16話 男が好き?
3人とも食事を食べ終わって、一息ついていると眠くなってきた。
ああ、このままのんびりしてると寝ちゃうな。
「ねえ、寝ちゃうからシャワーは入ってきちゃいなよ」
「え? シャワー?」
「ゴブリンの所だとなんていうんだ、水浴び? お風呂だよ」
「ああ、水遊びね」
「なんだか、ずれてるみたい。まあ、外国だと毎日入らないようなところもあるみたいだし……」
「モンスターですから、そういう習慣がある方が珍しいと思いますよ」
「見た目、人間なのになあ。でも、この中で一番動いたんだから、シャワー浴びた方がいいよ。洗ってあげようか」
最大限のサービスを提供してあげようと思った。
「一人で入れるよ」
「遠慮するなって、シャワーの出し方とか、どれでどこを洗うとか、わからないだろ?」
「じゃあ、説明してくれれば、それでいいよ」
「いや……口で言っても分かりにくいから、一緒に入ってあげるよ」
看護学校の実習でやったから、洗ってあげるのは自信がある。
俺の看護技術で好感度がアップすること間違いなし。
「小林さん……」
ダレンさんが俺の方を気持ち悪い眼差しで見つめてくる。
「なんですか、ダレンさん」
「……変態」
変態? 変態だと……。ダレンさんに変態呼ばわりされた。
ダレンさんには言われたくないよ。
「いや……そういうんじゃないですよ。いやだな。ただ、親密になっておいた方がいいかな~って」
「お兄ちゃんの変態」
ゴブリン……違うんだ、違うんだよ。
「……うっ……」
そうか、確かに変態に見えるかもしれない。
ゴブリンに言われると、何も言い返せない。
このままでは、扱いが変態になってしまう。
「うん……そうだ。教えてあげるよ。シャワー室の使い方は、口で言えば伝わると思う」
せっかく、善意でやってあげようと思ったのに、断念せざるを得なくなった。
お湯の出し方や、ボディシャンプー、シャンプー、リンス、洗顔料について教えてあげた。
「お湯はここを捻って、バーッと出すんだよ。温度はここら辺をバーッて捻って。頭は最初はこれでバーッとやって、次はこれでバーッとやって、身体はこれでバーッて、顔はこれでバーッて……」
「バーバー言う説明がうるさい」
苦情が入った。
「そう? やっぱ、一緒に入ろうか?」
うん、俺の看護技術を味わうがいいよ。
「お湯はここを捻って出すんだね。温度の調整はここか。頭はこれとこれで、最初にこれで洗って、次がこれね。顔はこれで洗うんだね。身体はこれで洗うんだね」
「……」
さっきの説明で伝わっていたらしい。
「うん、わかった、ありがと。早く出て行って。服用意して先に入るから。のぞかないでね」
やっぱ、物分かりがいい……わざと分かり難く説明したのに、正確に理解していた。
「覗くわけないじゃないか、男同士なのに」
シャワー室から外に出る。
ゴブリンもパジャマと、下着とかを取りにきて、またシャワー室に戻る。
シャワー室のドアがバタンと閉まる。
「小林さんは男がやっぱり、好きなんですか?」
「やっぱり? 何でですか?」
「ゴブリンに対してしつこくするからです」
「しつこいですか?」
俺の行動のどこにそんな要素があったのだろう。
「男が好きなのかなって、思うくらいには」
「いえ、俺は女性が好きです。どちらかというと、ゴブリンには世話を焼きたいというか、構いたいというか、構ってもらいたいというか……放っておけない気分なんです」
「それって父親なのか母親なのか、わからないですけど……親心みたいなものなんですかね」
「自分の中で、それとも違うかなって思ったので、お兄ちゃんって呼んで貰うことにしました」
「そういう意図があったんですか……」
「もう一つの狙いは、やっぱ、特定の……親密になるための関係性が必要だと思ったんです」
「関係性ですか?」
「俺とゴブリンは、ゴブリンに助けてもらう関係だけど……、今のゴブリンは衣食住を提供してもらって助けて貰っている、と思い込んでいる」
「まあ、そうなんですかね」
「そんな時に、自分が強くて一人でも生きていけると思ったら、出て行っちゃうんじゃないかと思うんです」
「可能性はありますね……人間とモンスターが主従関係でもなく一緒にいるんですから」
俺って、弱い立場なんだよ。
「自分の激烈に弱いステータスと、ゴブリンの強いステータスを比べた時に、ゴブリンと何かしらの関係を築いておきたいと思いました」
「まあ、小林さん弱すぎですからね」
限りなく弱い……まさにカスだ。
「もちろん、それは自分のためですが、処刑されるくらい迫害されている存在であるならば、自分はゴブリンの孤独心を少しは癒せるかな……と思っています」
ちょっと、都合が良すぎるのは分かってる。
「それでも、小林さんが生きられなかったら……、ゴブリンは一人ぼっちですよ。却って、親密性を高めることは、悲しませるだけのような気がしますけど」
俺が死んだら……。
「……そうですね。自分も寂しいので……ゴブリンに精神的に依存してしまっているのかもしれません」
「意識があって、知能があって、いろいろ考える存在ならば、誰でも弱いところは生まれてきてしまいますね」
「はい」
俺ってば弱いところしかないけどね。
「可愛いと感じる気持ちや、憧れとか、慈しみでさえも、論理的な思考や冷静さを打ち消そうとしてしまいます……」
ゴブリンもひょっとしたら、冷静な判断を下せなくなって一緒にいてくれるかも知れない。
「でも、そういった気持ちが、人を強くしたり幸せにしたり、原動力になっているんだと思いますよ」
俺もゴブリンも強くなれるだろうか。
「とりあえず……、俺は生きられるために出来ることをしたいです」
「う……ん、まあ、今は何もできないんでしょうけど……」
「痛いところ、突きますね……何か、考えるくらいはしますよ」
「まあ……かくいうワタクシも、何も出来ませんけどね」
「ダレンさんは、俺のために良くしてくれていて、感謝してます……そんな制限つけてまで」
「まあ……ちょっと、小林さんのことは頼まれていますから……」
「……え……頼まれて?」
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