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告白するヤツ

書き始めてから作者は思いました。

この話、山も谷も無いと。

田中悠(たなかゆう)には好きな人がいる。


今日告白しよう、明日告白しようと、毎朝起きるたびに覚悟を決めるのだが、その都度なにかしらで先延ばしになってしまっていた。相手の返事に自信が無い訳ではない。自分でもなかなかいい関係を築けていると、そう思っている。

その相手、大橋絵麻(おおはしえま)は一目ぼれの相手だ。中野仲高校に入学してから、かれこれ一年と三ヶ月。ずっと気になっていた。ほんの少しだけ茶色がかったショートボブの髪と、少したれ目がちな大きく黒い瞳、よく笑う八重歯の目立つ口が好きだった。

一年生の時には違うクラスだったので、ほとんど接点が無かったが、二年進級と同時に同じクラスとなってから一気に話すようになり、もっと好きになっていった。

今までのリサーチの結果、絵麻には悠以外の男の影は皆無であった。実際クラスメートにそれとなく聞いてみると、すでに悠と付き合っている説まで出て来る始末だった。その話を聞いた時には嬉しいやら恥ずかしいやらだったが、一応の否定をした。外堀が埋まるならばそれはそれで……などとも考えたが、卑怯な真似をしたくは無かった。

今、悠は焦っていた。もうすぐ二度目の夏休みが始まり、特に進展が無ければ夏休み中に頻繁に会う事も出来ないだろう。いくら今現在男の影が無いとはいえ、長い夏休みの女子高生である。何が起きたっておかしくないと、高二男子の妄想力を迸らせてしまうのだ。何かが起きるのなら、起こすのは自分でありたいと思ってしまう。無いとは思うが万が一彼女に夏休み明け、彼氏が出来ていたなどという事にでもなれば、ショックは隠せるようなものではないだろう。そんなことになったら立ち直る事など出来そうもなかった。

(今日こそ絵麻に告白するぞ(こくる)


そう心に決めて、梅雨空の元、高校に向かったのであった。



「絵麻、今日ヒマ?」

「エマヒマ。 ヒマヒマ」


放課後の喧騒の中、悠は絵麻を誘った。朝の覚悟をそのままに、どうにか告白を成功させたかった。


「なんそれ?」

「ヒマのアピールですぅ」


絵麻がわけの分からない事をのたまうが、悠は深く追求するのをやめ話を続けた。


「今日さ、一緒に帰らね?」

「ききき、今日? 今日ねえ、雨降ってるから」

「ヒマだって言ってだじゃん」

「ま、まあねえ」


ずいぶんと挙動不審であったが、そもそも本日告白する事で頭がいっぱいだった悠にはその様は伝わらない。


「んじゃ、下駄箱で待ってるから」

「あ、ちょっ?!」


言い残してひとまず教室を後にするのだった。



朝から降り続いている雨は、まったくやむ気配がない。それほど強い雨ではないがシトシトと振り続け、じんわりとした湿度が、肌にまとわりついてくるようだった。

絵麻に下駄箱で待っていると言い残して教室を飛び出してしまった悠は、右手に持った傘をぶらぶらさせながら少し冷えた頭で反省していた。


(やべえ、強引すぎたかな? 嫌がられたら……いやいや、大丈夫、大丈夫……ダメだったら……付き合ったら手をつないで相合傘とか……無視されたり……)


プラスとマイナスの思考で目が回りそうだった。


(まあ今更、告白しないってのも無いしなあ)


告白する覚悟は決めていたが、断られた時の事はあまり考えていなかったが、その時の事は後で考えようと、もう一度心を決めた時だった。ボスン、と何かが悠の背中を押した。

振り返ると、頬を赤く染めた絵麻が不機嫌そうに眉根を寄せて立っていた。どうやら悠の背中を手に持つカバンで叩いたらしかった。


「……勝手に行くな」

「悪ぃ……一緒に帰ってくれる?」

「いいけど……今見たらね……傘パクられちゃってたから……入れてよね」

「お、おう」


期せずして、相合傘を絵麻から求めてきたのであった。悠としてはもちろん否やは無く興奮気味に傘を開くのだった。



「ちょっと、もうちょっと悠君の方に差してよ」


学校からほど近い土手沿いを並んで歩いている最中だった。いざ告白となると、なかなかうまい言葉が出てこない二人はしばらく無言で歩いていたが、不意に絵麻が声をあげた。


「あ? ああ、いいじゃん絵麻が濡れて無いから」

「悠の傘に入れて貰って、風邪でも引かれたらイヤでしょ」


多少自分が濡れる事よりも絵麻が濡れる事の方が嫌だったので、ばれないように絵麻の方へと傘を傾けていた悠だったが、そんなことは絵麻にお見通しだった。

しかしこれをきっかけに、悠が勇気を絞り出して告げた。


「だったら、あそこの橋の下で雨宿りしようぜ」

「え、あ、うん」


もうすぐ二人の通学路の分かれ道だった。土手道から河川敷に降りるとちょっとした公園が有り、鉄道橋が上を架かっている。その下で、告白する事に決めたのだ。

成功すれば、家まで送って帰る。失敗すれば、自分の傘を渡してサヨナラだ。そう心に決めて、誘ったのだった。


「あー、あのさあ……」

「……うん」


悠はかっこよく告白するつもりだった。

あまり長くは無い前髪だったが、思いのほか雨に濡れたらしくべたつくその髪をかき上げ、そのまま頭をかきつつ続けた。


「付き合ってるヤツ、いる?」

「……いない」


どう贔屓目に見ても、格好は付いていなかった。


「好きなヤツは?」

「……いる」


キョドキョドと視線を動かしながらの質問だったので悠の視界には入らなかったが、絵麻はスカートの裾をギュッと握りしめながら答えた。


「マ、マジで?!」

「……マジ」


悠は驚いてバッと絵麻に目を合わせた。絵麻は赤い顔で悠を見つめていた。


「……誰?」

「……ないしょ」


自然と二人の声が小さくなり、ポツリポツリと雨粒が橋桁から粒を大きくして滴り落ちる音がやけに耳についた。


「そんで……悠君は、何の御用、ですか?」


続けて絵麻が赤い顔のまま悠に尋ねた。悠は先ほどの”好きな人がいる”という言葉に、期待と不安をないまぜにして一息に告白した。


「あの、俺、お前の、絵麻のこと好きなんだっ!」


自然と声が大きくなる。


「だから……あの……」

「……うん」


悠には絵麻が泣いているように見えた。


「付き合って、ください」

「うん……うん……」


ポロポロと涙をこぼしながら返事をする絵麻に困った悠は、


「お、送るから、帰る?」


と、大変空気の読めていない事を言ってしまった。

言ってから、”しまった”と思ったがもう遅かった。すぐ先ほどまで感極まって涙をこぼしていた絵麻が、一転胡乱毛な眼差しで悠を睨んでいた。


「……空気読めや」

「ご、ごめん……」


もうっ!っとばかりにふくれる絵麻だったが、しょうがないなあとばかりに悠に言った。


「そ、こ、は、ギュッとしてチュッだよ、悠君」

「あ、おう、ごめん」


そんなこと言われてもとばかりに慌てる悠だった。告白する事ばかりに頭がいき、その後の事など頭に無かったのだ。


「……え?」

「……え?」

「いや、やらんのかいっ!」

「……あ、今すぐっ!!」


悠はおずおずと近づいて、まるで壊れ物を触るかのように肩に手をかけた。


「今回は許すけど、ちょっとは空気読んでよね」

「……ごめんって」


あまり雰囲気は出ないままだったが、悠にとっては大満足だった。

絵麻は少し不満そうだったが、すぐにご機嫌になるのだった。



相合傘での帰り道。


「告白して泣かれたらテンパるって」

「嬉しかったんだモン」

「……歩きにくいって」

「くっついたら二人とも濡れないでしょ?」


腕を組んで帰る二人だった。


「今日、みんなにRINEで回すからね」

「……恥ずかしいんだけど」

「ダメ?」


少しうるんだ目で見上げる絵麻には敵わなかった。

後編が書けたら書きたいと思います。

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