プロローグ3 不幸体質
特に何も悪いことをしたわけでもないのに、原因不明の不幸に見舞われる人間がいる。
天気予報では快晴だったのに、意気揚々と出かければ雨が降ったり。
自動販売機でジュースを買えば、お釣りを落としちまったり。
倒れた植木鉢を起こそうとしたら、苗ごと土をこぼしてしまったり。
せっかく用意した誕生日プレゼントは渡す前に壊れていたり……。
とにかく、何かとあれば原因不明の不幸に見舞われるのだ。
特に、良いことがあった後は、決まってその反動が起きる。
いわゆる、不幸体質。
もちろん医学的な根拠はないし、身体的にどこかおかしくなってるというわけでもないから、病院に行ったって治療のしようなんてないし、相談したところで親も友達も誰もかれもが信じてはくれない。
だけど、これは嘘でもなければ、中二病的な思い込みじゃない。
間違いなく反動は起こるし、突発的で不自然な災難にだって襲われる。
俺とカナンは、そんな特殊な運命を背負った人間なのだ。
だから、今日みたいな事は、決して珍しくなんかない。極めて良くあること、なんだけど……。
先々月の俺の誕生日の日。
カナンは俺の三番目に好物である麻婆豆腐を作ってくれた。
食卓に並べた大皿に、微笑みながら鍋から取り分けるカナンを、俺は少しこそばゆい気持ちとバチに対する恐れを抱きながら見つめていた。
ところが、盛りつけ終わったそのとたん、ピシッと嫌な音を立てて――皿は見事真っ二つに割れてしまった。
急な温度変化に耐えられなかったのか、或いはもともと小さなヒビでも入っていたのか。
原因は判らない。
大皿は、亡くなられた彼女のお母さんから貰った物だった。
苦笑いを浮かべながら、ビニール袋に皿の破片を入れ、雑巾で食卓を拭くカナンの姿は、見ているのが辛かった。
代わりになる物なんてあるわけがない。
それでも、少しでも埋め合わせになればと、仕事の合間にあっちこっち巡って、ようやくこれならと思える物を見つけたのにな……。