8話 病院の卵 起動
沈黙を破ってくれたのは、ゴブリンだった。
「……で、スライムを倒せばいいんだね。何匹?」
「ダレンさん、何匹?」
何匹かは、そういえば聞いてなかった。
「起動するには……えっと、66匹」
「は? そんなに倒すんですか?」
予想外の数に驚く。
1匹とか2匹じゃなかったのか。
それにしても、6が好きだな。
きっと、あの映画を見たに違いない。
ダミアンを知っているのかも。
「その子だったら、倒せますって。小林さんは後ろで見ているだけでしょ」
「確かにそうだけど、銅の剣を持てても、自分だったら無理だったな」
「無理だったなって、まだ、1匹も倒してませんよ」
そんな訳で、スライム探しを再開。
スライムって、森では何故か木の根元にいることが多くて、案外たくさんいる。
それにしても、スライムを倒す手際は大したものだった。
まるで、豆腐を刺すかのように銅の剣がするっと入っていく。
それに、スライムの死体を魔法バッグに全部入れられたのは、驚き。
さすが、異世界。さすが、魔法バッグ。
病院の開けた場所の周りを1週しただけで、15匹くらい居た。
更に、もうちょっと探す場所をを広げて回ったら、30匹いた。
気を付けないと、3㎞圏内を超えてしまう。
あとは、そこら辺をうろうろしてたら21匹見つけた。
後ろに立っていて、倒したら魔法のバッグに入れていく簡単なお仕事。
力は要らない。魔法バッグの入り口を死体に近づければいいのだから。
元居た世界でも、これがあったらいいのに。
まあ、こっちの世界でも貴重なものだから、異世界人の特権だ。
神界にはありふれてるらしいけど。
「どうもありがとう、スライムを倒してくれて。これで、入口が開くみたいだよ」
病院の卵の前まで来た。
準備は万端。
準備をしたのは、全部他人だけどね。
「それじゃあ、スライムを出してください。卵に吸わせますから」
魔法のバッグからスライムを出していく。
これも、力は要らない。
手で持っていても、バッグから出ようとしている時は、重さを感じない。
完全に出てしまうと、支えられないけど……。
出ている途中で手を離せばいいだけ。
ダレンさんが基盤を操作すると、スライムの山は基盤の下にある板に吸い込まれていった。
病院の卵と呼ばれる建物が薄く光を帯びる。
真っ白な建物は、より真っ白い光で覆われて、卵が光っているように見えた。
その光が消えると、少し大きくなった建物が現れた。
大きさの他に、見るからに違うのは壁にドアがあること。
アパートやマンションにあるような青いドア。
インターフォンがあれば、アパートかなと思えるようなつくりだ。
大きさは、はじめが2メートルの立方体だったとすると、今はそれが縦横に2個ずつ繋がったような形をしている。
高さがそのままで、縦横の長さが2倍になった感じ。
とりあえず、みんなで中に入ってみよう。
「おじゃましま-す」
おっかなびっくり、自分が先頭で中に入ってみる。
下駄箱があるけれど、残念ながら靴を履いているのはダレンさんだけだ。
しかし、ダレンさんは靴を脱がずに入っていった。
神様だからいいんだろうか。
まあ、自分達も足の裏が汚いけれど……。
今はどうしようもないから、気にしない。
気になるけれど、気にしない。
広さは6畳くらい。
ベッドがひとつあって、真ん中に丸い机がひとつ、椅子が三つ。
タブレットみたいなものが、机の上にあって、あとは何もない。
「すごいねー。これがお兄ちゃんのお家? 壁が真っ白~。ここで、暮らせるんだね。夢みたい」
まあ、自分の思い浮かべるゴブリンの棲家に比べれば、だいぶ進んでいる気がする。
実際はどんなところか、知らないけれど。
これ位の部屋は東京の都心の方だと、ひと月分の給料を全部出したって足らないかもしれない。
ここは田舎っぽいから、3万円くらいかな。
タブレットを手に取ってみた。
触ったら、画面に文字が出る。
《ステータスが足りません》
絶句。
主人公だと思っていたのに、選ばれしものではなかったようだ。
「ダレンさん、俺じゃダメみたい」
「ちょっと貸して」
ゴブリンも触りたいらしい。
ゴブリンには名前がないけど……、名前がつけられない。
どうやって呼べばいいのだか、実は困っている。
名前をつけようと、さっきからしようとするけれど、こんなメッセージが出る。
《ステータスが足りません》
名前を付けるのにも、ステータスが必要なのか。
名前をどうするか、とかそういう発言もなぜかできない。
スライムも倒せないようじゃ、だめなんだろうな……なんだか悲しい。
それとは別に、ダメかなって思ったけれど、タブレット操作はゴブリンにはできるらしい。
ステータスが高いから?
けれど、内容が難しいらしく、ダレンさんに渡す。
「文字読めないの?」
「なんか、見たこともない文字で書いてある」
「これはですね、第23世界の言葉で書いてあるみたいです」
「え、操作できなくても俺には読めたよ」
「小林さんの世界の言葉ですから」
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