15話 スライムステーキ
そんなんことを考えていると、どこからともなく……。
ぐ~~~~と音が聞こえてきた。
ゴブリンか。
お腹が鳴ってるみたい。
ちょっと、恥ずかしそう……。
そういえば、自分もお腹が減ったかも。
「お腹すいた?」
「……うん」
チョコバーと、DHA+EPAのサプリメント、飴玉をあげてからどのくらい時間が経ったんだろうか。
普通に考えて、満腹まではいかなかっただろう。
おいしくなかっただろうし……。
向こうの世界でお昼を食べたのが、透析が終わってからだから、13時か14時頃だったと思う。
女神の所まで歩いて……、女神とダレンさんが話して……。
でも、まだ太陽は高い所にいたっけ。
ダレンさんの頭が眩しかったのが、印象深い。
病院の卵が出て、ゴブリンが出て……その時で何時くらいだ?
15時くらいかな。
今は、外が暗いのかわからない。
そういえば、この建物は窓がない。
だけど、明るい。
外も明るい時間帯だったので、関心が向かなかった。
窓がないのに暗くないのは、建物の壁や天井や机に椅子、至る所がどこともなく、優しく光っているからのようだ。
寝る時は、消せないのかな。
外をのぞいてみよう。
玄関のドアを開けてみた。
暗い……。
真っ暗だ。
周りには何もないのだから、当たり前と言えば当たり前。
「小林さん、外に出ると危ないですよ」
「いや、今は何時ごろかな、なんて思って」
「えっと、今は午後7時ですよ」
「異世界も前の世界と時間の流れは同じ?」
「はい、同じですよ。1日24時間です。ひと月は30日で固定。12か月で360日です」
「なんか微妙に違うけど……」
地球だと、自転とか公転とかの関係で、色々ずれそう。異世界だからいいのか。
難しいことは、よくわからないから、考えるのは辞めよう。
「暦とかって、どうなっているんですか」
「ああ、今はですね……。人族が生まれた時に創ったので、そこから数えはじめたみたいなんですけど、最初に生まれた人族に因んで、今はラルネ暦20万2019年9月11日です」
前の世界だと紀元前20万年くらい前にクロマニヨン人とかの新人類が誕生とかだから、俺らの歴史と紡いできた時間はそんなに変わらないのか。
まあ、どうでもいいことだけど。
「ダレンさん、厨房が設置できたということは、ご飯が食べられるんだよね」
「はい、食べられますよ」
「お兄ちゃん……ご飯食べたい」
「どうすれば、ご飯が出てくるの」
「まずは厨房のパネルの前に1人ずつ立ってください」
言われた通りにパネルの前に立つ。
「小林さん……はい、OKです。次……はい、OKです」
「これ、何しているんですか?」
「身体状況を把握して、必要な蛋白質量とカロリーと栄養素を計算して食事をつくるのです」
「あの、栄養素はわかるんだけど材料はスライムしかないですよね」
スライムで作る料理なんて気持ちわるいなあ。
「大丈夫ですよ、スライムで何かいい物をつくってくれますって。ちなみに2人で2ポイント」
「結構高くないですか、基準がおかしい……」
「2ポイントで1か月分です」
「そう……でもないのか。味次第だけど。ダレンさんは食べなくていいんですか?」
「神ですからそこまで必要じゃないんですよ。パネルで登録しても何も出てこないと思いますよ」
ダレンさんも、一応登録して貰おう。
何か、食べたい時もあるかもしれない。
残りポイントは3ポイントかな。
「さあ、二人とも席について下さい」
「席? 椅子に座ればいいんですね。ダレンさんは水だけでも飲みます?」
「ああ、そうですね……雰囲気だけでも味わいますか」
異世界セットで現れた……洗面台に置いてあるコップで水を汲んでだす。
ああ、厨房があんな変なものだから食器を置く意味がないな。
「はい、出します」
机の上にポンっと煙が出て、お皿の上に出たのは楕円形の平べったいゼリー? 確かに、二人分……。
「これは、スライムステーキです」
そして、遅れて出てきたダレンさんお前の皿の上には……新鮮な緑色のサラダが。
「ワタクシには出ないと思ったのに……えっと、ハゲに良く効く海藻サラダ、グリーンドレッシング和え?」
「ははっ、ダレンさんは髪の毛の心配をされたんですね」
「髪がないのは、神様っぽいと思うから、あえてハゲているんです……。まあ……、食べましょうか。頂きます」
「そうですね、いただきます」
「……いただきます?」
自分はナイフとフォークで切って、口に運ぶ。思ったよりは弾力がある。
ゴブリンも真似て、ナイフを使おうとする。
慣れないと無理だよ、と言おうとしたが、意外にも使えてる。
見ただけでマスターしたようだ。
さすが、俺のゴブリン。
俺の……じゃないけど。
ゼリーの触感……ではなく、肉の食感。
透明な繊維が入ってる。
味も牛肉みたい。
ソースも青いのだけど、醤油のような味……。
「うん……見た目は変だけど、おいしい」
「おいしい……おいしい、おいしい」
泣いてる?
まあ、ロクなもの食べてなかったんだよな……。
存分に食べるといい。
必要な蛋白量を考えてあるんだよな?
食べ過ぎになりませんように……。
ゴブリンの分は5枚くらいある。
自分は2枚。あと、付け合せの野菜。ゴブリンにはスープがついてるけれど、自分にはない。
デザートもゴブリンにはあるけど、自分にはない。
まあ、透析患者だから仕方がないか。
入院中の水分制限は食事以外で700mlだったから、この世界でもそれでいいかな。
ダレンさんの前に水を用意したのに、全員の前にきちんと飲み物が出ていた。
ダレンさんの前には、コップが2個。
どこまでのモノだかわからないけれど、とりあえず信用するしかないな。
あ……そうだ、リンの吸着薬を飲まないと。
一口食べたところで思い出した。
あ、インシュリンも打ってないや。
超速効型のインシュリンを4単位打っておく。
リンの薬も飲もう。
なるべく、血管の石灰化は起こしたくない。
もし生きられて、もし腎不全が治って、もしモンスターと戦うことになったら。
それだけで、だいぶ不利な身体になってしまう。
そういえば、病院からもらった薬……。
入院中だったから、明日の朝までしかない。
「ダレンさん、リンの薬明日の朝までしかないです。ご飯終わったら出して」
「モシャモシャ……。え? はい。後で出しときます」
ポイントは3ポイントしかないけど、足りるの?
まあ、いいか。
とりあえず、今は食事を食べよう。
このスライムのステーキ、ゴブリンのステーキよりも水気が少ないのだろうか。
なんだか、微妙に青色が自分の方が濃い気がする。
まあ、こんなにも味の質が高いのならば、ちょっと安心。
「ねえ」
ゴブリンに話しかけてみる。
「何? お兄ちゃん」
「ゴブリンの棲家にいた時は、何食べてたの?」
「木の実とか、虫とか、カエルとか、何かの肉かな……?」
「へえ……」
虫って……おいしいのかな。まあ、思ったよりは食べてたんだ。
「ところで、処刑されるって言ってたけれど、何歳で処刑される決まりなの?」
「7歳。丁度、今日が7歳の誕生日」
「おめでとう……じゃないか。でも、7歳って、あんな小さいの?」
転移してきたばかりの頃は……といっても、ほんの数時間前だけど。
4~5歳くらいにしか見えなかった。
人間でいう7歳なら身長が120㎝位。
身長が低い子でも大体110cmくらい。
たぶん、あの時の身長は90cmもなかったかな。
「他の子よりも、育ちが悪くて小さいって言われてたよ」
他のゴブリンより小さいのか。
「身体が小さいから他の子に勝てないんだよ」
勝てない?
苛められていたとか……。
酷い目にあったのかな……。
「ううっ……不憫な子だよ~」
「小林さん~本当ですね……」
ごめん、おっさん二人で泣いてしまいそうだ。
「お兄ちゃん、ダレンさんもどうしたの?」
「可哀相で可哀相で……泣きそう」
「ワタクシも、孫が酷い目にあっていたかと思うと……泣きそう」
「もう、二人共……キモ……じゃなかった、暗くなるからやめてよ」
そうか、キモ……暗くなるからやめてよ、か。
キモいからやめてほしいなんて、気持ちはわかるけど……。
中途半端に言い直さないでほしい。
傷つくから。
ダレンさんはともかく、俺は。
泣くと、ご飯がまずくなる。
まずくならない内に、食べてしまおう。
ゴブリンと話をすると、ひどいことを言われるからダレンさんに話を振る。
「ダレンさん、それにしても透析の機械ってどのくらいのポイントなんでしょうね」
「医療機器はポイント高めになってると思いますけど……少なくとも132ポイントで出てきてなかったので、それよりはポイントは高いと思いますよ」
「明日から、頑張んないとですね」
主にゴブリンが……。
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