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違法人造料理

作者: 五春 束頁

やぁ。僕は帝都の片隅で料理人のようなものをやっているモノだ。いまや帝都ではロボットの作った天然素材の活け造りだの、最高級合成肉のハンバーグだの、そんなものがもてはやされている。

そんなのおかしいと思わないかい? ああそうだとも、かつて人間が自分の手で調理していた料理のほうがずっとまともさ。けどね、この帝都ではそんなものご法度だ、ってのは……その顔を見るに、わかっているようだね。

君は見たところ地方からこの帝都に上京してきたばかりと見える。そんな状態で僕と出会えたのは実に運が良いよ。なぜかって? 簡単さ、僕の作る違法人造料理をたらふく食べられるのだからね。

まずは、このスシを見てくれ。どうだい、脂がたっぷりのった、養殖のホンマグロだ。これを、ちょっとバーナーで炙ってやる。するとほら見たまえ、表面に薄っすらと焼き色がついて、脂はしたたり落ちるほどだ。これだけの手間を加えることさえ、今の帝都では違法なんだよ。

ほうら、次はサバだ。これは昆布で〆てあるんだが、見事なもんだろう。これまた脂で照りがいい。三日間昆布で〆てあるにもかかわらずこの光沢、まるで宝石のようだろう? けれどね、これもまた違法なんだ。一口食べたまえ、これが違法であることが馬鹿らしく思えるから。

ふふふ、その顔、実にいいね。本当に旨いものってのはこういうものを言うのさ。君が田舎で何を食っていたかは知らないけれど、帝都にはこんなにも旨いものがあるんだよ。

ん? ところで違法なのはともかく、人造料理ってのはどういうことかって?

簡単な話さ。「人が手を加えた料理」のことだよ。正確に言えば……そう、あの2000年代前半の料理だね。あの時代は、今では考えられないだろうけど、すべての料理一品ヒトしなを人間が作っていた時代だったんだ。そのせいで随分と変わった料理が開発されたんだよ。

例えば、そうだね、さっきのスシを例に挙げよう。君はカリフォルニアロールを知ってるかい? いや知ってるはずさ、なんせ大々的にニュースになったから、小学校や中学校の家庭科の教科書に載っててもおかしくない。

……知らないのかい? じゃあ説明しよう。さすがの君でも、海苔巻きは知っているだろう? それをね、内側と外側をひっくり返して、まるで日本じゃ考えられないような具材を巻いたモノだよ。あれを始めてみた時はたいそう驚いたけど、今じゃ違法人造料理だ。いくらロボットが進化したとは言っても、米を外側にして綺麗に巻くなんてことはそうそうできないらしい。その分普通の海苔巻きの技術は随分と進歩したらしいけどね。

で、カリフォルニアロールだ。あれは今でもアメリカではギャングが密造してるそうだよ。無論、日本にも輸入しようとしたためしはあるけれど、全部税関でストップさ。カリフォルニアロールが食べたい人は、自分で闇市で材料を揃えてびくびくしながら作って食べるか、僕のような人造料理人を頼るしかない。

けれど、それでも食べたい人ってのは結構いるものでね。だから僕みたいなのが生きて行けるのさ。これでも政界の幹事クラスが常連なのさ。本音を言えば、彼らも僕みたいなのは排除すべきだと思ってるんだろうけど、むかーし食べた料理の味が忘れられないのさ。いわゆるおふくろの味さ。

何か言いたげだね。なんで1000年前の料理の味を国のトップが覚えているのかって?

……どうやら君は随分と人里離れたところで暮らしていたみたいだね。まるで野生動物だ。これまた2000年代前半の話だけれど、コールドスリープ技術が開発されたのさ。それに伴って、クローン技術も確立し、人間のクローンが作られることも容認されたのさ。で、国の指導者は同じ人物がやり続けたほうが混乱を生まない、って話で、いつまでも同じ顔して同じ老け方のおっさんたちが政権を握ってるのさ。

そんなわけだから、君もふるさとで食べた料理の味を忘れかけたら来るといい。きっと何代目かの僕が出てくるはずさ。


それじゃ、ここで何を聞いたかはすっかり忘れて、向こうの食堂でランチしておいで。君の人生に、いい人造料理との出会いがあることを祈るよ。



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