば、猫に囲まれて眠りたいとか、言ってたかもしれません」
今まで様子を眺めていたダレンさんが口を開く。
「この大きなスイッチかな」
ボタンを押してみる。
「あ、暗くなった……真っ暗」
何も見えない。
これでも眠れるけど、トイレに行く時とか危ない。
「暗すぎるな……じゃあ、これ」
違うボタンを押してみた。
薄明るい光。
これなら、寝るのにちょうどいい明るさかも。
「これなら、明るくなくて、しかも安全だね」
ゴブリンも納得の明るさ。
「よし、これで寝ればいいか」
でも、どのボタンがどれか、よく覚えておかないとかな……。
寝る前にミラーボールが回るなんてこともあるね。
照明を元に戻す。
これで、寝る準備はOKだ。
歯を磨いて、みんなで寝よう。
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