木洩れ日の最中に
鼓動の隙間のような午後。
舌先でとろけだしたバニラのような時間。
──例えばそれはマニキュアを塗りたくなるような時のこと。
ふっと溜息を吐きたくなるような時のこと。
あたしは知っている。そういう時間が誰にだってあることを。あたしは知っている。そういう時間を誰もが忘れているっていうことを。あたしは知っている。大切な時間のことを。本当に大切な時間のことを。
子供の頃に見えた妖精は、そんな時間に降りてくるっていうことを。
そしてあたしは考える。ふっと、文字を綴るようにして考える。あたし自身のことを。誰のことでもない、あたし自身のことを。一番、分からないことを。
空を見上げるようにして。空気に溶けるようにして。
あたしは想う。清らかな小川のせせらぎのことを想う。その中で揺れる水草のことを想う。その中で遊ぶ一匹のメダカのことを想う。それからゆっくりと、その娘の寂しさを分け合ってみる。
囁くように、囁くようにそっと。
吐息で話しかける少女のような、そんな静かな仕草で。
哀しくなるのは、きっと罪じゃないから。
優しくなるのは、きっと罪じゃないから。